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心房細動の治療とは

今日のポイント

  1. 心房細動の主な治療目的は症状軽減か脳梗塞の予防である

  2. 内服薬、注射薬、アブレーション治療、手術など治療方法は様々である

  3. 心房細動のアブレーション治療で認知症リスク上昇を抑制できる

参考文献
[Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015 Feb;8(1):18-24.]
[Eur Heart J. 2020 Dec 14;41(47):4483-4493.]

本文

今日は心房細動の治療のお話です。心房細動の診断に関しては下記記事をご参照ください。

実は、心房細動はほとんどの場合において根治することは期待できません。それは、心房細動が生じてくる背景に心臓の加齢による変化があるからです。ですので、治療の目的は主に「動悸や息切れといった症状の軽減」あるいは「脳梗塞を含む全身塞栓症の予防」です。これだけでも大変重要なのですが、最近では心房細動患者さんの高い認知症リスクを治療によって低減できるとも言われています。

まず、心房細動による動悸や息切れといった症状の軽減を目的とした治療についてお話しします。治療手段には心拍数を調整するもの心房細動を起きにくくするものがあり、基本的には内服薬を使用します。ただし、緊急的時には注射薬を使用して心拍数を調整したり、カルディオバージョン (いわゆる電気ショック) を行って心房細動を止めて普通の脈へ戻すこともあります。心房細動を起きにくくする治療にはアブレーション治療 (血管から進めた治療器具で心臓の一部を加熱ないし冷却する) があります。1回の治療で 5年間心房細動がない状態になる患者さんは 15%と少ないですが、再発時にアブレーション治療を繰り返し行うことで、最終的に 5年間心房細動がない状態になった患者さんの割合は 63%と報告されています。

次に、脳梗塞を含む全身塞栓症の予防を目的とした治療についてお話しします。基本的には血液が固まって血栓ができる作用を抑えるお薬 (抗凝固薬) を使用します。どんなお薬であっても副作用が起きる可能性は必ずあるものですが、抗凝固薬で問題となるのは出血が止まりにくくなるという点です。抗凝固薬を内服できない場合は、左心耳切除術という手術や左心耳閉鎖術という治療を行う事があります。これらの治療では心房細動はそのままですが、血栓ができやすい心房の一部 (左心耳) を手術で切除したり専用の医療器具を用いて閉鎖してしまうことで、脳梗塞を含む全身塞栓症を予防します。

最後に、認知症リスクを低減させる点についてお話しします。韓国の国民健康保険のデータベースを用い19万4928人の心房細動患者を対象にした研究では、アブレーション治療を受けた場合は認知症の発症リスクが低かった (内服薬治療のみを受けた場合の0.76倍) と報告されています。心房細動のある患者さんが認知症リスクが高いのは、脳梗塞による脳血管性認知症のリスクが高いこと、また脳への血流量も減りやすいためアルツハイマー型認知症の原因物質が脳から排出されにくくなること、などが原因ではないかと言われています。アブレーション治療で心房細動がない期間が長くなる結果、認知症リスクが低くなるのかもしれません。

このように、心房細動に対する治療はお薬から手術まで、患者さんの全身状態や治療目的に応じて様々なメニューがあります。もし心房細動と診断されたなら、どのような治療が良いのか医師の説明をきちんと聴いて治療選択を行なっていただければと思います。

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