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キャッシュレス時代

 近頃は、どこへ行ってもキャッシュレス。
クレジットカードは勿論、電子マネーという輩も出てきた。
年寄りは、絶対に現金。これが一番安心。
が、コロナ禍でとうとう危うくなった。
 クレジットカードは、買ったその時はいいが、時間が当分経ってから請求がくる。
 覚えてはいない。なので信用がならない。否、間違いなく自分で買っているはずなのだが、時間が経って、ほとんど忘れているので納得がいかない。なぜか損をしたような気になる。それより、いくらか制限はあるのだろうが、ほぼなんでも買える。後のことを考えるとさらに恐ろしくなる。
電子マネー?何それ?そもそも使い方がわからい。
 やっぱり、現金が一番。
 マイナンバーカードを作れば、25,000円の補助が出るというが、それでも面倒なので作らない。子供や若い者、周りからもったいないといわれる。
 しかし、これまで使っていた健康保険証まで変わるといわれ、とうとうマイナンバーカードを作った。
 そして、その代わりに、ペイペイという電子マネーを使うはめとなった。
最初は、レジで払うのも、どうして使っていいのかわからなかったが、おそるおそる、
「ペイペイで」
というと、店員がピピィと操作してくれる。
ほう、スマホを見せるだけで、バーコードをスキャンして終わり。
「ありがとうございました!」
とレシートをくれる。
『ん?終わり?サインは?暗唱番号は?金額は正しいの?」
スマホにはレシートと同じ金額が、表示されている。
「ほう~、もうこれで終わりね。意外と便利かも」
 
やがて、慣れる。
最初はおどおどと、
「ペイペイで」
と言っていたものが、なぜか自信タップリとスマホのアプリを見せるだけ。
 ポイントも無くなり、簡単さもあって入金の仕方も教わった。
現金のように、ATMから一度もおろす必要もない。そういえば、あれから一度も銀行のATMを使ったことがない。もともと、通帳もアプリで見ることができるので、記帳すらしていない。
 毎日の銀行口座の出し入れは、スマホで直ぐわかる。ペイペイでチャージしたお金が、直ぐに銀行口座から引かれているのが、一目瞭然。
 なるほど、なぜ近頃、銀行の支店やATMの数が少なくなっているのかわかったような気がした。

 さて、ペイペイ。使い始めると現金を持たなく、スマホだけ持って外出することが多くなった。これをキャッシュレス時代というのか。
便利に勝るものはない。

 ある日、自転車で外出した帰りに、初めて大きなスーパーマーケットに入った。
 作業服にタオルを首に巻き、リュックの中には勿論スマホは入っている。
今日は、よく動いたので、刺身でも買って帰るかと、発泡酒ではなく冷えたビールも1本買った。ついでに、食パンと牛乳も買った。刺身はちょうど、赤札が貼ってある三割引きだ。帰って直ぐに食べるので、関係ない。
得した気持ちでレジに行く。
「860円です。お支払いは?」
「ペイペイで」
自信たっぷりにスマホを見せると、
「申し訳ありません。ここは、ペイペイは使えないんです」
「え?使えない?ちょっと待って」
確か、このリュックには、いつも小銭や千円札を一枚入れていたはずと探す。
レジの後ろには2、3人が待っている。
「あちらで、探されたらいかがですか」
と丁寧に促してくれる。
こんな大きなスーパーでも使えないことがあるんだと驚きながら、運転免許証と一緒に、カードも入っていたはずと探すが、今日は、あいにく自動車ではなく自転車だと気付く。持って出なかったことを今更ながら悔やむ。
 リュックの中の物をすべてひっくり返す。が、無い。
 期待していた小銭入れも、千円札もでてこなかった。
リュックから出した色々な物とエコバックとスマホが一台、机の上に並べてある。
 こちらが一生懸命探している姿を見ていたのか、レジを振り返ると店員が、
「無いですか?」
と憐れむような眼差しで聞く。
「ああ、無いようだ。ごめん、これ返すわ。元の場所に戻そうか」
と言うと、
「いいですよ。ここに置いてもらえば、こちらで元に戻しますから。悪かったですね」
こちらの心情を察してくれたのか、首にタオルを巻き汚れた作業服の恰好からか、本当に憐れむような顔で言ってくれる。
 物を買いに来て、お金がなくてレジで全て戻すなんて、生まれて初めてのことだ。
たかが、860円の物が買えなかったことが、やけに情けないやら恥ずかしいやら。
が、ここでこのまま帰っては、しゃくなので、別の店に入った。
 年寄は落ち込んでも直ぐ忘れる。
ここは、いつも買う店なので、ペイペイは使えると承知の上だ。
同じ物を買う。が金額は1020円。
『え?200円も高いのか。赤札も無かったし、しゃあない。まあ、売ってもらえるだけいいか』
とスマホを見せる。
すると、またも店員が申し訳なさそうに、
「すいません。残額がないようです」
「え!無い?ごめんごめん。今チャージするから」
手慣れた仕草で、すぐその場でチャージをする。
これ現金だったら、また買えんかったわと胸をなでおろす。
 
それ以降、店によって、たまに現金しか使えないと言われると、
「え、まだ現金しか使えないの?いいかげんにキャッシュレスにしたら?」
と偉そうに覚えたての言葉を言いながら、そして面倒くさそうに現金をだす。
やっぱりそこは爺さん。余計なことを必ず言う。
 勿論ポケットの中に、現金が入っていることを事前に確認済みである。

 どこがキャッシュレス時代や。

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