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食べ物の未来 未来の食べ物

ドレスデンにあるドイツ衛生博物館 (Deutsches Hygiene-Museum) で開催中の企画展「FUTURE FOOD」をやっと訪問できたので、特に印象に残った展示について記録します。

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「FUTURE FOOD 明日の世界のための食べ物」が取り組むのは、タイトルが表している通り、現在の日常生活で身近なテーマである食です。やや単一的なドイツの伝統的な食文化からか、ドイツ人は食に関心が薄いと言われることもありますが、そんなことはありません。

YouTube で私が好きでよく見るドキュメンタリーや真相追求番組では、頻繁に「有機栽培のウソ」「ヴィーガンは体に毒?」「どのBioマークが信頼できるか」などのテーマが頻繁に更新されます。とりわけ若い世代の間ではヴィーガン・ベジタリアンの食生活が流行しています。自身の健康や美の追求のため、肉食はダサいから、宗教上食べられないという理由も挙げられますが、彼らが食生活を切り替えているのは、環境保護あるいは動物保護を目的としている場合が多いように思います。

私がこの博物館を訪問したのは8月6日、学校は夏休み中ということもあり、大人だけではなく子供たちの姿も多く見られました。展示物の長い説明文を子供が読み上げ、お父さんがそれについて質問や解説をする様子を目にして、博物館は学びの場としてより多くの人にとって身近であるべきだな、と改めて感じました。


さて本題に入ります。

私が特に紹介したいのは

「新しいタンパク源」「代替肉の古い歴史」「選べる時代に何を選ぶか」
の3つのポイントです。

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まず、新しいタンパク源について。

過剰な肉消費と食品廃棄物、ドローンや最新テクノロジーを使った農業について学んだあとに展示されるこの虫食品の一例。シンプルなデザインで手に取りたくなります。黄緑色の箱に入ったコオロギのボロネーゼなどは私が近眼だからでしょうか、美味しそうに見えます。とはいえ多くの日本人、あるいはドイツ人同様、今のところ私には昆虫食に挑戦する勇気がありません。

なぜでしょうか。

「虫は見た目が気持ち悪いし、それを口にするだなんて吐き気がする。」「手にするのだけでも鳥肌が立つ。」「美味しいと言われても無理なものは無理。」という理由が思い当たります。しかし、このような意見を見越して、博物館側がとある提案をしていました。

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スシだって、一昔前はゲテモノ扱いだったでしょう、と。

つまり、現時点で多くの日本人やドイツ人が虫食を気持ち悪いと感じるのと同様に、生魚を食文化に持たないドイツ人にとって、いまや健康食だともてはやされるスシも、以前は人間の食べるものではないという認識でした。一都市に数軒あるスシレストランがいずれも成功していたり、スーパーマーケットや駅構内でパックに入ったスシが陳列されていたり、スシ人気がうかがえます。これと同様、ムシもいずれは多くの人が求めるようになる可能性を訴えていることについて、なるほどと感心しました。

一方で、日常的に虫食を行っている文化圏での虫飼育管理に携わる児童労働と健康被害、将来的な虫食ブームによる虫の乱獲の可能性についてもすでに警鐘を鳴らしています。

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続いて、代替肉についての展示にまつわる話をします。

ここ数年ドイツでは大手食肉加工品メーカーが、動物性たんぱく質を摂らない人向けのソーセージやハム、ミートボールなどを次々と販売しています。ヴィーガンへ移行中の同居人から植物性ソーセージを分けてもらって試食したことがありますが、食感や味は動物性のものと大きな違いは感じませんでした。ドイツといえばソーセージ、そしてソーセージに囲まれて育ち、ソーセージ好きである同居人が好んで購入するほど納得の味のようです。むしろソーセージやハム好きの多いドイツだからこそ、環境と動物保護への関心と加工肉への熱い情熱が相まって現在の代替肉ブームが起こっているのかと想像しています。

その他スーパーで購入できる植物性たんぱく質で手頃なものといえば、トーフやテンペ、ファラフェルなど豆類を主原料としたアジア発の加工品です。

以下、某有名食肉加工品メーカーHPのスクリーンショット です (2020.08.13時点)。トップページには「スーパーのお肉の美味しい代替に」との謳い文句でヴィーガン製品が表示されます。画面が全体的に緑色で、なんとなくですが環境に良い印象を受けますね。

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こちらは動物の肉を使用しないソーセージ、サラミ、ハムなどの代替肉製品の一例です。

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こちらが動物の肉を使用した、多くの人が食べているであろう製品です。

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ドイツ・食肉加工品業界の紹介はこのくらいにして、やっと展示の話題へ移ります。

私にとって新しい情報だったのが、上記で紹介したような代替肉が近年のベジタリアン・ヴィーガンブームで初めて市場に回るようになったわけではないということです。ドイツ国民の約20%が移民としての背景をもつことを踏まえれば、宗教上の理由で肉を食べない人も少なくなかったというのは当然とも言えます。

展示では、1969年の「TVP」についての新聞記事がタッチスクリーンで読めるようになっていました。TVP は Textured Vegetable Protein の略、アメリカで開発された大豆由来のタンパク源で、植物繊維を肉繊維に似せて加工したものを乾燥させた状態で売られています。日本では大豆ミートとして知られています。

「TVP - "人工豚肉"」と題された記事では、この大豆ミートが果たして肉なのか、その栄養価はどれほどのものなのか、そもそもこの新しい食品は何から作られているのか、どのように調理するのかなどについて触れられています。

当時のドイツ国内での TVP 購入層は、新しい物好き、時短命の人、ベジタリアンとイスラム教徒だったとされています。また稼ぎの少ない人にとって、安くタンパク質が摂れるということで、TVP の広告では「肉」としてアピールされていたようです。

しかし、そもそもこの TVP は肉の代用としてではなく、新しい食品として開発されました。「もし牛肉や豚肉の価格が上昇した場合、消費者は安い鶏肉を手に取るでしょう。食肉不足に陥った場合、畜産農家は化学肥料を使い家畜を早いスピードでより多く出荷しようとするでしょう。そうすれば肉の質は下がるでしょう。」と、記事で述べられています。

2020年現在、一般的あるいは格安スーパーで購入できる肉の値段がかなり低いおかげで、多くの人が毎日でも牛肉を食べられるようになっています。それは1969年に指摘されていた通り、食肉が大量生産された結果であると思います。消費について考えさせられる展示でした。


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最後に、何を購入するのかという問いは、私たちが考えるべき大事な問いの一つだと思います。購入するというのは生産販売側を支援していることにつながります。どの企業や生産者を支援するのかを決める基準は人によって変わってきます。例えば、私はチョコレートが好きでよく食べるのですが、その選ぶ基準としては味はもちろんのこと、どのようにこの商品はうまれたのか、なぜこの値段なのか、どこで生産されたのか、どこで購入するか、などが気になります。「良い」チョコレートとは何なのか、考えさせられます。

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何かを選べる状況にある人は、現在選択肢もないような人に自分と同じだけの「選べる機会」を与えられるような消費の仕方とは何か、考えてみてほしいと思います。労働環境、地球環境、動物に配慮した製品は、そうでない製品に比べて値が張ります。誰もが購入できるわけではありません。しかし、美味しさと利便性だけを求め続けていては、人も動物も地球も疲弊していきますよね。選ぶことの責任について、私もいま一度考えているところです。


以上、ドイツ衛生博物館 (Deutsches Hygiene-Museum) で開催中の企画展「FUTURE FOOD」の一部を抜粋して記録しました。私自身、食べ物に関してはこれといったこだわりはなく、食べ物だったら大体おいしいと感じる方なのですが、自分が何を食べるのかについてはここ数年を通して関心があった気がします。美味しいから、健康に良いからといって、ありとあらゆる食べ物を誰かの生活や健康を害してまで自分が消費していいのだろうか、常に考えいます。

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蛇足ですが、企画展のラストで来訪者参加型の展示がありましたので少しだけ載せておきます。展示を一通り見終わった来訪者が各々の「今後の食べ物に対する抱負」をテーブルに並べられた皿に記入しています。

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そしてこちらの皿、ミミズが這ったんだろうと思わせる汚い字です。私の抱負です。

地産地消、肉を食べる機会をめっちゃ減らす、買ってすぐ食べられるように加工された食品をあまり食べない、良いチョコレート(フェアトレード)とあります。チョコレートについて書いている人は多く、具体的に「最低でも3ユーロ=約377円 のチョコレートを食べる」というを見つけました。参考になりますね。


以上です。最後まで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、どうもありがとうございました。

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