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作業療法士が考える自閉症療育で大切な事 「見えればもっとわかりやすいのに」

無発話の自閉症のお子さんに、はじめて写真カードを使った時のことを今でもはっきりと覚えています。本当に衝撃でした。

いつも療育の時に、クーゲルバーンの玩具に向かっていき、取って遊ぼうとしていました。「あとでね、これやってから遊ぼうね」と何度も伝えましたが、寝転がって怒り出してしまいます。

激しい癇癪に僕も折れて、クーゲルバーンを渡していました。
どうして我慢ができないのか、こちらが言っていることはわかっていると思うんだけど…。

その頃、PECSやTEACCHの研修を受け始めていました。

試しに、クーゲルバーン、ひも通し、パズルなどを写真カードにして、机に並べて置き、壁にスケジュールの枠を設定しておきました。

彼は、いつものように部屋に入ってくると、すぐに写真カードをまじまじを見ていました。
「どれやる?」と聞くと「クーゲルバーン」のカードを手に取りニコニコしていました。

「じゃあ、これが一番ね」とスケジュールの一番上に貼り、
「次はどれやる?」と聞くと、紐遠しを手に取り、自分からスケジュールの2番目に貼りました。
そして、5番目まで貼り終えて、「じゃあ、一番はこれだね。持ってくるね」言うと、ニコニコしながら着席して待っていました。

しかも、クーゲルバーンを回数カードで5回提示しておいた所、5回終わったら、自分からクーゲルバーンをフィニッシュボックスにしまい、次のひも通しに取り掛かったのです。

衝撃でした。この子は我慢ができなかったのではなくて、「そとでね」が伝わっていなかっただけだったのです。

その後は、プログラムを視覚的にわかりやすく設定していくと、とても素直に乗ってきてくれて、お互い楽しく療育を進めていけたのを覚えています。

自閉症はコミュニケーションのズレが起きます。
本来、共同注視でみられるように、相手と同じものを見ている、同じ事象に注意を向けていることが前提となり、コミュニケーションが発達していきます。そこに言語が結びつけていくと、言語だけでイメージを共有することができるというようになります。

たとえば、「りんご」という言葉を聞いたときに「丸くて赤い果物」のイメージを思い浮かべると思います。それが前提としてあるから、「りんご」という言葉でコミュニケーションができるわけです。

自閉症はこの「同じものを見ている」「同じことをイメージしている」というところに困難さがあります。なので、イメージが共有できていないまま、言語だけでコミュニケーションしていくとズレが生じてしまいます。

大切な事は、イメージにズレが起きないようにコミュニケーションをするという事、「こういうイメージを思い浮かべているから、同じようにイメージしてね。」と確認しながら行っていく事。そして、言葉をコミュニケーションとして教えていくのであれば、イメージを確認しながら「ことば」を添えていくといった丁寧に進めていくことが必要だと思います。

「言葉がでなくなってしまうのではないか?」と迷っている方もいるかもしれません。そうした方には、視覚支援を躊躇しないことをお勧めします。おそらく視覚支援をしたから言葉が出なくなることはないし、むしろ、促進されることがほとんどです。

なにより、コミュニケーションの大切な目的は「イメージを伝え合う」こと。見える形で伝えることは、自閉症の人にとって、とても親切な事だと思います。

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