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ミライの小石18.挫折は「買ってでも」するものに~中国では恋愛が大学で教えられている!

多かれ少なかれ、人間は挫折を経験するものです。挫折は人を成長させることもあれば、再起不能に追いやることだってあります。言うまでもないことですが、挫折はしようと思ってできるものではなく、不意に強いショックを受けて初めて、挫折だった、と気付く類いのものです。ところで、近年の2つのニュースは、「挫折」にまつわる新たな示唆をもたらしています。

1つ目のニュースは中国から。息子のゲーム依存症に頭を悩ませた親がプロゲーマーに依頼し、息子の夢を打ち砕いてほしいと頼んだというニュースがありました。その結果は……

ゲームが嫌になるくらいボコボコに負けて、再び昔の良い息子に戻って欲しい…そんな両親からの切実な依頼をプロゲーマーは快諾。依頼を受けたプロゲーマーはゲーム依存症の少年と5時間に渡って対戦して、大人げないほど一方的に連戦連勝。あれだけゲームが好きだった少年も、最後は意気消沈してギブアップ。両親は「将来のことを考えて、ゲームより勉強に集中するべきだ」と説得することに成功したそうです。

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圧倒的な強者を相手に5時間戦い抜いた子供の気骨はなかなかのものですが、最終的には親の言葉を受け入れたようです。
本事例は、挫折サービスの販売とも捉えられるでしょう。子供が井の中の蛙にならぬよう、親がお金を払ってでも挫折経験を与える。むろん、子供が悔しさをバネにもっとゲームに邁進する可能性もあったわけですが、現実的なキャリア形成のため早めに挫折を経験させておくという親のもくろみは、取りあえず成功したといえます。

2つ目のニュースは同じく中国から。中国では、近年、国家が「恋愛心理教育」を受けさせているそうです。受講者にあたる大学生もその9割が高等教育機関で「恋愛講座」を開設していることに賛成しており、恋愛中の感情のすれ違いにどう対処するか、恋愛が終わったときにどう向き合うか、強く関心を持っているようだ―というニュースです。

中国教育部(省)はこのほど、全国人民代表大会の代表が提起した「高等教育機関に必修科目として家庭・家庭教育・家風といった講座を開設することに関する提案」について答えた際、「高等教育機関に対して恋愛心理教育を強化するよう奨励する」との見方を示した。一部の高等教育機関ではすでに結婚・恋愛教育関連の講座を開設している。(中略)武漢大学で喩豊教授が「恋愛心理学」の講座を開設し、教室から学生があふれ出すほどの人気となった。そして、腰掛を持ち込んだり、教室の窓の外からよじ登ってまで受講しようとする学生まで登場した。喩教授は、「講座が大人気となったということは、学生らがどのように異性を愛せば良いのかについて知りたいと強く願っていることの表れだ。若い学生は、親しい関係を期待し、それを渇望しているが、親密な関係が自分にとってどんな意義があるのかはよく分かっていない。学生らをうまくリードできるカリキュラムがあれば、たくさんの食い違いや障害を避けることができるだろう」との見方を示している。

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長く一人っ子政策を続けてきた中国の「小皇帝」たちは過保護な環境で育ち、ややコミュニケーションに難を抱えているのかもしれません。むろん、国家ぐるみの少子化対策の一環として、恋愛を高等教育機関に取り入れたい政府の意図もあるでしょうろう。

そのような事情は置いても、他人を傷つけたくないという思いや、失恋によるショックを受けた際に心を落ち着ける方法を知りたいという欲求は、普遍的なものでしょう。恋愛心理を座学で教わることは、いうなれば、他人への配慮を身に着け、失恋で受けるであろう挫折に対して、前もって対処策を身に着けておくということなのかもしれません。

人生は一度きり。そのうえ現代人は、効率的に生きることを求められます。どうせ経験する挫折は、早いうちに経験しておいた方がいい、そのダメージを軽減する方法があるのであればお金を払ってでも会得したい―という気持ちの表れなのかもしれません。生き方の自由度が高くなればなるほど、挫折を前もって設定するようなキャリアプランが形成され、挫折体験や挫折への対処を教える講座や挫折サービスの販売が一般的になるかも。「若いうちの苦労は買ってでもせよ」という金言が、ごくありきたりになるような気もしています。

引用
(※1)ゲーム依存症の荒療治!親がプロゲーマー雇って「息子をボコボコにしてくれ」と依頼!?-海外B級ニュース https://bq-news.com/parents-hire-skilled-gamer-to-beat-children-at-video-games-and-crush-their-confidence 2023年2月17日閲覧
(※2)中国が高等教育機関に対して恋愛心理教育強化を奨励 大学生約9割「恋愛講座開設してほしい」 -人民網日本語版 http://j.people.com.cn/n3/2022/1009/c94475-10155828.html 2023年2月17日閲覧


この記事を書いた人 藤本一輝
繁華街の路地裏や川沿いを散歩しながらああでもないと考えを巡らせるのが好き。属性を問わずいろいろな人と交流するのも好きです。
関心…考現学/エスニック料理/国内サッカー/モードファッション/路線バス/文化論

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