家庭に居場所がないトー横キッズの日常③【超ショートショートまとめ】
「地球人は地球環境でしか生存できない」
母星に帰ろうとする彼の宇宙船に強引に乗り込もうとしたとき、私はその事実を知らされた。
「君から希望を奪ってしまったな。すまない」
彼が星空を仰ぎながら言う。
私も見上げると、さっきまで理想郷だった星々が、壁のシミに様変わりしていた。
〈奥原しおんのプロフィール〉
ガチャピンのパジャマを着たユリカが股間にペットポトルを当てて、膝立ちのミクがそれを咥えている。
「絶対あんたたちが今世界で一番下品だよ」
お腹を抱えて笑っていると、ミクが「TikTok上げるから撮って」と促してきた。
私は(私が見てるだけじゃ足りないのかな)と少し寂しくなった。
私は雑踏の中で疎外感を覚えながらトー横に帰っていた。
私たちと『まともな人たち』の間には乗り越えられない大きさの隔たりがある。
しかしその線引きは、私たちが自ら作り固執しているものだと思う。
『まともじゃない私たち』という枠組みがないと私たちは仲間でいられないのだから。
ノックが2回、1回、2回と合計5回鳴った。
事前に決めた合図の通りなのでドアを開けると、写真に比べて随分太っている男が入って来た。
「写真と違うじゃん」
男の言葉に内心で毒づきながら5000円札を受け取り、口で処理した。
「ちょっとどいて」
男に言われて便座を降りると、男が小便をした。
奥原しおんを含めたトー横キッズ達は、SNSで自分達への誹謗中傷を見かける度に「何を言われても仲間がいるから平気」と一笑に付した。
しかし、受験勉強に励む同級生の投稿や、掛け飛びで有名な中年女性のホームレスを目の当たりにするとき、互いに見せる笑顔は強がりに変容するのだった。
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