『グレート・サークル』マギー・シプステッド
題名が気に入ったので購入しました。本屋で見つけたときは800ページもあることにすこし驚きました、読み出してみると面白くて1週間ほどで読み終わりました。
現代場面での主人公ハドリー・バクスターはパパラッチに追っかけられるような、いわゆる尻軽女のレッテルを貼られているような女優です。彼女が世界一周飛行に挑んだ女性マリアン・グレイブスを演じることから物語が始まります。ハドリーがマリアンの日記を読み、マリアンの血縁者に合うなどしていきます。演じるための参考という意味合いがあるが、もう一つの理由としてマリアンの魅力に惹かれたというのがあると思います。あきらかにハドリーは変わっていく、その様子がこの小説のひとつの大きな流れとなっています。
そして第二次世界大戦前から終戦直後場面での主人公は前述した飛行機乗りマリアン・グレイブスです。彼女のキャラクターがこの小説の一番大きな面白さとなっています。一言でいうと生きているという実感を追い求め続けていく、その貪欲なエネルギーに圧倒されます。
双子の弟ジェイミーが溺れたのを羨ましがるマリアン。常に死と隣り合わせのような生きてみたい。具体的にそのように思っているわけではないが、本能に刷り込まれているのがわかる。
マリアンが飛行機と出会った瞬間です。ものすごく美しく、かつマリアンのなかになにかが生まれたのが伝わってくる文章です。
マリアンが妻を家に閉じ込めて置くような保守的な酒の密売人バークリー・マックイーンと結婚することや先輩の女性飛行士ジャクリーン・コクランが率いる戦闘機運搬部隊の一員として戦争に身を投じるのも、すべては彼女の本能が危険の匂いを嗅ぎつけ選択していっているのではないのでしょうか。
マリアンを一途に愛する白人とインディアンの子供であるケイレブも魅力的な人物です。
ケイレブはマリアンのことが好きだが、はっきりとは表現しない。それはマリアンのつねにスリルを味わいながら生きていくという本能に気づいているからに違いない。ケイレブはけっしてマリアンの邪魔はしない。ケイレブがマリアンに愛の告白をするときは直接的な表現は決して用いない、つねに文学的だ。普段の彼の一見乱暴な行動からはかけ離れている。そこが彼の一番の魅力であると言えます。ジョン・アーヴィングの『あの川のほとりで』にでてくるケッチャムを彷彿とさせます。一途でわかりやすいようなわかりにくいような微妙な人間。
マリアンは戦争に行き何度も戦火の中を飛行機で飛び回り、それでも死ななかった。その後、飛行機で世界一周に挑戦をする。それまで何人もの人間を愛する、何人もの男をそして女を。死に向かいあうには愛する人間が必要なのか。彼女はたくましく生き続ける。一方、双子の弟ジェイミーは一人の女を愛し続ける。彼も戦争に行く、それは戦争の様子を絵画にするという彼にしかできない仕事をするためである。そして彼は死ぬために戦争に向かっていく。二人の人生の対比がこの小説の面白さの一つになります。
この小説の中で最も重要なキーワードは『水中でしゃがみこむグリズリー』になります。
このエピソードはケイレブがマリアンの人生をぜったいに邪魔しないことを表現している。そしてお互いに死ぬまでマリアンとケイレブを繋ぎ止めていくことになっていきます。
ラストの世界一周飛行はマリアンにとっても読者にとってもご褒美みたいな感じです。ちょっとしたトリックがあったり、『水中にしゃがみこむグリズリー』のエピソードの伏線が回収されたりします。男は死に向かい、女は生きる意思を持ち続けるそんなところも面白いと思いました。
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