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大工町公園改修の舞台裏 その7

揉めに揉めた市民サイドでの合意形成が無事に終わり、シンボルツリーを残し芝生広場があるワークショップ案が採用されることになった前回。今回からは、具体的な設計のときの話をしていきます。

デザイナー不在で設計する困難

大工町公園の設計には、市民側にも行政側にも建築家やランドスケープデザイナーなど、公園のデザインに長けたプロがいませんでした。我々市民としてはワークショップでこんな公園がほしいと案は出しましたが、それがそのまま実現する訳ではありません。行政には、市民の意見から出来ることや出来ないことを見極め、きちんと法令を押さえつつ、予算内に収め、デザインとしても優れたものに統合する高度なデザイン能力が求められます。

しかし行政の担当者も建築土木系とは言え、何年かで異動もあり、ずっと公園設計をしている人ではない。言い方は失礼かもしれませんが、公園設計のプロでは決してないわけです。

行政としては、1000平米程度の小さな公園であり、自分たちで設計できると考え予算化もしていなかったのでしょう。デザインするのは、行政の担当者です。図面を引いたりする施工会社は決まっていましたが、あくまで行政の指示で図面を引くだけという感じです。もちろん自前で出来ることはやるに越したことはないです。しかし、誰が作っても同じになるような簡単な設計ならいいですが、大工町公園は市民の意見も取り入れるという割と高度な設計です。

それゆえ、行政がつくる設計図では、市民側の意図と違うということがしばしば起こりました。

例えば、こんなことがありました。行政としては、安全を担保するために、ワークショップ案のまま街にオープンに開かず公園ぐるっと柵で囲ってしまいたいという話をしてきます。でも市民側としては、安全性は分かるけども、まちと公園の繋がりを考えたときには、なるべく柵はやめてほしい。できるなら、まちと公園が一体になるようにしたい。そうしたときに、どうやってデザインとして安全性とまちの繋がりを両立するのか。これは本来はデザインのプロじゃないと解決が難しい問題です。

そうは言っても現状プロがいないのは仕方がないので、市民側としても、ない知恵をしぼって、こんな形なら出来ませんか?というアイディアを色々出します。私も一応、これまで建築不動産で仕事をしてきて、それなりに設計も分かってしまうので、変な設計にされては困るし笑、たくさんアイディアを出しました。

例えば、柵の話に対しては以下のようなアイディアです。芝生広場に面するベンチと道路に面する植栽帯を互い違いにすることで、オープンにしつつも、飛び出し防止もできる。こういうものを行政にぶつけてみるわけです。

わたくしの下手くそなアイディアスケッチ笑


そうして、ベンチと植栽帯の配置を工夫することで広場からの道路への飛び出しを抑えることで、柵はなしでもよいということで進むことになりました。そんなやりとりを続けながら、設計作業を進めていきました。

公園緑地課からの設計案。柵はなくてよいことに。
検討が進んでつくられた今の原型となる設計案。
出てきた図面には、細かく何度も意見出しをしました。


そして、コロナ禍へ突入

設計の大枠が固まったくらいで、コロナ禍が始まります。それもあってか、当初2019年度に設計も終わらせて、2020年度には工事をするという予定が延期になりました。私としては、急ピッチで進む設計に詰めの時間がないことに不安がありましたので、ゆっくり設計の時間が取れるのは良いことだと、そのときは思っていましたが、これは大きな誤算でした。

どんどんいなくなる理解ある行政職員たち

そうこうしていると、設計担当の女性の職員が、産休育休を取るために長期のお休みに入ってしまいました。

また、2021年には、設計担当の女性の上司も異動になります。(最終決戦の場で責任を取ると言ってくれた理解者です)

さらに2022年には、公園運営の仕組みをつくるはずだった管理部門の担当者も異動になってしまいました。

そうして、ワークショップから一緒にこれまで闘ってくれて、経緯や市民の想いが分かる職員が誰もいなくなってしまったのでした。

新しく来た方々も、仕事としては一生懸命やって頂いていたのだろうと思いますが、想いがあって取り組めるかどうかは、仕事に対するパフォーマンスが随分と違うはずです。

これまではワークショップなどを通して公民連携の意義などを伝え続けて共感もしてくれていたからこそ、共に同じ目標に向かうチームにもなっていましたが、全てがゼロに戻りました。

ここから先は、また何も公民連携の意義も目的も分かっていない人たちですし、信頼関係もありません。
私が何を言っても、基本的には、面倒なことを沢山言って来て仕事を増やす民間人です。真摯に対応しようというよりは、都合の良いところだけは聞いてあげよう、面倒なことは無視しようみたいなスタンスに変わってしまいました。

またしてもウルトラハードモードに突入です笑。

役所あるあるかも知れませんが、公民連携を進めるなら、ここは行政には押さえておいてほしいポイントです。ある日突然よく分からない担当に代わって、今までの積み上げがゼロになる。そして想いも経緯も共有されていない担当者次第でどんどん当初の意図が変わってしまう。これは民間にとっては結構なリスクです。民間だって組む相手は選びます。選ばれる行政とはどんな組織でしょうか。公民連携の取り組みで有名な岩手県紫波町のオガールプロジェクトでは、プロジェクトが落ち着くまでの10年間、担当者の異動はしなかったそうです。

それでも、できる限りのコミュニケーションをとっていく

さて、コロナもあり、打ち合わせの頻度はあまり高いとは言えませんでしたが、それでも図面が出来たときなどには共有をして頂けました。そうしたタイミングでは、細かい仕様についての意見やアイディアをできる限りぶつけました。

こんなパースもつくってくれました。絵で見ておかしい所も、すべて確認して意見は伝えました。

結局、改修工事は、2021年の半ばから始まりました。しかし大きな設計は固まっているとは言え、詳細は詰まっていません。工事が進みながらも、ここはどうなっている?と疑問が湧くたび意見をぶつけ、間に合う設計変更などは、随時してもらいました。

間に合った変更箇所で、これは良かったなあと思うのは、看板のデザインです。形状は前々から意見を言っていたので、看板の下に掲示板もつけたものを採用してもらえました。記載内容についても意見を出したいという旨を伝えていたら、ある日、これでいこうと思います、という連絡が来ました。

行政からの看板デザイン案

うーん、これは笑。担当者には申し訳ないですが、色味も変だし、バツばかりで、今までの何でも禁止の公園と内容が何も変わっていない。せっかく公園協議会で利用ルールまでつくれるのに、最低限書いておくルールがこれではつまらない。まあ、これまでの公園の看板はこんな感じでしょうし担当者にも罪はないです。全部指摘したらキリがないくらいでしたが、丁寧に意見を伝えました。

そうして、出来たものがこちらです。8割方意見を採用してもらえました。

看板下部には掲示板もあります

元々のデザインと、どこが違うか分かりますか?
色々と変更していますが、中でも革新的なのは、「火器の使用禁止」ではなく、「火器の使用には許可が必要です」になっている辺りです。公園って実は安全が確認されて許可さえあれば火も使えます。協議会でルールもつくれるんだから、何でも禁止にせず、書き方の工夫で、看板からなるべくバツ印を消しましょうという意見からこうなっています。まあ、それでもバツ印ばっかりですが笑、真っ赤っかのバツをせめてやめて、柔らかく緑にしてもらいました。

管理運営の仕組みもつくる

設計施工と並行して、公園協議会と管理運営の具体的な中身も詰めていきます。
規約は行政側でフォーマットのようなものがあったので、ベースはお任せしましたが、細かい部分は運営しやすいように変更を加えていきます。また、運営組織の体制や、運用ルール、貸し出しルールの詳細などは、すべて市民側が使いやすいように私がベースを考えました。
ある運営検討の会議で問題になったのは、公園協議会の代表を誰にするのかということ。行政からは「ぜひ松本さんにお願いしたい」という風に言われます。まあ、私も言い出しっぺですし、立ち上がった後もしばらくは見届けないといけないかと思っていたので、「シングルファザーであまり動けないが、周りがサポートしてくれるなら引き受ける」と答えていました。

違和感

一方で、いや、一体私はボランティアでどこまでやるのよと正直思ってきていました笑。何でもかんでも私がやることが当たり前になっていました。なぜ誰もそこは気にならないんだ笑?私の時間とやる気は無尽蔵とでも思っているのか?とこの頃からちょいちょい頭をよぎっていました。実はこの違和感、間違ってなかったんですよね笑。

そうして、やっぱりな〜という感じでしたが、大問題が起こるのです。

次回に続きます。



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