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ガジャーン!!

『おい!お前!ふざけるなよ!』

(しょう!起きて、早く!お母さん助けなきゃ)

(お姉ちゃん、眠いよぉ)

『突き落とすぞ!』

(お姉ちゃん!行こ!)

私と弟は布団から飛び起きて母の所に急いだ。

『やめて!』

私と弟は必死で母の体を両手で掴んだ。
母が階段から落とされないように、あの人から守った。

『くそ!お前ら可愛くもくそもない!一緒に突き落とすぞ!』

それでも、弟と2人で足を踏ん張って必死だった。

あの人は、お酒を飲むといつもこうなる。

ある日、母と弟と3人で寝てるところを急にベッドから引きずり下ろされた。

母も抵抗してる。

弟と私は床に叩きつけられても何度も起き上がって、あの人から母を守った。

『お前ら、3人で死ね』

そう言って、あの人は眠りにつく。

寝不足のまま学校に行って、楽しそうにパパ、ママの話をする友達の笑顔。

たまに、そんなパパ、ママの事を悪く言う友達を見て
『まともな親なだけいいじゃん』
って思ってた。

私が8歳、弟が6歳だった。

母はどこにもぶつける事の出来ない感情を。

いつも私にぶつけていた。

母の苦しみを子供ながら理解していた私は。

ずっと、受け止めていた。

そして

高校生になった私と弟。

『くそったれー!どいつもこいつもバカにしやがって!』

またいつものが始まった。

弟が部屋から飛び出して階段を下りてく音。

『ふざけんな!いい加減にしてくれ!』

私は慌てて向かった。

弟があの人を殴っていた。

あの人は怒り狂って木刀を手にしようとした。

私は急いで木刀を蹴り上げ、
あの人が持てないよう木刀を踏みつけた。

何か怒鳴りながらあの人は去っていった。

やがて、私も弟も社会人になった。

それでも生活は変わらない。

母は私に全てを任せ私に頼りきっていた。

母が会社に電話してくるようになった。

今すぐ帰って来て。

仕事中でもお構いなしだった。

母のこれまでの苦労を思うと、私は母に何も言えなかった。

ある日、私の勤務先に一本の電話が入る。

あの人が暴れてる。

警察からだった。

初めて身元引き受け人になった。

私は会社を辞めた。

堅い職業柄、これ以上会社に迷惑はかけられない。

弟は国家公務員。

転勤も多い。

そんな弟に迷惑かかるような事もしたくない。

そう思ったから。

私が全てあの人の尻拭いをした。

あの人が暴れる、他人と言い争いをする。

その都度。

警察に何度も頭を下げ、身元引受人に。

その繰り返し。

結婚してからも続いた。

もう限界が来ていた。

一昨年

あの人が倒れた。

大腸ガン、ステージ4

正直、やっとこれで解放される、そう思った。

あの人はもう暴れる事はない。

でも、お酒は辞められない。

だから、本当の解決にはなってない。

あの頃よりは会話するようになった。

忘れる事は出来ないけど。

ただ、毎日のように親の顔色を伺って。

怯える日々はなくなった。

そして、こうして主人と出逢い。

2人の娘達と出逢い、今がある。

だから、

40年越しではあるけれど。

『育ててくれてありがとう』

もっと前へ…進もう。

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