見出し画像

記録「非・景観保全地域」(2024/03/20-04/07)

個展「非・景観保全地域」へお越しいただきました皆様、誠にありがとうございました。

展覧会の記録を残します。


京都と言えばと思い浮かべる風景、清水坂や嵐山、伏見稲荷…、ガイドブックに載っているようなイメージが広く大量に流通している。
観光都市・京都市の景観保全条例によって景観保全区域に指定されていない場所を取り上げた展示です。


その地域には、誰もがどこかで見たことのあるような普遍的な郊外の都市風景が広がっていた。京都市内においては保護のための施策がなされていない風景である。都市のあらゆる風景は景観法や都市計画法等、制度の枠の中にある。
私はこれまで風景を描いてきた。目の前にある風景について、それがどうやって、どのようにあるのか。私が生きるこの都市空間、その背後にある制度とともに風景を見ることでこの世界を知りたいと思った。全国の中でも法律や条例といった制度が特に厳密に定められている京都市において観光の対象とはならない風景。そこには私達、この時代の都市生活者達が共有している風景があるのではないか。


工業地域
2023 530×651mm
キャンバス、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨

町工場や企業が立ち並ぶ。付近の住宅地と比べると道幅広く、区画がブロック状に整備されていた。
都市計画法に基づき、各自治体は市街地での土地利用の用途を定めている。この地域は工業地域と指定されており、大規模な工場も建築可能であり、また住宅も建築できるが、学校や病院は建築不可となっていたりと規制がある。また建蔽率や容積率によって街の密度や規模も調整されている。
このような制度に従い風景は枠の中へ形取られる。地域社会や経済の規模や構成が移り変わる中、制度が変われば風景も変わる。京都市内には景観条例によって変わらない風景と変わりうる風景が隣り合う。絵としてこの風景が残るのならなんだか面白く思う。

商業地域
2024 606×727mm
キャンバス、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨

第二名神高速道路が高架で走る新堀川通。ここから数キロ南にある、久御山ジャンクションから東西南北四方へと高速道路が伸びている。
商店、飲食店、集合住宅と一戸建て住宅、企業ビルが混在し並んでいた。商業地域に措定されている場所では大規模であったり、危険物を扱う場合など工業系の建物に一部制限はあるが、それ以外の多様な土地利用が可能である。後述する国道1号線のバイパスとして作られた道路であり比較的新しい。他都市の「都市高速のある風景」とも類型を感じる。

景観保全区域界
2024 530×455mm
楮紙、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨

この地区では鴨川と景観保全地域を隔てる境界線が重なっている。遠くには古くから京都に住む人々が原風景としてきた東山がある。

準工業地域
2023 455×455mm
キャンバス、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨

巨大な企業ビル・工場の並ぶ中、ちらほらと農地があった。
1889年、市制の施行によって始まった京都市は今よりかなり狭い範囲、現在の上京区から下京区、東山区、左京区の一部を市域としていた。その後、1918年に周辺のいくつもの町村が編入しその後も段階的に編入があり現在の市域へ近づいていく。18年の編入も近代化による産業転換から、市内で起こった人口増加、住宅不足、家賃高騰から郊外への人口流出を原因とする。現在までも繋がるこうした社会問題だが近代化間もないような頃から存在していたことに驚いた。今展で取り上げる地域は昭和以降、京都市に編入していった地域である。かつて農村であったこの土地の履歴が残されているように思った。

工業地域
2024 1303×1621mm
キャンバス、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨

先述した第二名神高速道路と並行している国道一号線。
ロードサイドにチェーン店の看板が並ぶ。旅行に行ったり映画を見たりしていても、このようなロードサイドの風景が万国共通で面白い。これまでの町工場や新興住宅地と同じく、私も幼少期から見慣れた風景として親しみを感じる。
ここから北へ数キロで京都南インターチェンジと接続しているため大型トラックが行き交う。歩行者は少なく、街のスケールに自動車へと向けた利便性を感じる。


工業地域
2024 500×606mm
麻紙、砂、土、小石、岩絵具、顔料、墨




京都府内ではあるがその郊外の小さな町で生まれ育った私には、観光地としてのステレオタイプな京都のイメージは他人事だ。なんとなくの土地勘はできてきたが、いつまでも市街地に行けば観光客気分のままである。私にはこのような風景が故郷であり、今、足元の風景である。

最後になりましたが、今展を開催いただいたギャラリーへの感謝を記します。

個展「非・景観保全地域」
2024年3月21日㈭ ~4月7日㈰
BAMI gallery

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?