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『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

題名だけで読んでみようと思い、いつもいく本屋に在庫があったので購入しました。予想より本に厚みがあって(518ページ‼)躊躇したのですが、西加奈子さんの推薦文に後押しされて手に取りました。本の帯にはこうあります「何世代ものイギリス黒人女性たちがたどってきた可笑しくて哀切、心揺さぶる物語、ウィットに富んだ鮮烈な文体で語る」。フェミニズムが強すぎて物語としておもしろくないといやだなと思ったのですが、杞憂に過ぎなかったです。どのエピソードもユーモアがあり、どの登場人物も弱さだけではなく強さもあり。それぞれが希望をもって読むことができました。この小説を一言でいうと「小説版ドキュメント72」でしょうか、小説なのにドキュメントというのもどうかと思いますが。彼女たちは同性愛者もいれば、強烈な女性差別や人種差別を受けてきています。私の置かれている立場とはだいぶちがう人たちと言えます。そのようなことは関係なくいろいろあるのが人生なんだということが言えると思います。私も彼女たちもまったく違う経験をし考え方も違います、ですがそれぞれいろいろあって悩んで生きることに挑戦していることがわかります。同じ人間なんだと。


手書きの相関図

読書の記録として登場人物の相関図を書いてみました。書いてみて思ったのですが、この小説のはいちばん必要のないものだと思いました。ラストで全員がつながる真相がわかるが、それがなんなんだという感想です。12人の登場人物はそれぞれの人生を歩んでいるのだし、独立したエピソードとして読むことができます。

私が一番好きなのはバミのエピソードです。

その夜バミは、大勢の女性清掃員を雇う夢を見た、女たちは環境に及ぼされたあらゆる被害を片づけるという使命を帯びて世界中に派遣される。・・・
バミは想像した、女たちがニジュール川デルタ地帯に大挙して押し寄せ、槍と毒を塗った剣とマシンガンに改造したモップとほうきの柄で石油会社を追い出すところを。・・・
バミは想像した、世界中から集まったすごい数の女性清掃員軍団に恐れをなし、政府が低賃金の地元の民兵を駆り集められないでいるところを。・・・

白水社『少女・女・ほか』P195

バミが清掃会社を立ち上げることを想像しているシーンです。彼女は会社が成功することを越えて、地球を守りだしてしまいます。彼女と野心と超ポジティブな思考は読者に勇気を与えます。そんなボミでも清掃会社創立資金を男と寝て得るところは時代だからと簡単にいうことはできません、時代が違えばもっとちがった方法で資金を得たはずです。相手がキリスト教の聖職者というのが笑えます、そのシーンはかなりユーモアにあふれています。同時に男のダメなところが強調されています。そういえばこの小説には宗教を感じさせる箇所がほとんどないことに気づきました、どん底を知っている女性たちは神がいないことをとっくに知っているかのようです。

『今のあたしを見てお母ちゃん、今のあたしを』バミのエピソードの最後の文章です。本当の勝ち組というのはこうゆうことだと感じました。



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