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電車内での「居眠り」に御用心

過日、JRの某線に座っていた。

平日午後三時を少し回ったくらい。

車内は立っている数人がドアの所に居るくらいで、席に余裕も少しある。

自分はドアに一番近い、すみっこの席にいた。

自分の右側には袖仕切り(板)、左側には20代前半
らしきスーツ姿の女性、女性の左側には、80代くらいの男性が座っていた。

しばらくするとこの女性が、気持ち良さそうに舟を漕ぎだしたのだ。
お昼過ぎでお腹がいっぱい。疲れもあって、いい気持ちなのかもしれない。
自分に寄りかかる分には、重いがそっとしておこうと思った。それほどひどい寄りかかり方でもなかったし。

少し時間が経つと、
「すみません…!」
と小声で謝って目を覚ました。
よかった、体が真っ直ぐに戻った。
手に持っているビジネスバッグも、持ち直してくれた。
中身がこぼれ落ちそうだったんだ。

向かい側の席の御婦人達も、安堵の表情だ。

それも束の間、再びグラングランと、
大きく舟を漕ぎ出した。
今度は自分の方によりかかる格好ではなく、
反対側の男性の方に思いっきり
倒れこんでゆく。

コレはまずい。見ず知らずのお爺さまは、
困り果てた表情で、自分に助けを求めている。
おぉ?私にどうしろと?知り合いではないですが…?

スンデのところで体勢を持ち直して、一瞬目を覚ます彼女。睡魔と激闘中だ。
陰ながら応援しているぞ!
その気持ち良さも、起きたくない気持ちも
言わなくてもわかっているとも!
でも頑張って起きてくれ!

しかし、お爺さまも困り果てた表情だ。
何回も覆い被さる様に、若い女性が倒れこんでくるのだから。

一瞬の隙をついて立ち上がってしまえばいいのだろうが、もうここまで来てそれをしたら、きっと彼女はシートに思いっきり倒れ込んだ後に、床にズリ落ちてしまうかも知れない。
今は、お爺さまを頼りに座っていられる様な状況なのである。

困り顔で、更に涙目のお爺さまと目があった。
助けを求めている。
次で降りるらしいのだ。ただ、自分で若い女性に触るとまずいと思ったらしく、手が空を彷徨っている。声もどうかけて良いか分からない様で、
口がパクパクしている。

仕方ない、お節介をするか…。

ー 大丈夫ですか?1回ちゃんと目を覚ました方がいいですよ。ー

彼女の右手をグッと引き寄せてお爺さまから引き離しつつ、声をかけて起こした。

焦点の合わない目で
「すみません…」を繰り返している。
本当に疲れているんだろう。
化粧っけもない、素直そうな可愛い子だった。

ー私は次で降りるから、端に座りませんか?
     寄りかかった方がいいですよ。ー

彼女は素直に横に移動して、すぐにもたれかかった。
自分はまだ降りる駅じゃないんだ、本当は。
仕方ないだろ、こうして守るしか方法は無い…

ドアが開くのももどかしく、そそくさと車両を降りた。早足で2つ隣の車両に乗り換えて、座る。
もう彼女の視界に自分は見えないだろう。
隣を気にせず、ゆっくり眠って欲しい。

(ちゃんと目的地で降りられたかなぁ)



             (注:自分は彼女と同性)