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「 ゆきゆきて、神軍 」原一男【 映画と本の紹介 】

1987年公開。原一男、監督。

3年前に、オススメ映画として後輩から勧められていて、ずっと観たくて、レンタルでも見つからず未観のままだったのが、今回、元町映画館での再上映で鑑賞を果たせました。

「 どんなに旧作であっても、初めてその作品を観る人にとっては新作である(原一男) 」。

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「 あの戦争 」を知るための、とても貴重な証言記録。戦争で人が変わってしまった奥崎謙三の常識破りの行動を追う形のドキュメンタリー映画。

遺族や戦争体験者たちの証言で、終戦後に、初等兵の処刑事件があったことを知り、当時の元上官を追い詰める様は、異様な迫力でした。

責任逃れからなのか罪悪感なのか、上官たちの証言の食い違いが、暴力すら辞さない奥崎の追求により、徐々に崩れさり、事件の真相が見え始めます。人間そのものの在り方を変えてしまう「 戦争 」の悲惨さが、滑稽なまでの生々しさで語られるのでした。

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40年前の新長田の商店街や、実家の隣の旅館が登場するためか、非日常が日常のなかに溶け込んでいく奇妙な感覚に戸惑ってしまいました。

戦争は、(本当の意味では)終わっていない。

国家や法律の枠組みを当たり前のように受け入れている私たちは、逆行していく戦後民主主義の行方を警戒すべきかも知れませんね。

映画の後半、おそらくはクライマックスになるはずだった「 ニューギニア篇 」は、フィルムの没収のため、「 現地での行動を記録したフィルムは、インドネシア情報省によって没収された。 」という字幕スーパーしか観られないのを残念に感じました。

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しかしながら、その欠損は、パンフレット代わりに購入した本書で、じゅうぶんに補っていました。「 制作ノート 」(映画の舞台裏や、原一男監督の想いや迷い、ニューギニアでの日誌)は、もしかしたら映画本篇より面白いかも、と思うほどです。

シナリオも収められているので、映画の内容を振り返るのにも、最適。

余談ですが、高校時の同級生が読んでいた「 ヤマザキ、天皇を撃て! 」と、昔、ヴィレッジヴァンガードでパラパラと立ち読みした「 宇宙人の聖書 」の作者が奥崎謙三と知り、驚きよりも納得のほうが大きかったです。(完)

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