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【読書】安倍晋三 回顧録 (単行本)  ベストセラーランキング1位


アマゾン 本書の概要より。

知られざる宰相の「孤独」「決断」「暗闘」が明かされる

2022年7月8日、選挙演説中に凶弾に倒れ、非業の死を遂げた安倍元首相の肉声。なぜ、憲政史上最長の政権は実現したのか。

第1次政権のあっけない崩壊の後に確信したこと、米中露との駆け引き、政権を倒しに来る霞が関、党内外の反対勢力との暗闘……。乱高下する支持率と対峙し、孤独な戦いの中で、逆風を恐れず、解散して勝負に出る。この繰り返しで形勢を逆転し、回し続けた舞台裏のすべてを自ら総括した歴史的資料。オバマ、トランプ、プーチン、習近平、メルケルら各国要人との秘話も載録。

あまりに機微に触れる――として一度は安倍元首相が刊行を見送った、計18回、36時間にわたる未公開インタビューを全て収録。知られざる宰相の「孤独」「決断」「暗闘」が明かされます。

【財務省との暗闘・国内外要人との交渉など 本文より一部紹介】

「予算編成を担う財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。

財務省は外局に、国会議員の脱税などを強制調査することができる国税庁という組織も持っている。さらに、自民党内にも、野田毅税制調査会長を中心とした財政再建派が一定程度いました。(中略) 増税論者を黙らせるためには、解散に打って出るしかないと思ったわけです。

これは奇襲でやらないと、党内の反発を受けるので、今井尚哉秘書官に相談し、秘密裡に段取りを進めたのです。

経済産業省出身の今井さんも財務省の力を相当警戒していました。2人で綿密に解散と増税見送りの計画を立てました。」

(148ページ、「増税延期を掲げた「奇襲」の衆院解散」より)

「小池さんは、常にジョーカーです。手札の1から13 の中にはないのです。ジョーカーのカードなしでも、トランプの多くのゲームは成り立つのだけれど、ジョーカーが入ると、特殊な効果を発揮してくる。ある種のゲームでは、グンと強い力を持つ。スペードのエースよりも強い。彼女は、自分がジョーカーだということを認識していると思います。ジョーカーが強い力を持つには、そういう政治の状況が必要だね、ということも分かっている。」
(263ページ、「小池氏は『ジョーカー』」より)

「トランプは、国際社会で、いきなり軍事行使をするタイプだ、と警戒されていると思いますが、実は全く逆なんです。彼は、根がビジネスマンですから、お金がかかることには慎重でした。お金の勘定で外交・安全保障を考えるわけです。(中略) 米軍が2017年、日本海周辺に空母打撃群を派遣した時も、トランプは当初、私に「空母1隻を移動させるのに、いくらかかっているか知っているか? 私は気にくわない。空母は軍港にとどめておいた方がいい」と言っていたのです。
(294ページ、「史上初の米朝首脳会談へ 揺らぐ圧力路線」より)

【本書の目次】

なぜ『安倍晋三 回顧録』なのか―「歴史の法廷」への陳述書
第1章 コロナ蔓延 ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで 2020年
第2章 総理大臣へ! 第1次内閣発足から退陣、再登板まで 2003-12年
第3章 第2次内閣発足 TPP、アベノミクス、靖国参拝 2013年
第4章 官邸一強  集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足 2014年
第5章 歴史認識 戦後70年談話と安全保障関連法 2015年
第6章 海外首脳たちのこと  オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン
第7章 戦後外交の総決算 北方領土交渉、天皇退位 2016年
第8章 ゆらぐ一強  トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威 2017年
第9章 揺れる外交  米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉 2018年
第10章 新元号「令和」へ  トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ 2019年
終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由


アマゾン レビューより。

本書の内容を一読し、安倍晋三・元首相が政界での今後の立ち回りを踏まえて発刊を見送ろうとしたのも頷ける内容。

安倍氏・本人へのインタビュー形式で本書は進む。ここ15年程の日本や世界の情勢変化一つ一つに対する、安倍氏の受け止め、官邸や自民党内の動きなど、永田町や霞ヶ関、各国首脳との交渉の舞台裏を覗くことができる。何より各政策や政治的決断までの背景に関する内容が濃い。そして、章立てが2019/2020年の新型コロナ対応から始まり、第1次・第2次安倍内閣へと続いていく構成で、最近の話題から読み始めることになるため、グッと引き込まれてしまった。

短期の目で見れば、安倍政権が終了してから未だ日は浅く、長きに渡る政権運営の中で数多の政策を打ち上げ、国内外での議論を巻き起こした(が巻き起こった)点、元首相が未だ政界での歩みを終えていなかった点を踏まえると、やや美化された部分や、説明不足である部分が認められる。「ああぁっ、もぅぅ少し深いところまで聞きたかっったのにぃぃ」となる部分も正直ある。他政党への批判に上手く繋げて巧みに躱す箇所もある。国会での受け答えをする当時の姿が思い浮かぶ。

長期の目で見れば、やはり日本国の内閣総理大臣、自民党という大政党の総裁を長らく務めた人物が、自らの歩んだ足取りを日が浅いうちに、ビビッドに語る、振り返るというのは非常に興味深く、また歴史的資料としての価値も高いものと思われる。党内の合意形成、首脳会談での裏話、霞ヶ関との戦いなど、今を生きる我々と、今を歴史として捉える後世の方々と、双方に意義深い書籍ではないだろうか。

そして何より聞き手・構成を担当された橋本氏・尾山氏の手腕は圧巻と言わざるを得ない。構成については簡単に前述したが、特にインタビューの質問者としての事前調査、姿勢は名状し難いものがある。信者のような目線では全くなく、ニュートラルからやや批判的と言おうか、相当に突っ込んだ質問も繰り広げている。質問に答える側の安倍氏の対応力にも驚かされるが、聞き手側の尽力無くしてこのような重厚な回顧録は出来上がらなかっただろう。

前書きにおいて、①記憶が新しいうちに真実に近いかたちで回顧録を作りたい、②性質上自己正当化や美化をはらむ回顧録を世に晒すことで反論・解釈の余地を残したい、と強調されている部分に何より感心させられた。一読者として、好奇心と批判の精神の双方の大切さを再認識することができた。感謝也。


著者について

安倍晋三(あべ・しんぞう)
1954年、東京生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業後、神戸製鋼所勤務、父・安倍晋太郎外相の秘書官を経て、1993年衆議院議員初当選を果たす。2003年自由民主党幹事長、2005年 内閣官房長官(第3次小泉改造内閣)などを歴任。2006年第90代内閣総理大臣に就任し、翌07年9月に持病の潰瘍性大腸炎を理由に退陣。2012年12月に第96代内閣総理大臣に就任し、再登板を果たした。その後の国政選挙で勝利を重ね、党総裁選でも3選を実現して「安倍1強」と呼ばれる安定した長期政権を築いた。20年9月に持病の悪化で首相を退くまでの連続在職2822日と、第1次内閣を含めた通算在職3188日は、いずれも戦前を含めて歴代最長。第2次内閣以降はデフレ脱却を訴えて経済政策「アベノミクス」を推進。14年7月に憲法解釈を変更し、15年9月に限定的な集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を成立させた。対外関係では、「地球儀 俯瞰外交」や「自由で開かれたインド太平洋」などを掲げ、首脳外交に尽力した。日米同盟強化や日米豪印4か国の枠組みなど、現在の日本の安全保障に欠かせない米欧諸国との連携の礎を築いた。2022年7月8日奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死去した。享年67。

聞き手 橋本五郎(はしもと・ごろう)
1946年秋田県生まれ。読売新聞特別編集委員。慶應義塾大学法学部政治学科卒。読売新聞論説委員、政治部長、編集局次長を歴任。2006年より現職。日本テレビ「スッキリ」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」「ウェークアップ」などに出演。主な著書に『総理の器量』『総理の覚悟』(以上中公新書ラクレ)『範は歴史にあり』『宿命に生き運命に挑む』『「二回半」読む』(以上藤原書店)など。2014年度日本記者クラブ賞受賞。

聞き手・構成 尾山宏(おやま・ひろし)
1966年東京都生まれ。読売新聞論説副委員長。早稲田大学法学部卒。1992年読売新聞社入社。政治部次長、論説委員、編集委員を歴任。2022年より現職。2002年8月に安倍晋三官房副長官の担当となって以降、安倍氏の取材に携わってきた。主な共著に『安倍晋三 逆転復活の300日』『安倍官邸VS習近平』(以上新潮社)『安全保障関連法』(信山社)『時代を動かす政治のことば』(東信堂)など。

監修 北村滋(きたむら・しげる)
1956年東京都出身。読売国際経済懇話会理事長。日本テレビホールディングス(株)及び日本テレビ放送網(株)監査役。東京大学法学部を経て、1980年4月 警察庁入庁。2006年9月内閣総理大臣秘書官、2012年12月内閣情報官、2019年9月国家安全保障局長・内閣特別顧問(いずれも安倍内閣)。2020年12月米国政府から国防総省特別功労章を受章。著書に『情報と国家』『経済安全保障』(以上中央公論新社)など。


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