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ミライの小石22.中国の新語から見る未来

毎年恒例の「新語・流行語大賞」。
年の瀬をしんみり感じたり、聞いたことのない言葉が入選していて時代遅れになったかと嘆いたり、ともあれ話のネタとしてすっかり定番化しています。

実は日本のみならず中国にも同様の試みがあるそうです。
2023年12月20日、複数の団体が共催する「漢語盤点2023」で、「流行語」「ネット用語」「新語」のトップ10が選ばれました(大規模データを解析し、言語情報処理技術を活用したうえで、最終的に専門家が選定するようです)(※1)。

「新語」のランキングには「生成的言語知能」「大規模言語モデル競争」などテクノロジーの進展を反映するワードが並ぶ中、「村超」という日本で暮らす人々にとっては、なじみのない語も含まれています。
いったいどのような意味なのでしょうか……?

結論から言えば、「村超」は「村のスーパーリーグ」を指し、「村」と「中国サッカー・スーパーリーグ(中国超級:略称は中超)」を掛け合わせています。
村民たちの草サッカーリーグ
、とでも言えましょうか。

中国農村部に位置する、貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州の榕江県の事例によれば、「村超」はアマチュアたちがひたむきに戦うサッカーのリーグ戦として、注目を浴びたようです。


年齢や職業に制限はなく、約20チームが毎週金・土・日曜日に1日3~4試合を開催。農民や建設労働者、トラック運転手、学生など10代半ばから40歳過ぎまでの村民が選手となり、夕暮れ時から午前0時ごろまで、1試合ごとに1万人以上の観客が集まる盛況ぶりだ。審判や運営スタッフはボランティアが務める。

(※2)

村おこしの手段としても大いに役立っているようで、多くの観光客を集めているとか。別の記事(※3)によれば、ネットでの総閲覧数は20億回を超え、勝利チームには豚足が送られるとのこと。
ローカル色を残す「村超」は、中国全土にファンがいることがうかがえます。

ここ数年、中国のサッカーファンは歯がゆい思いをしてきたのかもしれません。
というのも中国では、トップダウン的なサッカー強化策が功を奏さなかったのです。政府の意向で国内リーグの強化が推し進められていましたが、クラブの親会社であった不動産企業はバブル崩壊にともない運営から撤退、コロナ禍や汚職もあいまって、各クラブの弱体化が進みました。
中国代表も有力な外国籍選手の国籍取得による強化を図りましたが、アジア予選での苦戦が続き、2002年の日韓大会を最後にW杯への出場を果たせていない状況です。

そのような背景が影響しているのかもしれませんが、技量が高いわけではなくとも必死にプレーする選手の姿が観客の心を打つのでしょう。観客たちの熱気にも後押しされ、「村超」はなんと世界最高峰のイングランド・プレミアリーグと戦略的提携を結びました。2023年12月には、英国大使館のサッカー発展シニアマネジャーが前述した榕江県に出向き、小中高のサッカーコーチ44人を指導したとのこと(※4)。

サッカーの本場仕込みの指導を受けた子供たちが、ゆくゆくは代表選手として母国を再びW杯出場へと導く未来が訪れるかもしれません。


さて、自分自身を顧みると、国内外の「未来の兆し」を追うことに夢中で、近所について思いを馳せる機会はありませんでした。
私の居住する東京郊外の住宅地では地域活動が盛んで、市報のお知らせ欄を見てみると、中学生の学習支援ボランティアから商店街のヒーローショーの手伝いに至るまで、仲間を募っている人が意外と多いことに気づかされます。
「村超」とまではいかなくとも、自分なりにできることを通じて、地域との関わりしろを増やす1年にしていきたいです。


(参考)
※1 中国:漢語トレンド2023、「村超」など選出-中国:漢語トレンド2023、「村超」など選出 / 中国産業データ&レポート 亜州ビジネス https://ashu-chinastatistics.com/news/001537-841610015500 2023年12月25日閲覧 
※2 中国で「農村NBA」と「農村プレミアリーグ」が爆発的人気(東方新報) - Yahoo!ニュースhttps://news.yahoo.co.jp/articles/572865cae3235bc2f200877dd2efc634f35f7019 2023年12月25日閲覧 
※3 開催中の「村サッカー・スーパーリーグ」に人気爆発 中国貴州 - CRIオンライン https://japanese.cri.cn/2023/06/16/ARTIeaWPWMJuuWN8vlA3Mj61230616.shtml 2023年12月25日閲覧 
※4 中国の「村サッカーリーグ」と英国のプレミアリーグの共同プロジェクト実施  - recordchina
https://www.recordchina.co.jp/b925454-s6-c50-d0189.html 2023年12月25日閲覧 


この記事を書いた人 藤本一輝

繁華街の路地裏や川沿いを散歩しながらああでもないと考えを巡らせるのが好き。属性を問わずいろいろな人と交流するのも好きです。
関心…考現学/エスニック料理/国内サッカー/モードファッション/路線バス/文化論

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