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経済力がないせいでモラハラ夫と離婚できない主婦の日常③【超ショートショートまとめ】

料理中に手を滑らして指を切ってしまった。

「痛っ…」

小さく呻くと、夫とお義母さんが、
「おぉっ!?血が出てるぞ?」 「あらヤダっ」 と慌て始めた。

衝撃だった。

どうやら目に見える傷しか認識できないらしい。

あなたたちとの長年の生活で、私の心はもっと深く傷ついているのに。

まな板に落ちた血。この程度はなんてことない。

架空の現代人、玉中和子(たまなか かずこ)が登場する超ショートショートのまとめです。
玉中和子は、定年退職した夫と姑の世話に追われる専業主婦です。初老の体に鞭打って家事に介護にと頑張っていますが、姑からはグチグチと説教を言われ、夫からはモラハラを受けています。
辛い日々を送る玉中和子ですが、経済力がないために離婚を諦めています。経緯は〈玉中和子のプロフィール〉にて。

冠鳥天狗より

〈玉中和子のプロフィール〉


地球人を調べにきたという宇宙人から様々な質問をされた。

震えながらも丁寧に答えている中に、印象的なやり取りがあった。

「『家庭』という集団単位は何だ?」

「子供を育てるための、両親を中心に構成される数人の集団、でしょうか」

「数人?なぜ皆で育てないんだ?」

「え~と……」 

宇宙人たちは全ての子供を我が子として愛するらしい。

お義母さんに介護が必要になったとき、
夫は「母さんの面倒は自分たちで見る」と宣言した。

私は、(自分たちって言うけど、結局私一人でお義母さんの世話をすることになるんじゃ…)と嫌な予感がしていた。

しかし私は見当違いしていた。

現在私は、お義母さんだけじゃなく夫の世話もしている。


マイバックを忘れたのでビニール袋に大量の食品を入れて帰る羽目になった。

持ち手が指に食い込んで痛むが、両手が塞がっているので持ち替えられない。

夕日に照らされる人気のない坂道が、途方もなく長く感じられる。

なぜ毎日頑張っているのだろうと、蓄積した精神の疲労が自覚される。

余力があった頃に歩いていた大通りの光景。

年々、一息ついた後に立ち上がるのがしんどくなっている。

特にトイレに入ったときが問題だ。

四方を壁で囲われているトイレでは、夫と義母からの視線を感じないため、脱力し切ってしまう。

用を足した後、ただドアノブを眺める時間がある。

(この向こうに帰りたくない)と思いながら。

気合を入れて便座から立ち上がるものの、名残惜しくて便器を眺めてしまうこともある。

読んでいただきありがとうございました。
あなたが自由を諦めませんように。

冠鳥天狗より


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