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「病室で念仏を唱えないでください」 神回の第7話

先週のねんとなは「神回」

救命が現場のドラマなので、人の死はつきものです。第7話では、松本先生が少年時代に川で溺れて助けられなかった友人の父(泉谷しげる)が、肺がんのステージ4で、余命幾ばくかの中、一切治療は治療はしないと、松本の言葉も、家族の言葉も頑として聞かなかった。家族に迷惑をかけたくない。良い死に方がしたいと。

そして、救命に搬送された一人の女性・前田は末期の乳がんで、泉谷さんと同様、治療を拒否していた。この二人の命を巡るお話。

神回だったので、気合い入れてコラムになっていますので、ぜひ最後までお付き合いください(^^)


感動の物語

前田は、自分の好きなように生きてきた迷惑ばかりかけてきた。残り僅かな人生は罪滅ぼしをするだけだと、人生の最期を迎えようとしていた。
クリスチャンでありながら、お坊さんでもある松本のことを気に入り、説法をしてほしいとお願いする。

「如実知自心」

それは、あるがままの自分の心を知る、ということ。

前田は「色ボケババア」と即答する。それが「あるがままの私」だと。死ぬ前にもう一回男と遊びたかったと言うと、松本はデートに誘う。

松本は、研修医が持っていた「患者の心と対話する」という本を見つけたことで、泉谷さんを誘ってキャンプに出かける。

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のどかな自然の中、泉谷さんとも核心をつく話はできなかったものの、若い女性に火起こしを頼まれたり、熊に遭遇して命からがら逃げたり、特別な時間になるのだった。そして、肺がん日記のブログをしていたことを知る。そこには

「私は醜態を見せることなく
 正しく死んでいきたい」

と書かれていた。

後日松本は、前田とのデートに出かける。車椅子に乗る前田はデートプランを訪ねるが、松本が立てていた予定を無視して、ショッピングモールに寄る。前田に振り回されてやってきたカフェで、昔娘を捨てたことを話す。娘の家庭教師と駆け落ちしたことや、数々の男性遍歴。

思い出話の途中、ふとカフェの一角にいるネイリストに目をやると、自分が死んでも世界は回っていくんだとしみじみと語る。そして、自分の最後の仕事は

「娘にきっちりと憎まれて、思いっきり文句を言われること」

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「娘さんに謝りたいんですね」と松本が聞くと、前田はこう答える。

「私、謝らない。懺悔もしない。だって、私が謝ったら、娘が文句言えなく
 なるでしょ?文句言われて、情けない姿見せられたら、それで十分」
「自分の業は、自分で引き受けないと」

日が経ち、前田はいよいよその刻を迎える。そこに、娘も来ていた。意識があるうちに、

「私に言いたいことたくさんあるんじゃない?
 文句あるでしょ?」

と声を絞り出す。
娘は、

「ふざけんな!今更文句なんて、あり過ぎて、勝手に生きて、勝手に死ぬって、
 今までどれだけ私が・・・。
 私は、絶対いい母親になる。
 あんたみたいにはならない。この色ボケババア!」

その言葉に母親は、満たされたかのような顔で、涙を流しながら亡くなっていった。

霊安室には、亡くなった母親に寄り添う娘。娘が電話をしに部屋を出ると、母親の爪にはネイルが塗られていた。松本は、カフェで前田が見つめていたネイリストが娘だったことに気付く。そして、誰よりも娘のことを愛していたことも。

娘に対してみっともなく生きた前田の姿を見た松本は、泉谷さんの元にいく。医者でも僧侶でもない、一人の人間として、友達として、「1日でも長く生きしてほしい」と気持ちを伝える。

考えた言葉でも、医者として、僧侶としての言葉でもないありのままのわがままな本音は、泉谷さんに届き、治療を受けることを決めたのだった。


治療をして醜い姿を見せたくないおじさんと、治療をしないことで、醜い姿を晒して死を望む女性

今回の話は、この二人を対比して描かれました。

その女性は、自分の好き勝手生き、家族にも迷惑をかけてきた。死の間際だからといって、許してもらおうなんて思っていない。彼女の望みは、自分の欲のままに男を取って、捨てた娘に罵られ、憎まれて死んでいくこと。そうすることで、自分の人生の報いを受け止めようとしました。
人は誰でも愛されたい生き物です。それでも、母親として、許しを乞うのではなく、好き勝手生きた報いとして、「憎まれる」ことを選びました。

「嫌われる勇気」と言われていますが、望んで憎まれようとすることは、普通ではできることではありません。もちろん、そうするしかなかったかも知れませんが、それでも、死ぬ時くらい、許してほしいと思うものではないでしょうか。死んだことないのでわかりませんが(笑)、身近な人が亡くなる時、やはり良い思い出を探したり、もう仕方ないよね、と思うのではないでしょうか。

母親の最後の愛が、「憎まれること」ということで、それを受け入れることができるのは、途轍もない勇気であり、真似できない愛ではないでしょうか。

娘さんにとってその母親は、自分を捨て、家族を捨て、自分勝手に生きた恨むべき相手です。間違いなく「悪」だと言えるでしょう。その母親は、娘にとって「悪」になることを選びました。そうすることで、娘が自分を反面教師にして幸せに生きて欲しいと願っていたからです。

母親の死後、娘はネイルを塗っていましたが、もしかしたら、母親の気持ちに気付いていたのかも知れません。そこは描かれていないのでなんとも言えませんが、娘も母親になっていたので、もしかしたら、何かを気付いていたのかも知れません。


神アニメ『コードギアス』との類似点

私が運営している、虹見式による神アニメランキングでも第1位に輝いた『コードギアス』では、それを「ゼロレクイエム」として描きました。主人公のルルーシュは、自らが史上最悪の絶対皇帝となり、自らを自身が演じていた正義の味方「ゼロ」によって殺されることで、ルルーシュが愛し、「虐殺皇女」としてしまったユフィの汚名を濯ぎ、世界を一つの支配から解放させることとなりました。


この母親がしていたことは、まさにこういうことです。

母親は、娘を捨てて男を取りましたが、だからと言って、娘への愛がなくなったわけではなかった。もちろん、好きに生きて、病気によって余命が僅かになったからこそ、残りの命を娘の為に使おうとしたんだと思います。

松本先生とのデートで入ったお店の中から、娘を眺めていたが、それは間違いなく、娘に対する母親の愛でした。

そのことを伝えたかどうかは描かれませんでしたが、娘がいつかそのことを知ったり、その愛に気付いた時、憎しみが消えることはなくても、母親の愛を受け取ることができるんだと思います。


神アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』との類似点

昨年、京アニ放火テロという痛ましい事件がありましたが、その京アニが製作した『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第10話で描かれた感動の神回は、まさにそんな愛を描いています。

この回は、涙なしには語れない、「絶対神回」と言えるでしょう。内容は全く違いますが、愛の伝え方や愛の奥深さは、通じるものがあると思います。知らない方がいたら、ぜひ一度チェックしてみてください。私は、このコラムを泣きながら書き上げたので(笑)


「"せい"を"おかげ"に」する死に様

母親がしでかしてきたことは、取り返しがつくものではありません。母親は、犯した罪を償い、謝罪して精算するのではなく、罪は罪として背負い、むしろ恨まれることで、悪としての役割を果たそうと、厳しい道を選びました。感謝されるような生き方でなかったのはもちろんですが、許されるのではなく恨まれることを選ぶことは、そうそうできるものではありません。

「せいをおかげに」といつも言っていて、耳タコの方もいるかもしれませんが、この母親がしたことは、まさに命がけで「せいをおかげに」する死に様だったと思います。

もちろん、娘が自分の愛を気付いてくれるのか、受け入れてくれるのかはわかりません。そして、愛に気付いて欲しいとも思っていないんだと思います。ただ、娘にとって、自分の存在があったことで、幸せでいて欲しいと思ったのでしょう。

ただ、死を前にした自分にできる愛は、自分の思いを伝えることでもなく、直接知ってもらうことでもなく、許してもらうことでも、感謝されることでもなく、「恨まれること」だったのです。

死が近かったからこそできたことかもしれませんが、きっと、病気がわかった時から、娘の為に厳しい道を選んだんだと思います。

その母親の生き方は、決して褒められるものではなく、推奨するものでもありません。
ただ、愛し方は単純なものではないと実感します。まさに、「ウラヨミ」しないと感じることができないものだと思います。優しいだけが愛ではない。何かを与えるだけが愛ではない。本物の愛は、表面的なものではなく、裏を読まないと知り得ることはないと思います。


ドラマを見る私たちにとっては、メタ的に見えるので、母親の思いを知ることはできますが、娘の立場で母親の愛を知ることができたら、"せい"にしたくなるほどのことなので、相当な"おかげ"のリターンがあることでしょう。きっとそれは、すぐにわかるものではなく、時間がかかることでしょう。

母親の愛は描いていましたが、娘の思いも描いていれば、とんでもない神回になったのではないかと思います。この母娘のエピソードだけであれば、そこまで描けたかもしれませんが、泉谷さんとの対比を描かなければならなかったので、仕方ないのかもしれませんが、それでも、神回と言える回になったのではないでしょうか。

今回はかなり長文になってしまいましたが、とても素晴らしい回だったので、気合が入ってしまいました(笑)

実は、まだ面白い発見があったのですが、それはまた別のコラムでお送りしたいと思います。それと、「先週の松本さん」も、そちらのコラムでお送りいたします(笑)

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