見出し画像

ねこ

ねこがいない。

夜中から翌日の夕方までいなかったことは
あるけれど
今回は 昨日の朝に夫が見た切り 来ない。

音もない。
大雨の夜
寝室の壁隔てベランダの三段棚に寝ていたはずの
姿が 朝から いなくなってもう丸一日以上たつ。
まだ一日か、ではない。
もう、一日。
それが 二日になり 
やがて 二年になるだろう。
そんな予感が ふとする。
こんなふうに 突然いなくなって
来なかったことが 思い出される。

この半年
ずっと一緒だった。
居なくなって二年。
忘れたことはなかった、
それが
ある日
どこからか、洗濯物を干す足元に
ふらっと現れて 当たり前のように
それから 庭で暮らして
いつも そこにいた。

農具を置いた棚や
室外機の上を
好んで座っていた。

今日は その幻さえ ない。

もしや、と思う。
帰宅して 駐車場の扉をカタカタと鳴らしてみる。
内またで駆け寄っては来ないか。
にゃあと鳴いて 駆け寄ってはこないか。
でも
風ひとつ吹かない 庭から 今日は
あの子の姿を 見ることはなかった。。

夫が言う。

「缶詰が残ったね」

「あのこは ふらっときて また行ったんだよ。
また 何か月かしたら 来るよ。
野良だから しかたないよ。」

そうかな。

この前
二度 似合わない野太い声がして
見ると 帰ってきたねこはあるものを吐き出した。

一羽の小鳥。
くわえた獲物をぽとりと落とし
私たちの顔を見あげる。
ん?

もう。
いいんだよ、そんなお礼は。
きみにしあわせを いっぱい 貰ったよ。
だから
もう いいからね。

そう言ったのに
また数日後 小鳥をぽとり。

そして
その数日後 いなくなった。

大雨の降った朝

ねこは いなくなった。

庭は 蒸し暑く
そして
寂しい顔をして
ねこがいない棲み処に
夜の帳が下りる。


もし 心に留まって下さったら、、、本を出すと言う夢に使わせていただきます。