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マイセンの「麦わら菊」のコプヒェン(koppchen)を購入した話

3年ほど、ずっと探していました。

ロイヤルコペンハーゲンの開窯当時(1775年)からある人気ラインナップである「ブルーフルーテッド プレイン」

ロイヤルコペンハーゲンの開窯当時(1775年)からある人気ラインナップ「ブルーフルーテッド」
引用元:Royal Copenhagen "Blue Fluted Plain" Porcelain Tea Service | Ross-Simons

それのオリジナルにあたる「マイセン」の「麦わら菊模様(Strohblumenmuster)」が考案され、世に出回りはじめたのは1740〜1750年ごろと言われています。

引用元:Meissen underglaze blue rinsing bowl | National Museum of American History

ロイヤルコペンハーゲンはその模倣を行なっていたところのうちの1つであり、のちにマイセンから正式に麦わら菊模様のパターンを買い取り(最初はペインターをマイセンから引き抜こうとしたりもしつつも)独自に進化させ、ブルーフルーテッド(パターン)へと昇華させていったのでした。

麦わら菊模様の中古品が出回ることは決して珍しいことではありませんが、現在のティーカップよりも原始的なコプヒェン(koppchen)が出回ることは大変希少で、探すこと3年。

ついにドイツで、オークションにかけられているものを見つけ今回買い求めました。

撮影:著者

コプヒェン(koppchen)とは

コプヒェン(koppchen)についても少々説明しておきます。

現在使われているティーカップには取手、ハンドル(持ち手の部分)が存在します。

撮影:著者
金の部分がハンドル(持ち手の部分)

コプヒェン(koppchen)はそれが付いていない品で、まだコーヒーを飲む際はカップに直接口をつけるのではなく、ソーサーに移し冷ましてから飲むことが一般的だった頃の、そのためソーサーが今よりも遥かに深かった頃の品になります。


ルイ・マラン・ボネ「コーヒーを飲む女」(1774年)

自分が初めてコプヒェンの存在を知ったのは、7年ほど前に大阪旅行の際に立ち寄った「ザ・ミュンヒ」にて、マイセンのコプヒェンを見せていただいた際のことです。

一切の無駄がなく、研ぎ澄まされた造形美と装飾に一瞬で心惹かれました。

「いつか自分もこういうカップを手にしたい」

当時はコプヒェンという言葉も知らず、またその時はそうは思ったのですが早々に自分の財政状況では購入できるとは思わず、数年間は気にもとめていませんでした。

ところが直近で数年家の中で過ごす日々も増え、自宅で珈琲を淹れて飲む機会も増えた際にふと思い出し、色々と調べていくうちに…

  • こういったカップのことをコプヒェンと呼ぶ

  • 自分が以前に目にした作品はマイセンのものであること

  • 現在は作られていないこと

  • 現在のティーカップの先祖にあたるような形状であること

上記のようなことを知り、特に調べていくうちに造形美から心惹かれた「麦わら菊」を探し求めるようになったのです。

そもそもマイセンとは?

マイセンについても解説しておきます。

元々マイセンは「中国、日本などの極東で生産されてる、美しい白磁器を自国でも生産できるようになりたい」というアウグスト2世の個人的な要望に端を発し、錬金術師ベドガーが中心となって立ち上がった「王立ザクセン磁器工場」がベースとなっている磁器ブランドです。

参照:ヨハン・フリードリヒ・ベトガー|マイセンでヨーロッパ初の白磁器焼成に成功!輝かしい功績と苦難の生涯 – Woburn Abbey

当時は茶会でお互いに持参しあったコプヒェン(koppchen)の装飾を褒めあったのだとか。

自分の場合、そういった派手な装飾が施されたものは実用性が低いためあまり興味がなく(高額で取引されているため中々手がでないというのもある)実用性があり、歴史的にも大変面白い「麦わら菊」のコプヒェン(koppchen)を探し求めていました。

「麦わら菊」は発売された当初、非常に話題となったのには理由があります。理由は次のとおりです。

  1. 低価格なので中産階級も購入可能

  2. デザインがシンプルで低コスト量産が可能

  3. 「1.」と「2.」の理由からヨーロッパ中で模倣された

話題に事欠かなかった麦わら菊ですが、のちにマイセンは前述したとおり、麦わら菊模様のパターンをロイヤルコペンハーゲンに売り、生産から撤退しています。

一般に「マイセン」と言えば「ブルーオニオン」が有名です。

引用元:ドイツの名窯マイセン 日本公式サイト|ブルーオニオン

しかし18世紀時点ではブルーオニオンは全く売れず、19世紀にならないと存在感もなかったとのこと。

つまり「麦わら菊」は、ヨーロッパの白磁器ブームの火付け役的な存在であったわけです。

それを今回、手に入れました。

実際に使ってみてどうか

まず、全体的に造形が非常に美しい。

撮影:著者

細かいところも見てきましょう。

ソーサーは前述した理由によって深みがあり、取手がないことで無駄がなく、またこれはこの品に限らずですが、とても一見しただけでは実は280年前の品とは思えないほど時代性をいい意味で感じさせません。

撮影:著者

ところどころでチップ(欠け)はあるものの、280歳のカップにそのまでの完璧さは求められません(苦笑)

撮影:著者
撮影:著者

存在するだけで、凛とした雰囲気を発揮します。

撮影:著者
撮影:著者

実際にデミタスコーヒーをネルドリップで淹れてみて、歴史を楽しみにながらカップに口をつけることによって、より深い味わいを感じるような気もします。

撮影:著者