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2023年に聴くEspecia『GUSTO』

 シティポップだけに囚われないEspeciaを、あらためて。

 惜しまれながらも2017年3月末に解散の途を辿ったアーバン・フィメール・コレクティヴ“Especia”によって2014年に発表されたオリジナル1stフル・アルバム『GUSTO』(グスト)が、2023年8月に2枚組アナログ盤で“復活”した。これは、東洋化成が主催するシティ・ポップに特化したアナログレコード・イヴェント 「CITY POP on VINYL 2023」に合わせてリリースに至ったもので、元来アナログ・アイテムに関心が深かったペシスト&ペシスタ(Especiaのファン)や、いわゆるアイドル・シーンにおける“楽曲派”と呼ばれたリスナー層たちによって切望されていた初のアナログ化を実現したということらしい。

 音楽シーンのみならず、解釈もさまざまある“シティポップ”というムーヴメントは、鮮度もすっかりなくなってしまってはいるが、根強く国内外でニーズがあるのもまた事実で、そのニッチなところでEspeciaもたびたび触れられてきた。ただ、その惹句が「(シティポップブームに)早過ぎたグループ」のようなものがほとんどで、個人的には「Especia=シティポップ/ネオシティポップ」と捉えることには異を唱えたいところだが、ひとまずそういったメディアの拡大解釈や後付けに関する議論は横に置いて、純粋にリリースから9年経った『GUSTO』をアナログ・レコードで体感した感想を記しておくことにする。

 アルバムについては、以前、拙ブログの記事にてエントリーしているので(→「Especia メジャー・デビュー!カウントダウン企画(6)『GUSTO』」)そちらに多くを譲るが、シティポップに特化したアナログ化ではあっても、曲構成が愚直にシティポップ・アルバムとして成立している訳ではない(その要素に従うなら、むしろEP『AMARGA-Tarde-』『AMARGA-Noche-』にフォーカスすべきだと思う)。ホーン・セクションを多用したフュージョンを軸とするファンク、ディスコ、メロウポップスをないまぜにした作風と、「アイドルが大人の世界観をちょっぴり背伸びして歌う」というミスマッチを狙った(本グループはアイドルではなく“ガールズ・グループ”と謳っていたが)ある種の猥雑性が巧みなケミストリーを生んだことで、魅惑性溢れる佳作に仕上がった。是非はともかく、Especiaが時に「シティポップの早過ぎたグループ」や「Especia=シティポップ・アイドル」とされるのは、『GUSTO』やその収録曲の印象が強いことも大いに関係しているのだろう。

Especia

 さて、1枚目の〈A-Side〉に針を落とすと、一瞬で期待と興奮を高めるに充分な文字通りのイントロダクション「Intro」が鳴り響く。短い小品のトラックではあるが、長くEspeciaのライヴやステージでの出囃子として使われてきた楽曲(東京拠点となった第2章は除く)で、正確なところは不明だが、おそらくステージで一番聴かれた楽曲ではないだろうか。この「Intro」が(特にライヴにおいては)Especiaというグループに好奇心を抱かせる非常に重要なアイテム(あるいはアンセム)となっていたといっても過言ではない。そのホーンとコーラスが高揚へとはやし立てるトラックから一気に雪崩れ込むと思いきや、テンポを落として艶やかで濃厚なムードの「BayBlues」でガラリと景色を一変させるギアチェンジも、リスナーの逸る気持ちを見透かしたような、遊び心ある“あざけり”となって唸らせる。

 本作には両A面シングルとなったタイトル曲「アバンチュールは銀色に」「YA ME TE!」が“GUSTO Ver”として収録されているが、特に“アバ銀”こと「アバンチュールは銀色に」は、冒頭にデトロイト・テクノを知らしめる嚆矢となったデリック・メイ「ストリングス・オブ・ライフ」(Derrick May / Strings Of Life)のフレーズが加わっていて、興奮への助走として奏功。
 PellyColoによる長尺ダブ・インストゥルメンタルへと変貌させたバックコーラス主体の「海辺のサティ(PellyColo Remix)」や、ストック・エイトキン・ウォーターマンのピーター・ウォーターマンによるPWL(Pete Waterman Limited)サウンドを彷彿とさせる80年代ユーロビート作風へと振った「ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)」といった既存曲をすんなりそのままパッケージしないという姿勢には、常にフレッシュな要素を注入したいというアーティスト気質(既存シングルはオリジナル・リリース作を買えという問いかけ)も見え隠れするようで楽しい。前述の「Intro」、中盤に置いた「Intermission」、エンディングを飾る「Outro」といったインタルード楽曲も含め、アルバムとして創り上げられた構成は、非常に好感が持てる。

 本作のアナログ化で注目したいことの一つは、CDやデジタル音源とは異なり、A~Dの4つのセクションに分けられたというところ。当初からアナログ化を念頭に入れて曲順を決めたかどうかは定かではないが(そうしていても可笑しくないのがEspeciaクルーではあるが)、1枚目のSide-Aの5曲目「Mount Up」とSide-B「BEHIND YOU」がともに明澄なポップネスで地続きのようでもあり、Side-Bの4曲目に、実際のライヴでもクライマックスに選ばれることが多かった「No.1 Sweeper」で1枚目が終わる区切りもいい。2枚目のSide-Cの冒頭に配されたテンポを落としたアダルトなメロウラヴァー「L'elisir d'amore」は、第2部開幕あるいはここからクライマックスへとゆっくりといざなうという雰囲気も漂う、ギアチェンジ的な役割としても機能している。

 個人的には“楽曲派”と称する類は、楽曲性は高いが歌唱力が乏しいアイドル・グループの免罪符のようなものに聞こえ、正直好かないところはあって、当時Especiaが「アイドル楽曲派を唸らせる」云々の言及をされ(それを好意と捉えるファンもいたと思う)、正直なところそれが皮肉なのか賞賛なのかなかなか理解しづらかった。という記憶を思い返すまでもなく、本作での歌唱力は発展途上のそれなのは否めない。不安定なピッチも時々顔を覗かせ(それが“味”という側面は否定しないが)、ヴォーカルワークにおいてのシンクロ性、ハーモニーという意味では、アンバランスな面も露呈している。

 それでも、それまで冨永悠香と脇田もなりという2枚看板に多くを委ねていたところに、(「ミッドナイトConfusion」で顕著だが)著しい成長を見せ始めた最年少の森絵莉加もリードヴォーカル勢に台頭。ヴォーカルの可能性とグループへの刺激が見え始めたという意味でも、進取性を帯びたアルバムといえるだろう。三瀬ちひろが「Mount Up」で作詞を手掛けるなどのチャレンジも窺える。

 アナログ・アルバムのインナーには大きなブックレットが。表にはエスニック・モダンな柄が映え、壁にはヌード写真が飾られた、セミダブルのベッドが整えられたホテルの一室が、裏にはその部屋に備え付けられていると思しき広めのバスルームの写真が映し出されている。それは、アルバム・ジャケット裏に描かれた、カラフルな食材たちを前にすました顔を見せる2014年当時のあどけなさが残る彼女たちの記録が、時を経て大人になったことを暗示しているかのようでもある。本作に添えられたインナーのブックレットに描かれたシックなホテルの一室に人影は感じられないが、ベッドメイク後の整えられた空間は、「あらためて(9年を経て)熟した『GUSTO』をお楽しみください」というメッセージのような気がするのは、良くも悪くも遊戯に明け暮れたEspeciaに傾倒し、知らぬ間に振り回されていた証拠なのかもしれない。聴き方や思い入れも十人十色。まずは、それぞれのスタンスでレコードに針を落としてもらえたらと思う。

◇◇◇

Especia 『GUSTO』

Especia 『GUSTO』(2023/08/05)
TOYOKASEI(東洋化成)〈JPN〉
2LP TYOLP1049

〈Side A〉
01 Intro
02 BayBlues
03 FOOLISH
04 アバンチュールは銀色に(GUSTO Ver)
05 Mount Up
〈Side B〉
01 BEHIND YOU
02 嘘つきなアネラ
03 Intermission
04 No.1 Sweeper
〈Side C〉
01 L'elisir d'amore
02 海辺のサティ(PellyColo Remix)
03 ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)
〈Side D〉
01 くるかな
02 アビス
03 YA ME TE!(GUSTO Ver)
04 Outro

Especia 『GUSTO』

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