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【短編】砂場の男の子

砂場で黙々とトンネルを掘っている子供の姿が見える
俺は、ブランコに乗りながら熱心に砂の山にトンネルを掘っている男の子の姿を見ていた
平日の昼間から、いい大人がブランコに乗って遊んでいるわけではない
これでも仕事中だ 
俺は、市役所のなんでもやる課で働いている
公園のブランコの調子が悪い、変な音がする時があるという報告があったので現地調査に来ているのだ
ということで、ブランコに乗って、その変な音とやらが出るのを待っているのだ
とりあえず、今の時点では、明らかな変な音は聞こえてこない
けど、万全を期して遊具の点検をしてもらった方がいいかもしれないと俺は思った
そして、俺は、少しクラクラくる感覚を感じて ブランコを降りた
子供の頃は、1時間だってブランコに乗ってても平気だったのに、いつのまにかブランコに酔ってしまうようになってしまったらしい
俺が、ブランコからおりたタイミングで砂場でトンネルを掘っていた男の子のトンネルがもうすぐで開通というところで崩れ落ちたのが見えた
男の子の大きなため息が聞こえる
どうして、うまくいかないのかわからないという顔をしているのが見える
そこで、俺は、砂場の男の子に声をかけた
「山にトンネルをつくるにはコツがあるんだよ」
という俺の言葉を聞いて男の子は少し驚いたように見えたが、トンネルを作るコツの方に気持ちが 傾いたのか
「どうやるの?」
と、目をキラキラさせて聞いてきた
「ちょっと、待ってな」
と、俺は言うと、鞄から飲みかけのペットボトルを取り出して、飲みかけてた水を全部飲み干した
そして、公園の水道に走っていった
そして、ペットボトルに水をつめて砂場に戻った
なんだか子供の頃の感覚をおもいだしたのか、急いでもないのに走って砂場に戻る自分に少しの
驚きも感じた
「おまたせ
トンネルをつくるには、この水がコツなんだよ」
と、俺は、男の子の顔を見ながら言うと、男の子は、ものすごい真剣な顔で、俺の言葉を聞いている
この感じ、悪くない
と、俺は思って、トンネルを作るのに真剣な男の子をかわいいと感じていた
俺は、少しもったいぶって、ペットボトルの水を 砂に流した
「砂をしめらすのがコツなんだ
でも、べちゃべちゃにしたらダメだ
べちゃべちゃだと、そもそも山が作れない
しめりすぎてなくて、山が作れるぐらいのちょうどいいのじゃないとだめなんだ」
と、俺が砂と水を混ぜながらいうと
うんうん
と、男の子は、うなづきながら聞いている
「さあ、これで、ちょうどいい硬さになったぞ
触ってごらん」
という俺の言葉を聞いて、男の子は、湿った砂を 妙に神妙な顔をして触って、その感触を忘れないようにとでも思っているのか、何度も何度も確かめていた
そして、俺と男の子は一緒に砂山を作った
「さあ、トンネルを掘ろうぜ!」
と、ちょうどいい大きさの砂山が出来たのを合図に俺は男の子に言った
男の子は、目を輝かせて、トンネルを掘り始めた
でも、その手つきは、とても慎重だった
そんな男の子の姿を俺は、そっと見守った
そして、数分後、無事に砂山が崩れることなくトンネルが貫通した
そこには、誇らしげに頬を蒸気させた男の子の顔があった
「やったな!」
と、俺が男の子に声をかけると、それを聞いた男の子は、僕にニコリと笑って見せた
いい顔だった
そして、男の子は 
「ありがとう!
ところで、お兄ちゃんの名前はなんていうの?」
と聞いてきた
「名乗るのほどのものじゃねーよ」
と、俺は答えた
一生に一度でいいから言ってみたかったセリフだ
「なんで?
お兄ちゃんは、僕の恩人でヒーローだ!」
という男の子の言葉を聞いて、俺は更に嬉しくなった
「ヒーローっていうのは、ひっそりと人の役に立つものなんだ
だから、名前なんて知らなくていいんだ
そして、君が、俺に恩を感じるのなら、今日から 君も小さなヒーローとして困ってる人を助けてやってくれ
じゃあ、俺は、もう行くから」
と、男の子に言って、俺は鞄の底についた砂を手で払うと公園を後にした

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