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『竜とそばかすの姫』を見た感想

細田守監督のアニメ映画作品『竜とそばかすの姫』を見た感想を、なるべくネタバレにならない範囲で書きたいと思います。
よろしければ読んでいただけると嬉しいです。

見出し画像は、主人公の鈴(すず)の家への帰り道にある「沈下橋」です。鈴の帰り道のシーンはよく出てくるのですが、特に田舎の原風景のイメージとして印象に残る演出がされていました。モデルは高知県越知町にある浅尾沈下橋です。
「沈下橋」とは、雨で川が増水して洪水になりやすいため、木やゴミが引っ掛からないように「欄干」の全くないコンクリート造りの橋です。何の飾り気もありませんが、「質実剛健」なイメージです。
「欄干」がないので川に落ちそうで歩いて渡るのにも怖そうな橋ですが、地元の人は自転車や自動車でも渡っているそうです(前方から相手が来たらどうやって避けているのだろう?)。

あらすじ(パンフをそのまま転記)

自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生・鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだった鈴は、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界「U(ユー)」に参加することに。
「U」では「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。
歌えないはずの鈴だったが、「ベル」と名付けた「As」としては歌うことができた。「ベル」の歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億の「As」が集う「ベル」の大規模コンサートの日。突如、轟音とともに「ベル」の前に現れたのは、「竜(りゅう)」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な「竜」によりコンサートは無茶苦茶に。そんな「竜」が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づく「ベル」。一方、「竜」もまた、「ベル」の優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

「U」の世界の秩序を乱すものとして、正義を名乗る「As」たちは「竜」を執拗に追いかけ始める。「U」と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、「竜」を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、「ベル」は「竜」を探し出しその心を救いたいと願うが。

現実世界の片隅に生きる鈴の声は、たった一人の「誰か」に届くのか。
二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。

もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。

感想

「ベル」と「竜」が「美女と野獣」のようにミュージカルをやり出した時は、ディズニー映画の真似事は見たくないなと思いながら見ていました。
「U」の世界で描くバーチャルリアリティが最初のうちはずっと映像美と音楽だったので、こういう調子なら私が細田監督作品に期待しているものとは違ったなと思いながら見ていました。
内気な女の子がバーチャル世界で自己実現するだけの話なら、ストーリーとしても陳腐だなと思いながら見ていました。

最後まで見終えると、ちゃんとネット文化への造詣の深さをアニメ映画というエンタメに昇華させる細田監督作品(僕らのウォーゲーム、サマーウォーズ等)らしい仕上がりになっていると思いました。
VTuberの活躍とか、「ハチ」として登場した「米津玄師」とか、「竜」を応援する動画のノリが「ゆっくり霊夢・魔理沙」的だとか、色々と思い起こしました。
その中でもインターネット正義マンに着目したのはさすがでした。
「正義マン」「ネット警察」「自治厨」がエスカレートして見せる理不尽さをちゃんと描いてると思いました。リーダーの名前が「ジャスティン」とか、そのまんまだなと思いながら見ていました。

私は、『嫌われる勇気』の記事(5月のnote)にも書きましたが、コミュニティのルールではない自分のルールをさもコミュニティのルールかのように他人に押しつける行為は理不尽だと思っています。毅然と対峙した、鈴の姿にスッキリしました。

私は「竜」の正体がすぐに分かりました。「As」は本人の潜在能力を解放させて、仮想世界に投影する仕様であることを考えると分かりやすいです。
逆に、鈴(ベル)が「竜」を気にかけてその正体にこだわる心情が分からなかったのですが、自分に近い現実世界での孤独感(母親の喪失)を無自覚に「竜」に見いだしたからかなと思いました。
「As」の姿を現実世界の自分の姿に逆投影させる「アンベイル」(「ジャスティン」が持つ見せしめ用の装置。分かりやすく言うと「開示ビーム」)の使い方は、やはりそう使うよなと思いました。

最後の展開は、ストーリーとして無理があるように思いましたが、「時をかける少女」のセルフオマージュをやりたかったのかなと思いました。
待っている人を力強く抱きしめて勇気づけるのをやりたかったのだと思いました。坂道で転倒させてキズだらけになった女子高生を前に進めさせるのは相変わらずだと思いました。
あるいは、自分ルールの理不尽な押しつけと対決する勇気を、現実世界でも描いたのかもしれません。ただ相手が良すぎただけで、結果オーライすぎないかとは思いました(何か伏線を見落としたかもしれません)。

幼なじみである同級生の忍(しのぶ)くんのあのセリフは、「おまえ…タイムリープしてね?」のオマージュだと思いました。

私は、この作品だと鈴の親友であるヒロちゃんが一番好きです。ひさびさに古典的なコテコテのメガネ女子キャラを見たなと思いました。プロの声優さんがやってるのかなと思いましたが、YOASOBIのikuraさんが声をされていたので驚きました。この作品のコミカルさはヒロちゃんのおかげだと思います。
あと「竜」の声をされた佐藤健さんは、さすがの芸達者だと思いました(仮面ライダー電王での声の演技から、彼の声の出演にはあまり不安がないです)。

個人的にはとても満足できる作品でした。最初は大作アニメ映画らしい映像美と音楽しか評価されないだろうと見ていましたが、見終えると細田監督作品を見たなという充実感がありました。
細田監督作品の中で「時をかける少女」「サマーウォーズ」が好きな方にはオススメだと思います。


興味がある方はぜひ劇場に足をお運びください。
私は見て損のない作品だと思いました。

拙い感想文になりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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