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どの学部を選ぶ?

大学進学という進路選択において、10代はどのように捉えているのかを全国の15~19歳、約1000名を対象に調査しました。その結果を、愛媛大学教育学部紀要で発表しましたので概要を解説したいと思います。

愛媛大学教育学部紀要
10代の進路選択におけるジェンダー比較 -インターネット調査による要因比較-
全文は上のURLから読めます。

背景

 「大人になったら何になりたいですか?」という質問に対する女性の答えは、自身の才能ではなく、性別についての自分の信念と、育った社会の集団的信念によって形作られています。この性別と能力に関係があるとする考え方をジェンダーステレオタイプとよびます。典型的な例が「男性は理系、女性は文系に秀でる」という考え方です。

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 近年の研究では、性別は才能を規定しないことが示されています。しかし、いまだに「男性は理系、女性は文系」という考えは根強くあります。そうした考えが、進路選択にどのように影響しているのかを調べることで、性別によらない才能育成に繋げるために今回の調査を実施しました。

参考論文 160万人以上の結果から能力差は性別ではないことを示唆。

LINEリサーチ

 調査は、どうやって回答を集めるかが大事です。日本の中高生、全員に答えてもらうのが理想ですが、現実には難しいので、一部分の調査から全体を予想することになります。そこで大事になるのは「誰に聞くか」です。学校によっても、地域によっても答えには偏りがあるかもしれません。そのため、今回の調査ではLINE社が提供しているLINEリサーチを使いました。詳しい情報は論文に載せていますが、日本の15~19歳の代表となるデータになったと思います。

自分に向いている学部の特徴

 向いていると思う学部には、性別による偏りがありました。男性は理工系、女性は、医療系・文学系・芸術系が、全体の約3割を占めました。下の図は横軸に男性、縦軸に女性でグラフにしたものです。横軸(男性)は、工学系、わからない、理学系の順に、縦軸(女性)は、わからない、医歯薬・医療系、文学系、芸術系の順に選択されています。

向いている学部

 「男性は理工系、女性は人文・芸術・医療系」という傾向は、性別による向き不向きを反映していて、ジェンダーステレオタイプの影響を感じますね。ちなみに向いている学部の男女比は、実際の学部の男女比とほぼ同じでした。調査結果は、実態を反映していそうです。

どうして向いていると思う?

 その学部が向いていると思うという考えに影響のあった情報源を聞いてみましたが、男女ともに「特になし」がもっとも多い結果になりました。男女ともに、3割弱の人は向いているかどうかの判断に明確なキッカケはなかったようです。特になしは、勉強の成績を意味しているのかもしれません。
 特になしを除いて、影響があった情報源は、男性は先生、女性は親族が選ばれています。こちらも横軸に男性、縦軸に女性としてグラフを描きました。

情報向いている

 気になるのは友達の位置です。男女ともに友達はマスコミよりも低い位置にあります。特になしという回答と合わせて、友達と将来について話し合う機会が減っているのかもしれないことが気がかりです。

進路選択の性別による偏り

 現代の10代も性別による能力の偏り、ジェンダーステレオタイプを反映した進路選択を行っている可能性が示されました。ここでは紹介していませんが、論文中では「向いていないと思う学部」についても調査しています。それらの結果を総合すると、ジェンダーステレオタイプはまだ根強く残っていると感じます。誰もが無限の可能性をもっているのに、性別で能力が限定されていると感じ、自分の可能性を制限しているとすれば、とても寂しいことです。
 母親が数学を苦手とする女児は、数学を苦手とする女性教員に教わると、ジェンダーステレオタイプを強くするという研究もあります。時代が変わっても、ジェンダーステレオタイプが継承されていくのは、こうした背景が示唆されています。

  ジェンダーステレオタイプを解消し、誰もが自分の才能を十全に発揮できるようになる環境づくりのための基礎調査を今後も続けていきたいです。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育