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能力の伸長を評価する

中学学生を対象にした研究人材育成カリキュラムと能力伸長評価法の開発を行いました。その結果、才能の多様性を損なわずに、能力の伸長を評価することができる可能性が示されました。

愛媛大学教育学部紀要
中学生の科学的能力を伸長させる科学者育成プログラムの開発
-次世代科学者育成プログラムの評価-

全文はURLから読めます。

背景

 日本は、科学立国とよばれ、国際学力調査では科学分野が高得点を記録しています。しかし、その一方で科学に関する好意的態度が、諸外国として低く、かつトップ層が薄いことに課題があります。そこで、スポーツや芸術のように、科学分野でも若年層から多様な才能を伸長させるためのカリキュラム開発が期待されています。

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スポーツやアートでは若年層からの育成カリキュラムが充実

 2013年から3カ年に渡って、国立研究開発法人科学技術振興機構の次世代科学者育成プログラム事業を受託して、中学生を対象にした研究人材育成カリキュラムと能力評価法の開発を行った結果を報告しています。

教育カリキュラム

 予算の都合上、教育カリキュラムは単年度で、予算が来る2ヶ月前の6月に開始して翌年3月まで実施しました。内容は、本学が開発した新たなタンパク質合成法や教材用ハイブリッドロケットの発射試験から、単結晶X線構造解析、光合成に関わるクロロフィルの単離、光で構造が変わるホトクロミズムなど、多様な内容を実施しました。また、県外、海外に行くことも、県外の研究者をおよびしたこともあります。
 講座は、4時間/回で、年間20回実施しました。詳しくは論文に掲載されていますので、2015年の内容から、いくつかの事例をご紹介します。

アジア・太平洋科学才能フォーラム
 台湾の台北師範大学と台湾文部省が主催する、アジア5カ国の才能児が集まる合宿イベントです。チームアクティビティでは、英語を駆使して他国の生徒と一緒にプレゼンを作り上げます。

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イグノーベル賞受賞者講演
 涙の出ないタマネギのご研究で、イグノーベル賞を受賞されたハウス食品の今井真介先生に、常識を覆す発見や先生が研究者を目指された経緯などについてご講演いただきました。

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 2013年には、新元素113番を発見された森田浩介先生にも来学していただきました。

日本化学会中国四国支部大会ポスター発表
 高校生に混じって中学生が推進した研究の発表に挑戦しました。並み居る高校生と並んで、中学生の発表が優秀ポスター発表賞を受賞しました。

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 インプット(学習・体験)とアウトプット(質疑・発表)を繰り返すことで、研究者としての将来像を明確にしていくことが狙いです。また、現代の科学研究は、チームで研究を進めることが当たり前になりつつあります。そこで、中学生同士が協働して研究を推進しています。情報は、インターネットのグループウェアを使って逐次共有していました。

能力伸長評価

 多様な才能を型にはめずに評価するために、能力評価には、複数の指標が必要です。そこで本研究では、生徒の活動を分類して、それぞれの得意分野が活かせるように5つの観点で測定しました。

(1) 自己評価 講座での学びの生徒自身による評価
(2) 客観評価 補助員が生徒の活動を評価
(3) 研究遂行評価 共同研究における発言・行動を評価
(4) 課題達成評価 講座の事前学習の達成度を評価
(5) 協働評価 講座や研究での協働性を評価

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講座での行動などを数値化して評価する

 複数指標で見える点について、ご紹介します。たとえば、自己評価と客観評価は、同じ活動を異なった視点(生徒と補助員)が評価していますが、ふたつの評価には食い違いが生じました。

自己評価と客観評価

自己評価(実線)と客観評価(破線)の違い

 自己評価は変動の幅が小さく、評価値が最初から高止まりしている状態になっています。非常に単純に言えば、自己評価は生徒の能力の変容を評価するときの有用性が低いことが示されました。自己評価は10代前半では有効に機能していない可能性があります。

参考論文 報酬に応じてパフォーマンスを調節できるのは20歳以上

 今回は複数の指標がありますので、自己評価も含めた5つの観点のパフォーマンス値から、生徒の行動傾向を因子分析で分類しました。

因子分析

因子分析による行動傾向分類

 残念なことに生徒数が9名と非常に少ないので、あくまで参考値ではありますが、それぞれの行動の傾向が大まかに分類されそうです。クラスター分析を併用すると、生徒は3つの群にわかれ、とくに能力が発揮されるようになったのが、生徒1,2,8の3名でした。生徒1は協働性に富み、生徒2は満遍なく能力を発揮し、生徒8は発想に優れていました。多面的に生徒の行動を評価することで、多様な才能を持つ生徒の良い部分を評価することができそうです。

まとめ

 論文では、松山市の一般中学校1357名と事業に参加した生徒の比較なども行っています。スポーツやアートと同様に、科学に対する高い意欲と能力を持つ生徒に対する早期教育の充実は、生徒の自己肯定感を育て、将来に対する志望を明確化します。そのためには、多様な才能を持つ生徒の得意な部分を伸ばしつつ、苦手なことが少しずつでもフォローできるようなカリキュラムが必要だと思います。

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好きな気持を活かし、伸ばせるカリキュラム

 この事業などを継承して、現在、愛媛大学では小中学生を対象にしたジュニアドクター育成塾事業、高校生を対象にしたグローバルサイエンスキャンパス事業を実施しており、意欲や才能を小中高大を通して一貫教育するための教育カリキュラムの整備が行われています。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育