歯医者で抜いた歯をスッと戻す話 Season2 Episode1
2021年春、私は震えながら歯科医院の診察台に座っていた。
同じウソから入るスタイル。震えてません。
先日去年の話を書いたのですが、最後に思わせぶりな「シリーズ化するよ」みたいな終わり方をしました。
お察しの通り、実は完治ではなかったのです。
かなりいい感じではありました。少なくとも処置前よりは違和感も少ないし、もちろん腫れもない。抜いて戻した歯のレントゲンを見ても病巣は消えています。
ただ、やっぱり噛んだ時に少し違和感が残りました。骨ができるまでは、言ってみれば少し隙間にが空いているわけですから、多少の違和感があるのは当然です。数ヶ月おきに様子を見つつ、約一年が経った時に、まだ少し違和感があると伝えました。
そこで先生が、「ちょっと押してみますね。違和感があったら教えてください。」と、抜いて戻した歯を押しました。
アレ…何ともない。しっかりしたものです。変だな、いつもその辺りにちょっと違和感あるのに…。何ともないはずないのに…。
「これはどうですか?」
「じゃあこれは?」
「あ…ちょっと、あるかも。」
何だろう、正解じゃなかったけど先生が部分点をくれた、あの頃の気持ちが蘇ります。
「じゃあ今度は噛んでみてください。」
と、おそらく割り箸のような木の棒みたいな物を噛まされます。
アレ、また何ともない。いつも噛んだ時に微かに感じる違和感はありません。
「ハイもう一度噛んで。」
やはり何ともありません。
「ハイもう一度」
「あっ、あります!」
良くない知らせなのに、ちょっと嬉しそうになってしまった私。
「なるほど…。ちょうど一年ぐらい経ちますし、CT撮ってみましょうか。」
先生の意味深な言葉でCTを撮影した、その結果、
「この処置した歯は、黒い部分も消えてるし、骨ができてるのも分かると思います。この歯の病巣が大きかったので、去年ははっきり分かりませんでしたが、その隣の一番奥の歯の、この部分に影があって、おそらくそれが影響してます。やはり同じように処置をした方が良さそうですね。」
がーーん…(愛用の古典的ショック表現)
なるほど、さっきは押したり噛ませたりする歯を変えていたわけですね…。
というわけで、再び1月後に予約を取りました。
自分でも確認してみると、たしかに噛んで違和感を感じていたのは、以前処置をした歯でもなく、一個奥の歯でもなく、2本の歯のちょうど境目あたり。
手術当日、流れはほぼ同じなので詳細は省略しますが、今回の私はちょっと違います。もう素人ではありません(素人です)。前回の反省を生かし、まず処置前に
「麻酔が切れる前に、痛み止め飲んでいいですよね?あと、痛くて我慢できない時冷やしても問題ありませんか?」
しっかり確認しました。
「大丈夫ですよ。」
「良かった。前回、当日の夜がすっごく痛くて…」
「外科処置はね、どうしても痛みは出ますからね、特に当日は。」
聞いてないし!今度こそ聞いてないし!いや、痛くないとは思ってませんけど、そんな「うんうん想定内」みたいなリアクションするなら、事前に言っといて!めっっっちゃくちゃ痛いよって!!
「あと、痛み止めは、1回に2錠までなら、飲んでいいですよ。」
聞いてないし!また聞いてないし!それ前回言っといて!めっっっちゃくちゃ痛かったよ!?
「よかったー♪前回ほんとに、どうしたらいいか分からないくらい痛かったので。」
今回も、心の中でしか叫びません。
「今回は前回ほど悪くないから、そこまで痛くないといいですね。」
といいですね?願望?痛くないと思いますよ、じゃなくて?
「じゃ、はじめていきますねー。」
例の「折れたら戻せない、被せ物は壊れたら作り直し」を告げられた後、顔に布を掛けられ、延々と続く、恐怖のユサユサミシミシグルングルンが再び始まりました。そして、
「準備して」
ハイでました!お馴染み「もうすぐ抜けると見せかけて、そんなにすぐでもないよ」の合図です。もう騙されません。ユサユサユサユサユサユサグルングルングルングルン………………………………………
カラン。
ほーらね?結構かかりました。
でも今回は一番奥の歯で、二本の歯に挟まれていないからか、時間はさほど変わらないけど、心なしかスムーズだったような気もします。
そしてここから例のやつが始まるんですよね。掻爬。さあ先生が言います。
ガリガリ、コスコス。
あれ?言わなかった!先生「ソウハ」って言わなかった!そして短い!そんなにほじくられてない。申し訳程度。
もしかしてコレは…本当に前回より痛くないかもしれません。「前回ほど悪くないから痛くない」ってそういうことか!さすが先生、分かってらっしゃる!「といいですね」だなんてご謙遜を。
あっという間に、歯が一人で治療を受けるフェーズに移行しました。キュイーンキュイーンと鳴り響く音。そっちのけにされる私。
でも…先生、掻爬短かったけど、悪いとこちゃんと取れました?こんな思いしたのに残ってる、とかありません??
そっちのけられて暇なので、不安が湧いてきます。
もし良かったら…もう少しホジホジしてもいいですよ?ホントに大丈夫?しなくて。
そんなことを考えていると、突然レントゲンを撮る時に身体に掛けられる放射線を防ぐアレが乗せられました。
え?え?
先生たちが部屋を出る気配。
どういうこと???
まさか…あの子(歯)一人でレントゲンまで撮られてるの?不安がってないかしら。前回もそんなことあったっけ…。きっとあったのでしょう。いっぱいいっぱいで覚えてなかっただけで。
などと考えることおよそ20分。ついにあの瞬間がやってきました。
歯「スッ。」
私(おかえり。)
2度目ですから、もう落ち着いて迎えてあげることができます。「スッ」と戻されただけでも、うろたえたりしません。
歯が戻ってきたので、今度は私も一緒に記念撮影(レントゲン)。これも前回の記憶がありません。やはり前回はかなりパニックだったのかもしれません。
「はい終わりでーす。お疲れ様でした。大変だったでしょ?」と衛生士さん。
「2回目ですから、慣れたもんですね。」と先生。
コラ!
たしかに心の中のリアクションはちょっと慣れた素振りを見せたけど、歯をユサユサグルングルン抜かれて戻す、みたいなこと一回経験したからって慣れると思います?
「被せ物もしっかり作ってあったので、やりやすかったです。壊れることもなく。」
やりました!今回も作り直しを免れました。作り直しとなるとさらに大金が飛んでいきますから、すごく助かります。ありがとう前の先生!「壊れなかった」という患者のメリットより先に、「やりやすかった」という自分のメリットが出てしまうお茶目な今の先生も、嫌いじゃありません。
「注意事項は前回と同じです」
前回と同じ、えっと…ジャンプしても落ちてきたりはしないけど、ジャンプ禁止。あと運動(ジャンプ)禁止。ジャンプ禁止しか思い出せない。でもさっき受付で何か紙貰ったから、読んで確認しますね。
大金を支払い、痛み止めと抗生剤をもらって帰宅した、その夜のことじゃったー…(つづく)
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