【大事なメモ】低栄養とは:高齢者の症状と予防・対策

〇低栄養とは
 低栄養とは、食事量の減少や食事内容の偏りなどの理由から栄養状態が悪くなり、身体を動かすために必要なエネルギーやたんぱく質やビタミン、ミネラルと言った栄養素が慢性的に不足している状態をいう。低栄養の状態が続くことで、健康な状態を維持することが難しくなる。

〇低栄養になることのリスク ¹⁾
 高齢者が低栄養になると、身体を動かすのに必要なエネルギーや、筋肉や骨などを作るたんぱく質が足りない状態のため、死亡するリスクが高くなる。また、筋肉量が落ちて活動量が減ってしまうことによって、さらに食事量が落ちてしまうと、筋肉量・活動量も落ちるという悪循環を招き、寝たきりになってしまう可能性がある。

 低栄養の高齢者の割合は意外と高く、厚生労働省が2019年に実施した「令和元年国民健康・栄養調査」によると、65歳以上の高齢者でBMI20以下の低栄養傾向の人の割合は全体で16.8%、男性は12.4%、女性は20.7%であった。高齢者の女性は約5人に1人が低栄養という結果であった。

 また、BMI20以下の低栄養傾向の人の割合を年齢層別にみていくと、特に男性は年齢が上がるにつれて増加する傾向がある。85歳以上では、男性の17.2%、女性は27.9%も占めている。

厚生労働省でも、2013年度から10年間の「健康日本21(第二次)」において、「低栄養傾向の高齢者の割合の増加の抑制」を目標に設定していることからも、低栄養の改善は高齢者の健康維持のために重視するべきことと言える。

〇低栄養による症状
低栄養状態に陥ると、身体への影響から様々な症状がみられる。具体的な症状について、次の3点から紹介する。

低栄養による具体的な症状
・筋力・運動能力の低下
・免疫力の低下
・低血糖による意識障害

低栄養によって筋力が低下することで運動能力が衰えると、転倒する原因となり、骨折をして寝たきりになってしまうこともある。また、ビタミンAやビタミンCが不足することで、免疫力低下によって感染症にかかりやすくなる。ごはんやパンなどの炭水化物の摂取量が減ると、低血糖による意識障害を招く恐れがある。

・筋力・運動能力の低下
 高齢者は若い頃よりも筋肉が減少していますが、筋肉の中にはタンパク質が蓄えられている。低栄養によって体に必要なタンパク質が不足すると、筋肉の中のタンパク質が使われることで、筋肉量が減少して筋力が低下する。すると、運動能力が低下するため、転倒の原因になる。転倒は捻挫や打撲、骨折といったケガにつながり、中でも骨折は寝たきりの要因にもなり兼ねない。

 また、口や喉の筋肉が衰えると、飲食物や唾液が気官に入りやすくなり、咳をする力も弱まって異物を吐き出しにくくなってしまうことからも、誤嚥性肺炎になるリスクが高まる。

 さらに低栄養によって体力が落ちることから、疲れやすくなってしまうため、活動量が減ってしまい、ますます、食事量の減少や運動能力の低下を招いてしまう。外出が億劫になることで、社会とのつながりが途絶えてしまいやすくなることも懸念される点である。

・免疫力の低下
 ビタミンAは目や皮膚、粘膜を健康な状態に保つことや、抵抗力を強める働きがある栄養素で、レバーやうなぎ、チーズ、バター、卵、緑黄色野菜などに多く含まれている。ビタミンCは皮膚、粘膜を健康な状態に保つことや病気などのストレスへの抵抗力を高める働きがあり、果物や野菜、芋などに多く含まれる栄養素である。ビタミンAやビタミンCの摂取量が減少することで、免疫力が低下すると、風邪や肺炎、感染症などにかかりやすくなる。

・低血糖による意識障害
 米やパン、麺類といった炭水化物の摂取量が減ってしまうと、血液中のブドウ糖の濃度を示す血糖値が低くなる、低血糖が引き起こされることがある。低血糖によってだるさや冷や汗、動悸、めまい、集中力の低下といった症状が見られるほか、重度の場合は意識障害やけいれんなどが起こる。

〇高齢者が低栄養になる原因
 高齢者の低栄養になるのは、様々な原因が関係している。低栄養になる主な原因として、次のものがあげられる。

・身体的要因
・環境的要因
・精神的な要因

〇低栄養であることを判断する基準
 低栄養の状態に該当するかは、様々な検査の結果や食事の状態などから総合的に判断される。食事でポイントになるのは、食事量の減少や偏食があるかといった点である。低栄養状態を判断するために用いられる指標は以下の3つである。²⁾
・BMI 20kg/m²以下
・体重減少率
 1か月以内に3%以上の減少
 3か月以内に5%以上の減少
 6か月以内に7.5%以上の減少
・血清アルブミン値 3.8g/dl以下
 さらに注意 3.5g/dl以下

・BMI
 BMIとは身長と体重から求める体格指数で、低体重や肥満の判定に用いられている。BMIの値が18.5以下が低体重とされていますが、高齢者で低栄養のリスクがあると判断される基準はBMIが20以下である・

BMIは以下の計算式で算出する。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

BMIは体重を身長で2回割って算出しますが、身長はcmではなくmで割るという点に注意が必要である。また、高齢者は加齢とともに身長が縮んでいることがあるため、現在の身長から算出する。

・体重減少率
 体重減少率は、通常の体重に対して現在の体重が減少した割合を示すものである。体重減少率が1カ月で3%以上5%未満、3カ月で5%以上7.5%未満、6カ月で7.5%以上10%未満の場合は、低栄養の中リスクとされている。この数値よりも体重減少率が高い場合は、低栄養の高リスクとされる値である。

また、6カ月以内に体重が3%以上減少した人や、6カ月で体重が2~3㎏程度減少した人は注意が必要です。
以下の計算式で算出する。
体重減少率=(通常の体重-現在の体重)÷通常の体重×100

・血清アルブミン値
 血清アルブミンとは、血液中に含まれる主要なたんぱく質で、血液中のたんぱく質の約6割を占めている。血清アルブミンは栄養や代謝物質を運ぶほか、浸透圧を調整する役割も持っている。

 血清アルブミン値はセルフチェックができず、調べるには医療機関での血液検査が必要。血清アルブミン値の正常値は4.0g/dl以上で3.8g/dl以下は低栄養のリスクがある状態で、3.5g/dl以下はさらに注意が必要とされている。ただし、高熱や何かしらの炎症を起こしているときなど、ほかの疾病でも血清アルブミン値が低下することがあるため、医師の診断を仰ぐ。

〇家庭で気付くためのチェック項目
・食欲が湧かない
・朝食など食事を抜いてしまうことがある
・食事を取ることが面倒に感じる
・1回の食事で食べる量が減り、食事を残すことが多い
・食事中の水分を入れて、1日の水分摂取量が1000mlに満たない
・おにぎりやお茶づけなど主食だけの食事となることがある
・肉や魚、卵などを食べていない
・味覚が鈍くなったことにより、濃い味付けを好む
・かむ力や飲み込む力が弱く、むせやすい
・食事のときに疲れやすい
・食事を作るのが億劫になった
・頬がこけて目がくぼんでいたり、顔色が悪かったりするなど顔つきが変わった
・握力が低下した
・息切れをしやすい
・「疲れた」とよく口にする
・歩幅が狭く、歩く速度が遅くなった
・転びやすくなった
・風邪や感染症などの病気にかかりやすくなった
・傷や床ずれが治りにくい
該当項目が多く、低栄養が疑われる場合はかかりつけの医療機関などに相談する。

〇高齢者の低栄養を予防する方法
 低栄養を予防するためには食事を抜くことは避けて、さまざまな食品をバランス良く食べて、体に必要な栄養素を摂取することが大切である。
 
 糖質や脂質はエネルギーとなる栄養素である。糖質はご飯やパン、麺類などの炭水化物から摂取することができる。脂質は肉類に含まれるほか、調理に使うサラダ油やオリーブオイル、ごま油、バターなどに含まれている。タンパク質は血や肉になる栄養素。タンパク質は肉類や魚類、卵、牛乳や乳製品、大豆や豆腐、納豆などの大豆製品などに多く含まれる。また、野菜や果物、芋などに含まれるビタミンやミネラル、食物繊維を取ることで、体の調子を整えることができる。

 また、かむ力や飲み込む力が衰えている場合は、細かく刻んだり、煮込んで柔らかくしたりするなど、食べやすい形状にする。食欲を増進するには、目でも楽しめるように彩りや盛り付けにも配慮する。とはいえ、毎日、栄養バランスを考えて、食べやすさも考慮して、食事を作り続けるのは大変である。また、一人暮らしや二人暮らしでは、栄養バランスを重視してさまざまな食材をそろえると、使いきれなかったり、同じものばかり食べることになったりする。

市販の冷凍食品や惣菜を活用するのもよいが、高齢者向けの宅配食事サービスを利用すると、栄養バランスや食べやすさに配慮された食事を手軽に取れるためおすすめである。

〇高齢者の低栄養対策のための食事方法
低栄養が疑われる症状が見られる場合は、医療機関を受診する。低栄養の状態では、これまでの食事方法では栄養を十分に取れていないと考えられるため、食事を見直すことが必要。医師の指導のもと、食事の量や栄養バランスだけではなく、食事の時間や頻度も見直すといった対策を取る。

低栄養の状態では効率よく栄養を取るため、1品でいくつかの栄養素を取れたり、高タンパクで高カロリーな食品を入れたメニューにしたりするのがポイントである。特にエネルギーになる炭水化物とタンパク質を摂取することが大切である。また、柔らかく煮込んだり、とろみを付けたりするなど、かむ力や飲み込む力に合わせた形状にすることも大切。

少量の食事しか取れない場合には、プロテインパウダーを料理に加えたり、栄養補給ゼリーやビタミン剤で足りない栄養を補ったりするのもおすすめである。また、今の食事の時間におなかがあまり空かないようであれば、食べやすい時間に食事の時間をずらすという方法もある。1回に多くの量を食べられない場合は、食事回数を増やすことも検討する。

〇参考文献
1.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
2.https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou4-2.pdf


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