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100日間の家庭教師ライフ

<はじめに>

今年に入ってから不登校となった子の家庭教師をすることになりました。対象の生徒は、中学一年生です。期間は登校できるようになるまで。

きっかけは、昨年末に、親御さんから相談があり、息子が勉強がイヤで学校へも行きたくないと話しているとのことでした。その話の流れで家庭教師を探していて、私の方でも友人や教え子たちの伝手で紹介できるかも知れないと伝えていました。

それから数日後に、ふと、思うところがあり、以下のような経歴の人が見つかりました、と連絡を取りました。

・中学教師歴10年(主に国語。英語、数学、社会も可) 通算授業時間45分×10000コマ
・バイリンガル(朝鮮≒韓国語) 漢検準1級 英検2級 文章検定2級
・四年制大学外国語学部卒(英語、中国語、日本文学専攻)
・イギリス語学スクールケンブリッジ校、短期コース修了
・勤務校以外への出張授業、複数回(小学、中学、高校)
・兵庫県朝の読書交流会での依頼講演2回
・新聞、雑誌、文芸同人誌へのコラムやエッセイ掲載
・映画会社の専属ライター歴2年(記事数100本以上)

実は上記のプロフィールの正体は「私」で、生徒とは「甥っ子」(以下R君)のことです。自分を介して他人を紹介するよりも、子供との距離感がちょうど良いであろうと、自らが引き受けることに決めたのでした。

その日のうちに、R君本人からも「元旦からよろしくお願いします」と承諾を得られました。

<100日間の家庭教師ライフ>

1月1日(土)
R君のリクエストで、初授業は、元旦の日と決まりました。妻と娘も同行し、家族同士で新年の挨拶を交わし合ったあと、まずお年玉と本をプレゼントしました。(少し話が逸れますが、私の家系は親戚が多く、元日には長田のお店で親戚一同が集い新年の挨拶をすることが通例となっています。今年からは親戚の子供たちにはお年玉に本を添えて手渡すことにしました。)以下に、お店で手渡した、今年のお年玉本の、タイトルと作者を紹介します。

・娘(6歳)と小学生低学年:『ドラえもん』(藤子不二雄)
・小学生:『リトルターン』(ブルック・ニューマン)、『ペンギン・ハイウェイ』(森見登美彦)
・中学生:『機龍警察』(月村了衛)、『星の王子様』(サン=テグジュペリ)
・高校生:『緑と赤』(深沢潮)
・大学生:『陽気なギャングが地球を回す』(伊坂幸太郎)、『ハングルへの旅』(茨木のり子)

話を戻し、新年の集まりの後に、妻の実家経由でR君宅を訪問しました。R君にもお年玉本と称して、『ボッコちゃん』(星新一)、『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎、羽賀翔一)、『空想科学読本3』(柳田理科雄)を手渡しました。

初日の授業は、マインドマップ作成と、確認テスト。マインドマップでは10分間で、好きなものの名前を大きな白紙に書くようにして、それから苦手なものを5分間で書いてもらいました。

・好きなもの:卓球、ゲーム(ドラクエタクト、マイクラ)・・・
・苦手なもの:数学、英語・・・

確認テストでは『小学6年分の算数をたった7日間で総復習』、それと同じシリーズの「漢字」版の中から、比較的シンプルで簡単なチェック問題を解いてもらい、答え合わせをしながら、正解を大いに褒めるようにして、生徒の自己肯定感を高めるように心がけました。それから、学校の教科書を見せてもらった後、R君と両親と、これからの学習について相談し、扱う教科は、英語、数学、国語、理科、社会。学習方法は、家庭訪問での直接指導とZOOMを用いたリモートによる授業をすることとなりました。

授業料は、家庭訪問時のみ交通費だけいただき、教材や本の購入に充てることにしました。

1月2日(日)
神戸umie大垣書店にて図書購入。『ホントにわかる中1数学』 『ホントにわかる中1英語』『自宅の強化書』(葉一)の3冊。書店の参考書コーナーに足を運ぶのは、久しぶりです。ほとんどの参考書にスマホ対応のQRコードが付いていて、動画で解説を視聴するものが多くて、時代の変化に驚きましたが、R君は、基本的に自宅学習が続くので、iPadを用いて授業動画や解説を見られるのは、良いかもと思い活用することにしました。

自らは、スマホゲーム「ドラクエタクト」をダウンロードして、R君との会話に活かすために少しだけプレイ。ゲームをしたのは、およそ20年ぶり。小一から高三までは、ほとんどあらゆるゲームをクリアしたものですが。

1月4日(火)
新年で特別営業中の、古本屋ワールドエンズガーデンにて、図書購入。『中学3年分の英語が3週間で身につく音読』 『全くダメな英語が1年で話せた!アラフォーOL kayoの秘密のノート』 『かもめのジョナサン』(リチャード・バック)の3冊。

1月11日(火)
『学校に行きたくない君へ』(全国不登校新聞)読了。
不登校新聞とは、不登校やひきこもりとなった人たちが、不登校(あるいは憧れ)の大先輩たちに会って話を聞いた、インタビューをもとに発刊している新聞。以下、心に響いた言葉たちを、メモ。

・ その不自由さを何とかしようとするんじゃなくて、不自由なまま、おもしろがっていく。それが大事なんじゃないかと思うんです。 (樹木希林)

・ 世界に対する期待が低いと、幸福を感じるのもわりとかんたんなのかもしれません。 (柴田元幸)

・ なによりも大切なことは「好奇心」をなくさないことだと私は思います。 (荒木飛呂彦)

・ 自尊心を持っていることが、ひきこもる原因をつくるんだけど、その自尊心と戦ったときに外に出て行くきっかけをつかむんじゃないかな、と思うんです。 (リリー・フランキー)

・ 私自身も「無条件の生存の肯定」という言葉で楽になれたので、自分への期待値と子どもへの期待値を最底辺にしておくといいと思います。そこまでハードルを下げれば、生きてるだけでオッケーだと思えるはずです。 (雨宮処凛)

・ この先、あなたはなぜ自分がこんな状況になってしまったのか、考えるときがくるでしょう。でも、その原因究明はするべきじゃありません。原因を究明しても、誰かを悪者にして終わるだけ。 (西原理恵子)

・ 本当の自分を見つけたい、自分らしくありたい、やりたいことをやっていきたい、自然体でいたい、幸せになりたい……、そういうものはまとめて捨てたほうがいいです。 (田口トモロヲ)

・ 孤独を恐れちゃいけない。孤独を味わうこと。孤独になっているときこそ、自分が成長するチャンスだ。(横尾忠則)

・ すごく悩んでいるときは「ここは考えないでおこう」という決断も重要です。しばらく問題を漬けておく。考えつめればいい結論が出ると思うのは甘いんです。坊さんの世界では「しばらく潤かしましょうか」なんて言っています。 (玄侑宗久)

・ 「ふつう」なんてありません。それは誰かが勝手につくり出した幻想です。 (宮本亜門)

・ むしろこういう社会のゆがみを感じて、ひきこもったり、学校に行かなくなったり、言葉が出なくなったり、食べられなくなったり、体でその反応をしているほうが俺はまともだと思います。 (山田玲司)

・ 不安よりも自分がおもしろいと思えること、楽しいと思えること、そっちに力を注いでほしいなと思うんです。そういう前に進もうという気持ちがあれば、不安には負けない力になると思うんです。 (高山みなみ)

・ 親の葛藤もわかるし、子どもだったときのことも思い出すので、なかなか「これ」と言えないのですが、私は「私の選択を信じて待ってほしかった」と今は思います。 (辻村深月)

・ 「学校に行かないことに罪悪感を持たない」ということが大切だと思います。いつ始めても、いつやめてもいい。学びとはそういうものなのではないかと思います。 (羽生善治)

1月13日(木)
『自宅の強化書』(葉一)読了。 なんで勉強をしなきゃいけないの? という問いに、「勉強って、正しく努力したら正しく結果が出る、一番手っ取り早いものなんだよ」と自信満々に答えるのは、教育ユーチューバーの葉一さん。

自分に合う勉強法、計画の立て方、テスト対策を具体的かつシンプルに提示してくれるだけでなく、集中力、やる気と自信のつけ方まで教えてくれます。You Tube侮るなかれ。これほどわかりやすい授業も、なかなかできるものじゃないですね。

1月14日(金)
初のZOOMによるリモート授業30分。パソコン越しに、会話をしながら、次回の家庭訪問までに自宅で続けて欲しいことを伝えました。

・今日から4日間の時間メモ(9時起床、10時~11時学習など)
・1日に15分以上学習(読書でもOK)
・寝る前に<今日の自分>をほめる。

1月17日(月)
新長田の喜久屋書店にて 『中学英単語をひとつひとつわかりやすく』 購入。

1月18日(火)
家庭訪問授業。これまでに購入した本のうち5冊を贈呈し、10分間読書から開始。リモート授業も、10分間読書から始めることを伝えました。

英語と数学の2コマ。間に10分の休憩をはさんで、それぞれ45分程度。英語は、『中学3年分の英語が3週間で身につく音読』 を活用し、プリントの文章を復唱させながら、文法の説明は最小限にしました。

数学は、元旦に解いた確認問題の解説をして、学校で受けた試験のプリントを見せてもらい、それから小6の練習問題(本人にはそれとは知らせずに)を解きました。

最後に(ドラクエタクトの、ゲーム内に出てきたセリフを元に作成した)漢字小テストを実施。

R君は試験日と、部活の時間だけは登校できるようになったようです。一歩を踏み出せたことを喜び合いながら、参考書はドラクエの「経験値かせぎ」と同じでコツコツ続けることが大事だし、登校できたときは、ログインボーナスがゲットできるね、と話したら、おかしそうに笑っていました。

1月19日(水)
『「本を読む子」は必ず伸びる!』(樋口裕一)読了。15年ぶりに再読。子どもの学力を伸ばす勉強法は多々あるけれど、読書に勝るものはない、ということを再確認するために。

国語力はすべての科目の基礎。習うよりも慣れろ。本で底力を養う。本の力を見直すとき。子どもも大人も、大いに読めよ、という内容です。

思い返せば、学生時代、勉強部屋では宿題、試験勉強はさておき、本しか読んでなかった気がします。だからこそ、勉強=読書=楽しいという気持ちを保てているのかも知れません。

1月20日(木)
朝9時からZOOMによるリモート授業。音声トラブルのため、相互の声が聞こえず、画面越しの筆談で明日、リトライすることに。

仕事の帰宅途中、古本屋ワールドエンズガーデンの店主さんが残業につき、お店が開いていたので、『空想科学読本4』(柳田理科雄)、『空想科学理科読本』(同前)、『なぜ数学を学ぶのか』(竹内英人)、の3冊を購入。

1月21日(金)
朝9時から30分間、リモート授業。お父さんの尽力で、音声も直りました。

今回は、国語。自作の「永遠のドア」を朗読し、本の紹介をしました。

「永遠のドア」は以前、朝の読書研究誌「はるか」でも掲載していただいたのですが、それから10年近く経つので、全文再掲します。文章も少し訂正し、主人公の「あなた」はR君の本名に置き換えながら、読みました。

【永遠のドア】

R君はびっしりと並んだドアを前にして途方にくれるだろう。扉、扉、扉・・・。

すべてのドアを開けるのは、一生かかっても無理かもしれない。それは、満天の夜空に散りばめられた星を一つ一つ数え上げるぐらい大変なことだ。

試しに、と、あなたは一つのドアを選択する。鍵はかかっていない。扉はスーッと音もなく開いた。 

ドアの中に入ると、男が服を着たままベッドに横たわっていた。体格の良さが服の上からでも分かる。何せ男は元ヘビー級のボクサーだったのだから。

 「何の用だい?」

あなたは、男が殺し屋に狙われていることを知っていて、町から逃げ出すように説得する。「おれはただ」壁に向かって、男は言った。

「外に出ていく踏ん切りがつかなくてな。朝からずっとこうしてるんだ」 

あなたは、二言三言ことばをかけると、男の代わりにドアへ向かう。扉を閉めると、先ほどと変わらず、扉が幾列にも静かに並んでいた。まるで誰かに開けられるのを太古の昔から待っていたかのように。(※1)

二つ目の扉の向こうは、太古の世界だった。強烈な陽光が、丈高い草におおわれた、広々とした草地を照らしている。あなたは、魂を奪われたように湿原を見つめる。シダの葉のあいだを、恐竜たちがゆっくりと移動している。カモノハシ竜のおだやかな啼き声が響きわたる。べつの群れは悠然と岸辺を動いている。

だしぬけに、周囲のいたるところから、血も凍るすさまじい咆哮が降りそそいできた。茂みが荒々しくゆれている。そこに、襲いかかってくる巨大な動物の姿がちらりと見えた。あなたはすぐさま背を向け、一目散に逃げ出す。純粋なパニックで、体中にアドレナリンがあふれ出す。どちらに逃げたらいいか分からない。唐突に、なにか重いものに背中のバックパックを引き裂かれ、がくっと膝をつく。その時、あなたの目の前に扉が飛び込んでくる。(※2)

パタンと扉を閉じると、同時に恐ろしい獣の姿も霧消した。R君は、激しい鼓動の高鳴りとともに心地良い昂揚感さえ覚えている。大冒険のあとにもかかわらず迷わずに扉を開き、足を踏み出す。

扉の先は地獄であった。燃えさかる火の中では絶世の美女が、炎と黒煙とに責められて悶え苦しんでいる。あなたは女の断末魔の叫びを聞いて、恍惚とする。この世のものとは思えない異常な美しさに、あなたは恐れと哀しみと驚きに包まれる。火の柱が星空に突き上がる。

見上げた空からは、きらきらと輝く一筋の細い糸が、垂れている。あなたは、地獄から逃げ出そうと、必死に糸をたぐり上へ上へと這い上がる。ただひたすらに昇り続ける。

「あの人を殺してください」

ふいに女の憎むべき、呪わしいことばが、あなたの耳に触れる。

言霊は、あなたを嵐のように、遠い闇の底へ、真っ逆さまに吹き落とす。落ちる・・・墜ちる・・・ 堕ちる・・・ ぱっくりと口を開けた地獄の扉があなたを呑み込む。(※3)

扉の部屋へ戻って来たR君は、また新しい扉を開ける。開いた扉はあたかも両手を広げてあなたを迎え入れているようだ。扉の向こうには、さらに開いた扉が待ち受け、その扉の向こうにはまた他の扉が、扉が、扉が、扉が、果てしなく彼方へと続く路を作りあげていた。あなたは走り始める。

すっすっはっはっ。険しい山道を走る。すっすっはっはっ。あの夕日が沈むまでに町へ戻らなければ。すっすっはっはっ。走れ。すっすっはっはっ。走れ。(※4)

扉の境の、長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった。(※5) 

さらに、扉をくぐると、そこは火星だった。(火星人はネリリし、キリリし、ハララしていた。)あなたは、くしゃみをして扉を抜ける。(※6) 

猫がいた。まだ名前のない猫は、にゃーにゃー鳴いていたが、あなたは猫のことばを解する。何やら小難しい猫の文明批判に耳を傾けながらまた扉をまたぐ。(※7) 

不思議な島の小さな畑であなたは、喋る案山子と話をする。「すべては神のレシピに書かれた通り」(※8) 

次の扉で時を越える。千年後の日本。(※9) 

時をさかのぼる。一九八四年。(※10) 

扉。光るかもめが優雅に飛び去る。(※11)

扉。草原が燃え、武将達の怒号と矢の雨が降りそそぐ。(※12) 

扉。コインロッカーから赤ん坊の歌声が。(※13)扉。あふれる叡智が。(※14)

扉。叫びが。(※15)扉。しあわせが。(※16)扉。ちゃぷん。古池に蛙が飛び込む。深い静寂。(※17)どこまでも続く、扉、扉、扉・・・。(※18)

R君はびっしりと並んだドアを前にして心を躍らせるだろう。あなたさえ望めばどこへだって行ける。あなたが願えば何にだってなれる。あなたが想像すれば、未来や過去へも飛んで行ける。人生は一度きりだが、扉を開けば何度でも人生を生きることができる。  

手のひらサイズの扉たちは、いつだって、あなたの指に開かれるのを待っている。扉の先に広がる物語の世界は、あなたを夢中にさせるに違いない。そして、扉を閉じたとき、あなたは今までに見たことのないような、素晴らしい景色を目にするだろう。(完)

朗読の後に、「この扉とは何を指すでしょうか?」と訊ねたら、「どこでもドアかなあ」という答えが返って来たので「ピンポン、正解!」と言った後、本の扉であることを説明しました。

本はどこにでも連れて行ってくれる「どこでもドア」ですから。

それから、「永遠の扉」に登場した本を、手元にあるものだけ画面越しに紹介しました。作品に登場した本は、以下の通り。 


※1『殺し屋』ヘミングウェイ        ※10『一九八四年』オーウェル

※2『ロスト・ワールド』クライトン     ※11『かもめのジョナサン』バック

※3『蜘蛛の糸』『地獄変』芥川龍之介    ※12 『三国志』北方謙三 

※4『八月の果て』柳美里    ※13『コインロッカー・ベイビーズ』村上龍 

※5『雪国』川端康成              ※14『フィネガンズ・ウェイク』ジョイス

※6『二十億光年の孤独』谷川俊太郎    ※15『叫び』大江健三郎

※7『吾輩は猫である』夏目漱石      ※16『奥の細道』松尾芭蕉

※8『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎   ※17『はてしない物語』エンデ

※9『新世界より』貴志祐介       

1月22日(土)
『いちばんやさしい教える技術』(向後千春)読了。元教員の、妹の本棚から拝借。

【教えることのポイント】
1. 「教えたつもり」ではなく、相手ができなかったことが一人でできるようになって初めて「教えた」と呼べる。
2. 教えるということは、コミュニケーションのひとつなので、相手に合わせて教え方を変えなければいけない。
3. 相手の心を変えるのではなく、「行動」を変える。その行動は明確なゴールとして決める。

【教え方のルール】
1. 熱意よりも具体的な指示を。 
2. 「教えた」かどうかは「学ぶ側が学んだかどうか」で考える。
3. 結果が思わしくないのは、すべて教える側の責任。
4. 上手に教えたいならコミュニケーション上手になる。
5. 教えるときは相手をよく観察して、相手の状況をつかむ。
6. 相手にとってちょうどいい知識を与える。
7. 相手に教えたことを練習させて結果をフィードバックする。
8. 相手にできるようになってほしい具体的なゴールを決める。
9. 相手の「心」は変えられないが、「行動」は変えられる。
10. ゴールは必ず「行動」として設定する。

教えることは、学ぶこと。学ぶことは、教わること。教える人と、教わる人は対等であるということ。

1月24日(月)
『不登校 困った時の対応術40』(千葉孝司)読了。不登校対応とは、子どもの心を理解し支えること。

不登校を「休み始めの心を安定させる時期」「心のエネルギーを充電させる時期」「再登校に挑戦する時期」の3つに分けて考える著者が、場面別に「WHY(なぜそうなったか)」と「HOW(どのようにすればよいか)」の視点から、具体的な対応をまとめたもの。

もちろん学校だけがゴールではありません。子どもが自信をつけることこそ、次のステージで飛躍する秘訣でしょう。悪い例と良い例の対話形式が、とてもイメージしやすく、子どもへの、大人の適切な声がけの大切さを学べました。

1月25日(火)
家庭訪問授業、理科と英語。『空想科学読本4』(柳田理科雄)、『空想科学理科読本』(同前)をプレゼント、10分間読書から。

理科は、実験で遊ぶことに。ポリエチレンの袋に水を入れて、鉛筆を刺したり、ストローをこすって水道水に近づけたり、二つ折りで机に立たせた千円札の上に十円玉を乗せてゆっくり両はしを引っ張ったり……。

英語、前回の音読の復習としてタイムを計り、スラスラ読めたらnice!  good! excellent!  fantastic! と称賛しながら、新しい章の練習。

帰路、三宮の古本屋へ立ち寄り5冊購入。

1月27日(木)
朝9時からZOOMリモート授業。

朝読タイムでは柳美里さんの本を読み、昨日、勤務先の冷麺屋に訪ねて来られた柳さんの話をしました。柳さん自身、中学時代に不登校になった経験があり、R君とも会って話がしたいです、と言ってくださったことも伝えました。

いつかR君を連れて、南相馬にある柳さんの本屋「フルハウス」に行けますように。

1月29日(土)
『ひきこもり図書館』(頭木弘樹編)読了。闘病で13年間のひきこもり生活をした頭木さんによる、ひきこもり作品の選集。コロナによる世界的なひきこもりの時代だからこそ読みたい、12の物語たち。

 紹介された短編は以下の通り。

・『死なない蛸』『病床生活からの一発見』萩原朔太郎
・『ひきこもり名言集』フランツ・カフカ
・(鬼退治に行かない)『桃太郎』立石憲利
・『凍った時間』星新一
・『赤い死の仮面』エドガー・アラン・ポー
・『フランケンシュタインの方程式』梶尾真治
・『屋根裏の法学士』宇野浩二
・『私の女の実』ハン・ガン
・『静かな水のほとりで』ロバート・シェクリイ
・『スロー・ダウン』萩尾望都
・『ひきこもらなかったせいで、ひどいめにあう話』頭木弘樹

町へ出ないで、書を読もう。心に残る作品が、ひとつでもあれば、それは心の灯火となるでしょう。今の世界に必要なのは、物語の力なのです。

1月31日(月)
『中学受験は社会で合格が決まる』(野村恵祐)読了。中学の社会科の基礎をもとめていたら、飛び込んできたので、ポイントをまとめながら読みました。

地理:白地図は社会の公式。    歴史:流れをつかむ。
公民:数字とキーワードの対比。  時事:父と子の対話。

昔から、受験のための勉強や塾に対しては、懐疑派ですが、小学生新聞は読んでみたいと思いました。それから、地図パズル、歴史漫画には親しんでおきたいと思いました。

2月4日(金)
『言葉は静かに踊る』(柳美里)読了。

〈本の森に分け入るといえば勇ましすぎるし、本の荒野を旅するというのでは心細いが、十代の私が抱いた読書のイメージは探検と流浪であった。つまり人生そのものだ。〉

〈しかし年を経るうちに唄好きのひとがカラオケに興じるように図書ボックスで遊ぶ気分に浸り、読書は人生の余暇、あるいは休暇とも考えるようになった。探検か余暇か、流浪か休暇かは、時代や読み手の年齢、本を開くときの状況によって異なる。〉

本が状況によって七変化するとすれば、病に伏せているときは、薬にだってなる。魂に寄り添ってくれる友にだって。

2月11日(金)
リモート授業。朝読。社会、日本地図を用いての都道府県クイズ。自分自身が中学時代に、作曲した「都道府県の覚え歌」を披露しました。勉強は朝鮮語で「工夫」と呼びます。いかに楽しんで工夫するかが肝心です。最近、ジャッキー・チェンの映画を観ていて、語源が「功夫(カンフー)」=修練、かも知れないと思いついたのですが、真相は「勉強」不足のため不明です。

2月15日(火)
リモート。朝読、本を集中して読んでいるR君の顔をチラッと見る。元旦には、本はあまり読まないと話していたけど、近頃は、少しずつ本に心を開いてきている気がします。

英語の音読、タイム計測、読む速度がアップ。目に見える上達も嬉しいですが、シンプルにこつこつ続けるのが良いことなのだと考えます。

それから、ワークの数学問題から質問を受けました。自発的に質問を受けたのは初めて。前へ向かって進み始めた兆しでしょうか。

期末テストを受けるために登校するとの報告も受け、試験を解く際の助言をしました。学生目線で、自分自身が中学時代にしていた方法など。

2月17日(木)
朝のZOOM授業。数学、図形(応用)問題の解説。

数学好きのお母さんもR君と一緒に聞いてくれました。黒板がないので、画用紙を紙芝居のようにして解法を説明している途中に、母が「あ~なるほど!」と声をあげていたのが、印象に残りました。

2月22日(火)
『数の悪魔』(エンツェンスベルガー)読了。10歳から100歳まで、数学キライの人たちのための深夜のレッスン。主人公はロバート少年、毎晩、夢の中で、気難しいけど憎めない「数の悪魔」と、魔法のようなひとときを過ごすことになります。

毎晩、一章ずつ読んでいたら、だんだんと楽しくなりました。R君もロバート少年のように、少しずつ苦手意識を克服できたら良いなあ。

3月1日(火)
家庭訪問授業。前回、ハリーポッター映画の大ファンであることを聞いていたので、今回は『ハリーポッターと賢者の石』(J・K・ローリング)の文庫版を贈呈したら、いつもの10分間読書が、魔法の力(R君の集中力)により、40分読書に変わりました。

休み時間に、お母さんと今後の学習方法の相談をしていたら、読書を終えて身を乗り出してきたR君が加わり、奈良で課外学習をしようということに決まりました。

3月11日(金)
リモート授業。読書と、英語の音読。奈良の歴史についての話。

3月15日(火)
歴史漫画 「日本史探偵コナン」シリーズの<奈良編>を2冊と、『ハリーポッターと秘密の部屋』を贈呈。

冬休みワークの英語問題を一緒に解き、そのあとは奈良遠足のための予習として、事前学習プリント(奈良クイズ)を解いてもらいました。答え合わせは、コナンの歴史漫画を活用しました。

最後に国語。奈良時代に活躍した、山上憶良の万葉集の歌を紹介。

 銀も黄金も玉も何せむに優れる宝子にしかめやも

3月29日(火)
奈良遠足。私の娘(6歳)と、R君の家族(父・母・小1の妹)も同行することに。それぞれの家から車で出発し、宝塚サービスエリアで待ち合わせ、そこでR君と娘が同乗する車を交代し、奈良へ向かいました。

私の車はR君と二人に。車内では英語学習と称して、100枚ほど準備していた洋楽のCDから1枚、BGMとしてR君に選んでもらう目論見だったのですが、何故か紛れ込んでいた「サザンオールスターズ」のCDが選ばれてしまい、サザンを聴きながらの道程となりました。(「ピースとハイライト」は大好きな曲です。)

奈良遠足の下見と引率は、教員時代に、何度も行っているのですが、今回のプチ旅行は、何よりも自分が楽しみにしていました。それでも、一番楽しんでいたのは、やはり子どもたちでしょう。

桜の木の下にレジャーシートを敷いて、お花見をしながら、お昼ご飯を食べたあとは、公園の広場で鹿にせんべいをあげながらの、大はしゃぎ。

ひとしきり遊んだあとは、皆で奈良散策。R君には、南大門の金剛力士像の前で「この力士の名前は?」「作ったのは誰だった?」と問い、R君が、娘や妹たちに解説をしたり、東大寺の大仏殿でも毘盧舎那仏に関するエピソードをガイドさながらに話したりしながらの拝観となりました。

国宝の興福寺の前で記念撮影もし、お餅屋とカフェでひと休み。

教えることで自分が学ぶということは、この3ヶ月間で自分自身が改めて認識したことでもあります。

この日の最大の収穫は、R君のお父さんからの報告でした。息子が春から学校に戻ると、両親に話したとのことでした。「この期間は何だったんだろう」と父が呟いたので、
「R君にとって充電が必要な時期だったんでしょうね。お父さんとお母さんが、R君のために向き合ったことが、心に伝わったんだと思いますよ」と、自分なりの意見を伝えました。

帰りの車で、娘は熟睡していました。よく話して、よく笑った一日でした。

<おわりに>

あとは、ハリーポッターの本の続きを手渡すことと、映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」を一緒に観に行く約束を残して、3ヶ月間の家庭教師はミッション終了となります。

俵万智の短歌に
「まだ何も書かれていない予定表なんでも書けるこれから書ける」

という作品があります。再登校はゴールではなく、再スタートの入り口。

これからは「おじさん」として、見守り役でいようと思います。

朝の読書には、目に見える即効性の効果は期待できないかも知れません。

しかし、一人の子どもの閉ざされた心を開けるための、小さなきっかけになったのだと、私は信じています。

本が、小さな種だとしたら、朝読は水やりです。毎日、少しずつ水やりをすることで、小さな種は心にしっかりと根をはり、やがて芽を出し、豊かな花を咲かせることでしょう。
                                  2022.4.2記

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