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短編小説ー死の悲しみ

#死
#短編小説
#死の悲しみ

1人の女の子が死んだ。13歳、王子の妹だ。死の原因は不明、傷一つなし、毒薬の痕跡なし。調査失敗。誰一人とも原因を突き止めることはできなかった。
だが、王子は涙一つ落とさなかった。妹がしんなことに悲しみを持たないかのようだった。メイドたちは不安だった。自分の妹が死んだのだ。原因もわからない。突然悲しみ嘆くだろう。だが、王子は涙一つ流さなかった。
いつものように暮らしていた。
その情報が国民に知らされると国民は黙っていない。王子が国民の前に現れると文句が国民の口から現れてきた。
「なぜ悲しまない!」「自分の娘だぞ!」「愛していないのか!」全員の目が真っ黒に見えた。兵たちが抑えようとしたが、騒ぎを抑えることはできなかった。
王子は目の前にあったフェンスを力いっぱいたたいた。「嘆いてどうなる!」王子は歯を食いしばっていた。「泣いてどうなる!悲しんでどうなる!妹は死んだ!妹は嘆けば帰ってくるのか!帰ってくるわけない!死ねば生き返るわけない!受け入れるしかない!」国民は王子を眺めていた。
今まで耐えていたのか王子の目からはぽろぽろと涙が流れ出た。拳を握りながら王子は涙の出る目で国民をにらんだ。「お前たちに何がわかる!今までで嘆いて死人が戻ったことなどない!あったとしてもその人物は死んでいなかった!だが妹はもう死んだ!帰ってくるわけない!だからあきらめた!ほかに何の選択肢がある!死ぬ?そんなことをすればお前たちが困る!次の国王がいなくなる!だからその選択肢もない!何もできないんだ!」王子は歯を食いしばり、こぶしを握りながら言葉を巻き散らかしていた。今まで歯を食いしばって言わなかったこと、心の中に閉ざしていたことを。
国民は誰一人何も言わなかった。ただ、ボーっと王子の言葉を聞いていた。誰一人批判しなかった。誰一人動かなかった。
王子の声は街中の端まで届いていた。「お前たちに聞く、嘆いてどうなる!悲しんでどうなる!」誰一人答えることができなかった。
沈黙… だが、王子は知っていた。誰が殺したのかを。だが、言わなかった。いえば自分に悲劇がわたってくる。どうやって彼女が死んだかもわかっていた。すべてを彼は見ていた。恐怖の顔を知っていた。そして復讐をとるつもりだった。必ず殺すつもりだった。だが、誰もいない場所で殺さないといけなかった。その男は憎い。ここで殺したいほどだ。
城の中へと戻っていくとメイドたちから逃げ出し、走り続けた。妹を、愛しい妹を殺した人物を殺すために。走り続けると屋上に来た。下を見れば10メートル以上だった。
知っている。誰が愛しい妹を殺したのかを。知っている。すべてを。見ていたのだから。だが、何もできなかった。
そこへメイドたちが駆けつけてきた。「王子さま!」
「ごめんな、父上」1歩前に行くと真っ逆さまに落ちていった。「王子さまー!」スローモーションに感じた。地面がだんだんと近づいてくる。
ああ、ここで終わった。人生も、復讐も。王子は目を閉じた。殺した犯人を知っていた。そしてその殺した犯人は…
王子だ。

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