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伊東潤
2021年4月29日 12:48
(プロローグ②はこちら)整列した者たちの先頭までは二十間(約三十六メートル)ほどある。その距離を誰にも邪魔されずに駆け抜けねばならない。 横殴りの雨が吹き付ける。すでに周囲は暗くなり、雷鳴も頭上で鳴り続けている。砂利を踏む音に驚いたのか、そこにいる者たちが一斉にこちらに顔を向けた。だが何が起ころうとしているのかまでは分からないのだろう。武官たちも拝跪したまま動かない。 雨滴が顔に掛かり
2021年4月29日 12:06
(プロローグ①はこちら)剣を抱えて去っていく俳優の背を不安げに見ていた入鹿だったが、やがて群臣を従え、縦に整列する三韓の使者の隣に並んだ。入鹿は大臣なので、整列した者たちよりも一歩前に出る形になる。続いて石川麻呂が進み出ると、入鹿の前に立った。石川麻呂は、「三韓の表文」と呼ばれる上表文を読唱することになっている。 今回の儀式は、三韓すなわち高句麗・百済・新羅三国が、大和国(日本)の仲立ちによ
2021年4月29日 11:58
──雨、か。 突然、大地を叩く雨音が迫ってきた。黒々とした雲の中から、腹底に響くような雷鳴も聞こえる。 ──まさか、仏は怒っているのか。大極殿の前庭には屋根がないため、そこに整列する武官や史(文官)たちの体も濡れ始めた。 誰もが不安そうに空を見上げ、小声で何事か話し合っている。海を渡ってきた三韓(高句麗・百済・新羅)の使者たちもそれは同じで、恨めしそうに空を眺めている。 遠方に目をやると