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『奇妙な絵HIDDENPICTURES』ジェイソン・レクーラック

スティーヴン・キング絶賛とあったので買ってみました。

主人公はサウス・フィラデルフィア出身の女性マロニー・クイン、たぶん白人です。自動車事故の治療中に飲んだ痛み止め薬オキシコンチンで薬物中毒になってしまい、現在治療中で断薬18ヶ月です。

マロニーが薬物中毒の治療を1段落すすめるために普通の仕事につこうとします、それがベビー・シッターでした。ニュージャージ州スプリング・ブルックに住むテッドとキャロラインのマクスウェル夫妻と5歳の息子テディの3人の家族が住む自宅が職場になります。
マクスウェル家のルール10ケ条が以下のようになっています。
・薬物をやらない
・飲酒をしない
・煙草を吸わない
・卑猥な言葉を口にしない
・テレビを見ない
・鶏肉以外の肉を食べない
・ジャンクフードを食べない
・許可なく人を招かない
・テディの写真をSNSに載せない
・宗教や迷信は持ちこまない、教えるのは科学
この生きてて何がたのしいんだと言いたくなる信条を掲げています。主人公の生い立ちも、その他登場人物もなんか普通ではない感じがしますが、再生の道があるところやどんな思想でも恥ずかしげもの買う主張しているところはアメリカだなと思います。

テディが女性の体に興味をもつような発言をしたとたん、母親のとった対応が驚きます。

夜にその出来事を報告すると、キャロラインはにこりともせず、険しい顔をした。そして次の日、『とっても自然なことなんだよ!』とか『ぼくはどこからきたの?』といったタイトルの絵本を山ほど持ち帰った。わたしが子供のころに読んでいたのより露骨な内容のものばかりだ、アナルセックスやクンニリングスの詳しい説明や、ジェンダークィアな表現も含まれている。フルカラーの挿絵やらなにやら付きで。

早川書房『奇妙な絵』P136

この極端なリベラル思想な家族が保守的な街のなかで浮いている感じがして、世間から隔離されているように読み取れます。それが自然と密室状態になっていき、主人公の不安な気持ちが増幅されていくような気がします。また、家族の10か条もキャロラインの極端な行動もすべて伏線となっており、最後まで読むとなっとくしてしまうところは見事だと思います。

マロニーが犯人に監禁されたところで、時間稼ぎのために会話をするところも面白い。19ヶ月断薬したど根性で犯人に対峙していきます。ついに犯人もだまっていられなくなり犯行にいたった経緯をべらべらと話し始めます。その長さP371から10ページにも及びます。まさにこの小説はアメリカ版家政婦はみたinニュージャージーと言えるでしょう。

冒頭のペンシルバニア大学での人体実験のシーンから不穏なかんじが漂っています。あれはマロニーに霊感があるような超能力が備わっていることを表しているのでしょうか。ホラー要素、ミステリー要素もありヒロインが力強く再生していく希望のある小説でした。




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