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恋愛小説「アッホ君と奇妙子さん」第三話

第一話は、こちらからお読み下さい。
恋愛小説【アッホ君と奇妙子さん】第一話|三遊亭はらしょう エッセイ【原田日記】|note

第二話は、こちらからお読み下さい
恋愛小説「アッホ君と奇妙子さん」第二話|三遊亭はらしょう エッセイ【原田日記】 (note.com)

第三話

「今から、横浜中華街に行きませんか?」
「えっ」
「実は、私、まだ行ったことなくて、アッホさんはありますか?」
「はい、一時期、毎月、通ってましたよ、お笑いライブの会場が中華街の近くにあったもんで」
「じゃあ、詳しいんですね、私、御馳走しますから、一番オススメの中華食べさせて下さい」
「えー!マジですか!」
先程までのジェントルマンアッホ氏は、どこへやら。
思い切り、貧乏芸人の本音が出てしまったアッホ君であったが、奇妙子さんが、中華街に行きたいと言った瞬間、心の中でガッツポーズを決めていた。
御馳走して貰えることも嬉しいのだが、それ以上に、中華街が初めてだという奇妙子さんを楽しませる自信があったからだ。
「いいですね!ここからだと、1時間位で着きますよ」
「えっ、そんなに近いんですか?」
「はい、しかも、練馬駅から乗り換えなしで一本で到着します」
「乗換えなしって凄い!」
「はい!一時間後には、中国ですよ!」
「凄い!一分前には、アンデス旅行だったのに!」
アッホ君と奇妙子さんは、急な行先き変更にはしゃぎながら、西武池袋線の練馬駅へ向かった。
「パスポートはいらないですね!」
改札を通りながら、アッホ君は、ウキウキしていた。
「でも、パスモはいりますね!」
奇妙子さんも、ウキウキしていた。
まるで何年も付き合っているカップルのような呼吸の二人は、タイミングよくやって来た、元町・中華街行きに乗った。
電車の中では、アッホ君は、知ってる限りの中華街雑学を披露した。
奇妙子さんは、最近観たという香港映画の話をした。
喋っている内に、お互い、ジャッキー・チェンとブルース・リーとマイケル・ホイが好きだということで盛り上がった。
アッホ君は、人生で、マイケル・ホイの話が出来る女性に出会える日が来るとは思ってなかった。
「マイケル・ホイは、新Mr.ブー鉄板焼、が一番好きですね!」
奇妙子さんは、もっと、マニアックだった。
副都心線、東急東横線、みなとみらい線を経由して、あっという間に元町・中華街の駅へ到着した。

「ほんとに中国に来たみたい!」
駅を降りて地上にあがると、すぐに中華街の大きな門が見えた。
「あれは、朝陽門です」
「さすが詳しいですね!」
奇妙子さんは、朝陽門を見上げた。
「アッホさん、写真撮りましょうか?」
「写真!いいですね!」
まずは、朝陽門でツーショット写真とは、初デートっぽい。
ニコニコ顔で、アッホ君は撮ってくれそうな人を探そうと辺りを見回した。
だが、次の瞬間、突然、スマホのシャッター音がカシャリと鳴った。
「えっ?」
門の前では、奇妙子さんが、スマホを構えて笑っている。
「いいのが撮れましたよ~」
「えっ」
「次は、門に寄りかかってみて下さい!」
「いや、あの」
言われるがまま、アッホ君は門に寄りかかる。
「はい、マイケル・ホイ!」
「はい!Mr.ブー!」
てっきり、奇妙子さんとツーショット写真が撮れるものとばかり思っていたアッホ君は、少々、落胆してしまったが、カメラを向けられた手前、芸人らしく、精一杯のおどけたポーズを取ってみせた。
「わはは~面白い写真になりましたよ~」
奇妙子さんは、写真フォルダを開いて見せてくれたが、写っているアッホ君の表情は、ライブでウケなかった時と同じ顔をしていた。
「いやぁ~この門を見れただけで、結構、満足ですよ」
「まだ、中華街の入口に入ったばかりじゃないですか!」
「そうでしたね、とにかく、お腹すいて来ましたね~」
「練馬から一時間以上たってますからね、まずは、中華を食べましょう、レッツゴー!」
ツーショットのチャンスは、まだ、充分ある。
アッホ君は気持ちを切り替えて、持ち前の明るさで、観光案内に徹することにした。

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