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「三浦春馬とHEROたち」(5)

三浦春馬とミケランジェロ


ミケランジェロ(1475-1564)。88才没。歴史的傑作を残し「神のごとき」天賦の才と言われた。その生涯は理想の芸術を追い求め、孤独や迫害と戦い抜いた波乱の連続だった。
 
―苦しみの中から美しい「ピエタ」は生まれた―
 
『ピエタ』(23-25才完成)は、嘆きの聖母子像といわれ、悲しみと受容、さらに愛と慈しみ、愛と安らぎをも感じさせる。
春馬さんが2019年、舞台『罪と罰』の合い間、ちょうどバレンタインの日に歌い遺してくれた『アヴェ・マリア』(カッチーニ/ヴァヴィロフ)の調べとともに脳裏に刻まれている。そして、25才時の主演映画『真夜中の五分前』に映し出される、モーリシャスの慈顔の「マリア像」も、またそうだ。

わたしはそのどれも、母なるものを感じてならない。
 
『ダビデ像』(26-29才完成)は、人間の力強さや美の象徴といわれ、当時観た人の心を鼓舞したという。20代で彫刻家としての名声を得る。私の年上の知人が「だれかに似ているとおもったら、春馬さんに似ている」といってくれた。わたしもそう思います。520年前の美は、今でもその価値が失われることはない。美は永く共有しなくては。
 
 
―「敏感な魂」ゆえの弱さをもつ英雄―
 
『約束は、どんなことがあってもやりとげる。かつてなかったような立派な仕事を私はして見せる』。未踏の作品に挑む若き才能の胸には、ロマンと情熱があった。
 
完璧に、美しい作品にこだわり続けた。同時に、家族や周りの弟子を大切にした。目前の困難は夢を厳しく淘汰した。苦悩を抱え、自らを追い詰めたからこそ生まれた『最後の審判』(61-66才完成)。あるときは熱情をもって、一人の女性のために詩を書いたこともあった。そしてついには利己的なもののない、うつくしさと友情への聖なる慈愛。後期作品の深い精神性は弱い人間だからこそ成し遂げられた。

「強さと弱さ」、ローラはとても強いですが、その強さは弱さからきているんですよね。そこがいいなと思うし、そこを繊細に演じることがキンキーブーツをやる上での、大きな挑戦だと思うんです。一人の俳優として僕は、そこに面白みを見出していたんだろうなと。すごく難しいんですけどね。

三浦春馬(2018.12.27 STAGE navi)


大病後も情熱はきえず、芸術だけが自分自身でいられる場所だったミケランジェロは、生涯を終える直前までノミをふるい続けたという。このようにして、芸術とはなにかをもっとも崇高なかたちで教えてくれている。「偉大な魂」と、ロマン・ロランは著書『ミケランジェロの生涯』(1906/1963)で語る。そのなかで彼はまた、ミケランジェロの生きたルネサンス期、そしてキリスト教社会の変遷を指摘している。

 
おなじくキリスト教(ロシア正教)を背景にした
―舞台『罪と罰』でみせた三浦春馬の凄まじさ―
 
三浦春馬が大好きな舞台で演じたのは、19才から29才の間、生涯で8本だ(—うち主演6本、キンキーブーツ初演・再演を含む―)。
大竹しのぶさんと共演した『地獄のオルフェウス』(2015)で演出をした、世界的な演出家フィリップ・ブリーンの抜擢によって2回目のタッグをくんだ作品が『罪と罰』だ。文学作品としてもなかなか難しいが、三浦春馬がやさしくかつ美しくいざなってくれる世界でもある。(『悲劇喜劇』(2019.3)に脚本が掲載されたものを読みましたが、主人公ラスコリニコフのセリフの膨大さに圧倒されました。そしてぜひもういちど観たいのですが、円盤化になっていません。強く望んでいます)。
 
人間のありとあらゆる、複雑きわまりない感情を圧倒的なリアリティで演じた三浦春馬。


彼はひとつひとつの仕事に全身全霊で挑み、誠実な結果を出していた。キャラクターを見抜く力、そこに複雑な要素を積み上げていく力。ブリーンとの共同作業で、恐るべき成長をとげた。

阪清和(2020.8.2 noteより)

この舞台の素晴らしさについては、noteで複数のクリエイターが書かれているので、ご興味があるかたは是非そちらを読んでいただければと思います。
 
・阪 清和 2020.8.2 喪失感の痛切さと激烈さが身に染みる…★追悼★ 「Focus=三浦春馬と3つの舞台―批評家が見つめてきた魂の輝きー」
・ろ~ず 2021.5.16「WOWOWでの罪と罰」
・hoof 2021.5.25 「罪と罰~春馬くんは世にも美しいラスコリニコフ」
・森野しゑに 2021.6.6 「三浦春馬 舞台『罪と罰』~ラスコーリニコフ、美しき狂気」

以上は、わたしが読んだ記事です。
 
 
ミケランジェロも多才で、そして敏感で繊細であった。それゆえ、心のひだに寄り添うような余韻をのこすのだろうか。


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