見出し画像

天才にも仲間は必要だ!

Team Geek
オライリージャパン
Brian W. Fitzpatrick,Ben Collins-Sussman,及川 卓也 (解説),角 征典 (翻訳)

“いつも1人でやっていると、失敗の可能性が高くなる。そして成長の可能性が低くなる。”

 GoogleのGeek(オタク)なプログラマーによるコミュニティ理論です。技術者・研究者志望の人だけでなく,一般的な組織論としてもおもしろいです。本書の考え方は,私が実施主担当者を務めるジュニアドクター育成塾の基本的な考え方と同じですので,とても共感しました。

1 天才もひとりではない

”隠れ家に1人でいたら,才能が開花することもない。秘密の発明をこっそり準備していたら,世界を変えることもできないし,数百万人のユーザーを喜ばせることもできない。”

 プログラマ,エンジニアは,孤独な作業だと考えられがちです。そのため,他の分野よりも「孤独な天才」が成立する余地があると思われるかもしれません。しかし,Googleのプログラマである著者は,明確にこう述べています。

ソフトウェア開発はチームスポーツである。

 誰にも相談しなければ,自分が間違ったことをしていても気づきません。より良い方法があったとしても知ることができません。失敗を恐れず,アイデアを共有し,素晴らしいチームを作れるよう努力することが,自分自身のためにも必要なのです。

2 HRTによるチームワーク ーHumility,Respect,Trustー

 チームワークに必要なソーシャルスキルとして,著者は謙虚,尊敬,信頼の3つのスキルをユーモアたっぷりに設定しています。

謙虚
 世界の中心は君ではない。君は全知全能でもないし,絶対に正しいわけでもない。常に自分を改善していこう。
尊敬
 一緒に働く人のことを心から思いやろう。相手を1人の人間として扱い,その能力や功績を高く評価しよう。
信頼
 自分以外の人は有能であり,正しいことをすると信じよう。そうすれば,仕事を任せることができる。

 たとえば,誰しも失敗を認めたくはないものですが,間違いや能力不足を謙虚に認め,敬意を持って他者への説明と責任を果たすこと,そして他人を信頼して意見を受け入れることが大事だと述べています。そして,そのチーム文化を守り,受け継いでいけるよう,チームに参加する人間が意識を共有することが大事なのです。チームの文化を守るための「正解」はありません。互いが最大のパフォーマンスを発揮できる環境が重要です。

3 自分がリーダーになってみる経験が大事

”プロジェクトを進めるためには,誰かが運転席に座らなければいけない。”

 エンジニアは自分の仕事にしか興味がないので,マネージャーになりたがりません。しかし,著者はエンジニアこそマネージャーに積極的になるべきだと述べています。なぜならマネージャーになれば自分のタスクを自分で管理することができるようになるからです。そして自分を含めて全体を管理することで,自分がマネージャーに向いているかどうかを知ることもできます。

4 サーバント・リーダーシップ

”(リーダーに必要なことは)問題を整理したり調査することで,彼が自分で問題を解決できるように支援するのである。そうすれば,彼の答えが見つかる。”

 マネジメントで重要なことは,チームを助け奉仕する,HRTのチーム文化を育てるチームの執事としてのリーダーです。リーダーに必要とされるのは,チームの問題を解決できる「答え」を知ることではなく,「誰が」答えを知っているのかを知ることだと,著者は述べています。チームの触媒となって,チームが円滑に行動するために必要なことは,エンジニア自身が一番良くわかっています。だからこそ,リーダーとしてよりよく振る舞うことができます。また,マネージャーに,自分がどのような助けが必要なのかをうまく伝える練習にもなります。

5 最後に

 本書はエンジニアによる組織論,そして失敗を尊ぶGoogle社という社風など,一般社会とは少し異なった部分はありますが,エンジニア的な実例をあげて解説されますので,他業種のかたでも「なるほど」と頷ける部分は多いと思います。とくにHRTのチーム文化で,チームを活性化していく考え方は,リーダー初心者の勉強になるところだと思います。また,チーム文化にどうしても馴染めない有害な人にどのように対応するかについても,1章を使って詳しく述べられています。個人的には,以下の文章が特に印象に残っています。

“彼は天才と狂気は紙一重の言葉通りの人だった。問題は天才はコモディティ化していることだ。今となっては奇妙な振る舞いは受け入れられない。”
 Greg Hudson

 著者は,ずば抜けて能力が高くとも,チームとして活動できないエンジニアは去ってもらうと述べています。天才より時間がかかるとしても,チーム文化を尊重するエンジニアが重要なのです。

 ジュニアドクター育成塾では,孤独な天才神話を脱し,HRTを重視するチーム文化を育てられるようアップデートを続けていきたいと思います。


この記事が参加している募集

推薦図書

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育