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『ピンクとグレー』友人に嫉妬してまうことってあるよね。

「そう。僕自身分からなくなっている。有名になりたくてもなれなくて、有名になったやつが苦しんで。僕はいったいどうなりたいのだろう。」


第164回直木賞候補作に加藤シゲアキさんの『オルタネート』選ばれたということで、気になってはいたけど読めていなかった本作を読了しました。

いや~めちゃくちゃおもしろかった!

エンタメ小説として、早く続きが読みたくなる展開に、一緒に過ごしてきたはずの友人だけが有名になっていくにつれてこみ上げてくる嫉妬や憎悪の感情がしっかりと組み込まれていて、これを一ヶ月半で書き上げたというからびっくりです。

読み終えた後、ぼくにとっての親友の顔を思い浮かべちゃいましたね〜。

本作は

- 友人に嫉妬したことがある
- 切ない物語が好き
- 男の友情を知りたい女性

におすすめの小説です。

著者紹介

著者の加藤シゲアキさんは言わずもがなジャニーズのアイドルグループNEWSのメンバーです。

第164回直木賞の候補作にも選ばれ、アイドルの活動もこなしながら、年に1作のペースで小説を執筆をしているそうです。すごいですね。

内容紹介

主人公の河田大貴は、ある日曜日、ドキュメンタリー番組を視聴します。番組で特集されていたのは友人であった白木蓮吾。

彼の生い立ちが語られながら、振り返るように写真も映し出されるが、大貴と写っていたはずの写真は編集され、蓮吾のみが写ります。大貴はこの時、遊真だった彼との関係ははっきりと断絶されたと思います。

なぜ彼との関係は途切れなくてはならなかったのか。彼との出会いから、現在までが交互に語られていく青春小説です。

正直、ナメてましたね、、、。

乃木坂46の高山一実さんの『トラペジウム』のときもそうだったんですけど、テレビでご活躍されている方の小説ってなんかミーハーとか思われそうで手をとるのをためらってしまうんですけど、やっぱりこういう偏見はやめたほうがいいですね(笑)

というわけで、何がすごいってのを3つのポイントでまとめてみました。

①続きが気になる構成

本作は、まず大貴の現在視点で語られます。
そして蓮悟との出会いや彼と過ごした青春時代の回想が描かれながら、また現在と交互に語られていきます。

二人でバンドの曲を披露したり、同棲したりと仲睦まじい様子に微笑ましく思っているのもつかの間、現在の視点では、一躍有名になった蓮悟への嫉妬や憎悪の描写になったりします。
なんでこうなってしまったの!?と疑問を抱かざるを得ない展開です。

例えば第6章で17歳の二人がお昼ごはんを決めるシーン。

「わかった。じゃああの左から三番目の改札を次に通る人が女だったらオムライス、男だったらラーメンってのはどう」

「ファレノプシスなゲームだねー。シンプルでいいかも。でもマックは?」

彼は飲み干した缶コーヒーを自販機の横に捨てに行き、戻ってくる頃には僕の問いにも答えを出した。

「じゃあ性別不明のときはマック」
「つまりマックはなしってことな、おっけー」
「分かんないよ、そんなの」

記憶に残らないようなくだらないことをするのが青春だと思っているので、僕はこの場面がとても好きです。

かと思えば24歳に戻り、蓮悟の出ている映画を感想を語る場面では

そして本編。
一人の男が歌手として生きる成功と苦悩を描いた作品。
陳腐な台詞。時折混じる笑えないギャグ。わざとらしい手持ちカメラ。
バンド解散。
大胆なカットバック。
安っぽい恋愛シーン。
まとまりのないストーリー。
友情と純愛を描く脚本。
原作は小説?うそだろ。

もうボロクソですね(笑)
当の本人をなじるのではなくて、映画自体の悪口を言うのは明らかな嫉妬ですよね。

爽やかな青春とドロドロの嫉妬が繰り返されるのがまた、感情に緩急をつけさせてくれるので飽きないで読めちゃうんですよね。


②二人の孤独

物語の大半は大貴の目線で語られていくのですが、終盤では蓮悟の目線で語られる場面も加わってきます。

ある場面で一方はこう思っていたけど、もう一方はこう思っていた、といった複数の視点で描かれる小説はよくあります。

こういった小説の面白いところは、第三者目線で感じることができるところです。
互いの共感やすれ違いにもやもやしたり、そうだったのかと感情を動かされる点にあると思います。

もちろん本作も、大貴の目線、蓮悟の目線で同じ場面が描かれているんですけど、二人の思いのポイントはズバリ「孤独」にあるのではないかと思いました。

友人が有名になっていく様子を肌で感じながら、自分はずっと変わらないままでいる大貴。一方で蓮悟も大貴にも早くこちら側の楽しさを味わってほしいといった思いがありますが、大貴はその気持ちをわかってくれません。

こういった思いのすれ違いから、蓮悟もやはり孤独だったのではないかと感じられます。

③ピンクとグレー

赤と白を組み合わせてできるピンクと、黒と白を組み合わせてできるグレー。どちらも中間色であるピンクとグレーですが、一方は明るくて、一方は暗い。

芸能界で華々しく活躍する蓮悟と、
変わることのない生活を送っている大貴。
そして、曖昧な二人の関係も含めて、抽象的に表されているタイトルだと思います。

著者の加藤シゲアキさんのインタビューが文庫の末尾に掲載されていますので、そちらもぜひチェックですね。

個人的に好きな文章

「いつも私と同じ電車に、音楽を聴きながら本を読んでいる男の子がいて、その制服は私と同じ学校のものでした。私は高校二年生の三島藍です。親しくなりたくてこのような手紙を書かせてもらいました。連絡待ってます。」

すごくロマンチックな文章で、独白で言ってみたいです。


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