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トロンボーンの口調【毎週ショートショートnote】


トロンボーンは、厚みのある伸びやかな音色が特徴だ。
そのあたたかい音は演奏を支え、副部長・乙幡みつきの見事な腕前を表していた。

しかし彼女のきつい口調は、部をあたたかく包んではくれない。
彼女の言葉は、後輩たちを沈黙させる。
「みつき先輩はこわい」それが彼女たちの口癖。

その悩みの相談口には、いつも私が選ばれる。
「かな先輩は優しい」これも彼女たちの口癖。
後輩は、みつきに対等に接することができるのは、部長の私しかいないと思っているのだ。


「いいじゃん、その通りなんだから」

みつきの口調は、呑気なもんだ。
そこに、いつもの「きつさ」はない。

彼女はわざとやっているのだ。
優しい部長とこわい副部長。
部の節度を保つため、彼女は嫌われ役を選んだ。


みつきが、トロンボーンを吹く。
伸びやかな音色は、遠い山の方へと響いていく。

「トロンボーン、似合ってない」と、誰かが言っていた気がする。
そんなことない。
誰よりも部のことを考えるみつきには、トロンボーンがよく似合う。



(418文字)
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書いたものの、上手く書けずに放っておいたら、そのまま忘れていた。
やはり、書いたらすぐ投稿せねば。
放っておいても、自然に良くなるわけもないのだから。


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