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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心に…

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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心にアメリカ文学を読んでいます。

最近の記事

遅子建『アルグン川の右岸』

物語の舞台は現在の内モンゴル自治区最北端でロシアとの国境付近になります。自然とともに暮らしているエヴァンキ族、主人公の「わたし」が幼女から90歳になるまでのウリレンと呼ばれる集団共同体に集う人々の生きざまを語っていきます。 数々の強烈な印象を残すエピソードが次から次へと出てきます。私が最近読んだ小説だと、ジョン・アーヴィングの『あの川のほとりで』や『オウェンに祈りを』を思い出せてくれます。人種も物語の舞台も全く違いますが、家族の物語でもあるのでそう思ったのかもしれません。そ

    • 創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

      トミー&タペンス『秘密組織』に続くシリーズ第二作目が新訳で出版されました。一作目はクリスティの小説のイメージとはちがう、若さやあぶなかっしさにあふれたとても楽しい小説でした。ポアロやマープルの有名な小説は全部を読んではないのですが大好きな小説が何作もあります。人間それぞれにプライドがあり、その一方でひた隠しにしている欲望もあります。その欲望が隠しきれない状態になったときに、勝敗を分けるのが人間の格であることがわかってきます。トミー&タペンス物はそうゆう重苦しさから全く逆の古い

      • 『レッド・アロー』ウィリアム・ブルワー

        レッド・アローというのはイタリアを縦断する特急列車の名称だそうです、さらに物理学のなかでは時間の流れを表す記号をさすことばになるそうです。その2つは当然物語のなかにでてくる事柄になります。 あらすじはというと主人公のぼくがまったくの偶然で出版することになった『ボーイスカウト』という小説がまぐれ当たりをします。そして、次回作として1995年にウエストバージニアでおきたヘキサシクラノール9がモノンガヒーラ川に流出した事故を題材にしますが、主人公のぼくには小説を執筆するつもりがま

        • 『ハリケーンの季節』フェルナンダ・メルチョール

          メキシコのどこかにあるラ・マトサという村にいる魔女が殺され死体が発見される。犯行現場近くにいたジェセニア、そのいとこのルイセミ、ルイセミの母親チャベラ、そのヒモであるムンラ、そしてルイセミに助けられたノルマという少女がそれぞれ語っていくうちに魔女が殺された経緯が少しずつあきらかになっていくという物語です。 登場人物がスマホを使用していることから現在の話であることがわかるが、それなのに魔女がでてくるというのはどういうことだろうか。登場人物がすべてアウトサイダーであり、ドラッグ

        遅子建『アルグン川の右岸』

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          題名だけで読んでみようと思い、いつもいく本屋に在庫があったので購入しました。予想より本に厚みがあって(518ページ‼)躊躇したのですが、西加奈子さんの推薦文に後押しされて手に取りました。本の帯にはこうあります「何世代ものイギリス黒人女性たちがたどってきた可笑しくて哀切、心揺さぶる物語、ウィットに富んだ鮮烈な文体で語る」。フェミニズムが強すぎて物語としておもしろくないといやだなと思ったのですが、杞憂に過ぎなかったです。どのエピソードもユーモアがあり、どの登場人物も弱さだけではな

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          ニューヨークのサンセット・パークにある廃墟のビルに不法滞在する若者四人。マイルズ・ヘラー、ピング・ネイサン、アリス・バークストロム、エレン・ブライスが何者でもない若者がなにかを為し得てやろうともがく姿が描かれています。 四人はそれぞれ思惑があって一緒に生活をすることになります。結局、自分が大事で他人のことはかまってられないというのが本音かもしれません。それぞれの他人との関わりあいかたが微妙な距離感を持って描かれています。 ピングが一人で喋って、マイルズが聞いているんだかど

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング

          主人公のジミー・ガードナーは詩人でアルコール中毒で元妻を拳銃で撃ち殺しかけた男。キングの小説でアル中が登場することは多いが、今回は主人公に抜擢されています。 ジミー・ガードナーはしがない詩人でドサ回りの詩の朗読会(ニュー・イングランド・ポエトリー・キャラバンというあまりメジャーでなさそうな名前)に参加して日銭を稼いでいます。自分の番が回ってきてもまったく詩が浮かんでこないガードナーの脳内にメイン州ヘイブンから元恋人で唯一の友人であるボビ・アンダーソンからのテレパシーのような

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング

          シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』

          まず、主人公のマーリンダ・アルメイダ・カバラナ、カメラマンでギャンブラーでヤリチンである通称マーリのキャラクターが面白い。悪ぶっているというか、いいやつと言われたくないという感じ、正直言って好感がもてる人物です。 これが世間のマーリの評価になります。かっこいい男がいれば誘惑し、収入はすべてカジノに突っ込むようなわかりやすいクズ男。そんなマーリが撮影する軍の住民への虐殺や政治家のスキャンダル写真はどのような評価を得るのだろう。金のためとおもわれるのかもしれない、マーリは評価を

          シェハン・カルナティラカ『マーリ・アルメイダの七つの月』

          『勝手にふるえてろ』綿矢りさ

          綿矢りさの『パッキパキ北京』はものすごく面白い小説でした。他の小説も読んでみようと思い、近くの本屋さんで買ってきました。 主人公の女性に片想いの男と彼女に好意を寄せる男がいる、ほぼ3人だけの狭い世界です。でもじつは二人だけかもしれません。彼女と彼女に好意を夜よせる通称『ニ』しかいない世界。彼女の片思いの男『イチ』は実在しないかもしれない、読み進めるとそう考えるほうがしっくりくると感じました。 彼女の妄想の中だけで生きているイチ。イチを『イチゴ』に例えているからであろうか、

          『勝手にふるえてろ』綿矢りさ

          『グレート・サークル』マギー・シプステッド

          題名が気に入ったので購入しました。本屋で見つけたときは800ページもあることにすこし驚きました、読み出してみると面白くて1週間ほどで読み終わりました。 現代場面での主人公ハドリー・バクスターはパパラッチに追っかけられるような、いわゆる尻軽女のレッテルを貼られているような女優です。彼女が世界一周飛行に挑んだ女性マリアン・グレイブスを演じることから物語が始まります。ハドリーがマリアンの日記を読み、マリアンの血縁者に合うなどしていきます。演じるための参考という意味合いがあるが、も

          『グレート・サークル』マギー・シプステッド

          コルソン・ホワイトヘッド『ハーレム・シャッフル』

          『地下鉄道』『ニッケル・ボーイズ』のコルソン・ホワイトヘッドが2021年に刊行した新作が邦訳されたので読んでみました。 1959年のニューヨーク、主人公のカーニーは黒人であるがゆえの差別を受けている。たとえば取引先の電化製品修理店にいっても白人の店員に無視されるような屈辱を日常的に受けています。しかしカーニーからはそんな差別は柳の木のようにかわして跳ね返す賢さを感じることができます、小説の冒頭からは明るい希望のようなものを感じることができます。黒人でも白人と対等にビジネスが

          コルソン・ホワイトヘッド『ハーレム・シャッフル』

          『奇妙な絵HIDDENPICTURES』ジェイソン・レクーラック

          スティーヴン・キング絶賛とあったので買ってみました。 主人公はサウス・フィラデルフィア出身の女性マロニー・クイン、たぶん白人です。自動車事故の治療中に飲んだ痛み止め薬オキシコンチンで薬物中毒になってしまい、現在治療中で断薬18ヶ月です。 マロニーが薬物中毒の治療を1段落すすめるために普通の仕事につこうとします、それがベビー・シッターでした。ニュージャージ州スプリング・ブルックに住むテッドとキャロラインのマクスウェル夫妻と5歳の息子テディの3人の家族が住む自宅が職場になりま

          『奇妙な絵HIDDENPICTURES』ジェイソン・レクーラック

          ポラーニョ『2666』とサール『人類の深奥に秘められた記憶』

          ポラーニョの『2666』を3週間ほどかけて読んだのですが、よく意味がわかりませんでした。しかも『犯罪の部』が同じような文章が繰り返されるので途中をすこし飛ばしてしまいました。ですので読んだというのは嘘になります、また少し時間をおいて再度よんでみることにしました。それから数週間後に読み始めたのがモアメド・ムブカル・サールの『人類の深奥に秘められた記憶』です。なんか似た話だなと思いながら読みました。 ポラーニョ『2666』はドイツ人作家ベンノ・フォン・アルチンポンディを、サール

          ポラーニョ『2666』とサール『人類の深奥に秘められた記憶』

          綿矢りさ『パッキパキ北京』

          完全に題名で買いました。で、読んだ結果ですが直感があっていました。おもしろい。感想を一言をでいうと、赤白ボーダーTシャツを着て中国へ旅行に行きたくなる小説です。 中国人の元気があるところがよく表現されている箇所で、ものすごく好きな文章です。彼女のコロナに感染し克服してからの猛烈な勢いは読者を圧倒していきます。むだな付き合いをなくすためにわざと嫌われるようなことを言うところも処世術としてまねしたくなる。彼女の思考はつねにシンプルだ。たのしく生きていくためにどうしたらよいか。人

          綿矢りさ『パッキパキ北京』

          カート・ヴォネガッド・ジュニア『スローターハウス5』

          これがこの小説のあらすじになります。これがすべてです。カート・ヴォネガッド・ジュニアが第二次世界大戦にアメリカ兵として従軍し、ドイツのドレスデンで捕虜として空襲をうけた体験をそのまま記述したような小説です。 私がいちばんおもしろかったところは、ビリーのけいれん的時間旅行に影響を与えた小説家キルゴア・トラウトの登場です。『第四次元の狂気』『宇宙からの福音書』『株式取引惑星』などの面白そうな小説の作者です。彼についてこのように表現されています。 ビリーは相当にものわかりの良い

          カート・ヴォネガッド・ジュニア『スローターハウス5』

          ガブリエル・ゼヴィン『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』

          帯に「ゲーム制作に青春をかけた男女の友情の物語」とあります。まさにこの文章がすべてを物語っていると思います。小説を読むときに事前にあらすじ等の情報がいやでも入ってきてしまします、実際読んでみると聞いていたあらすじとはまったく違った感想を持つことのほうが多いというのが実感です。でもこの『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』は帯の文章そのままでした。 主人公はサムソン・メイザー、性別は男性で韓国移民二世の母親とユダヤ人の父の子供です。彼は幼少期の事故で足に重度の

          ガブリエル・ゼヴィン『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』