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【125.水曜映画れびゅ~】『愛にイナズマ』~全ての報われない者たちへ~

『愛にイナズマ』は、10月27日から公開されている日本映画。

松岡茉優と窪田正孝をW主演に迎えた、コメディ作品です。

あらすじ

26歳の折村花⼦は気合に満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが、⽬前に控えていたからだ。だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃は限界で、強制退去⼨前。花⼦の若い感性をあからさまにバカにし、業界の常識を押し付けてくる助監督からは露⾻なセクハラを受け怒り⼼頭だ。そんな時ふと⽴ち寄ったバーで、空気は読めないがやたら魅⼒的な舘正夫と運命的な出会いを果たし、ようやく⼈⽣が輝きだした⽮先……。卑劣で無責任なプロデューサーに騙され、花⼦は全てを失ってしまう。ギャラももらえず、⼤切な企画も奪われた。失意のどん底に突き落とされた花⼦を励ますように、正夫は問う。
「花⼦さんは、どうするんですか?映画諦めるんですか?」
「舐められたままで終われるか!負けませんよ、私は」
イナズマが轟く中、反撃を決意した花⼦が頼ったのは、10年以上⾳信不通の家族だった。妻に愛想を尽かされた⽗・治、⼝だけがうまい⻑男・誠⼀、真⾯⽬ゆえにストレスを溜め込む次男・雄⼆。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”を暴き、⾃分にしか撮れない映画で世の中を⾒返してやる!と息巻く花⼦。突然現れた2⼈に⼾惑いながらも、 花⼦に協⼒し、カメラの前で少しずつ隠していた本⾳を⾒せ始める⽗と兄たち。修復不可能に思えたイビツな家族の物語は、思いもよらない⽅向に進んでいく。そして、“ある秘密”がもたらす真実にとめどなく涙が流れる…。

公式サイトより一部改編

このままで終われるかっ!

折口花子は、映画監督を志す26歳の女性。彼女は、彼女自身の家族を題材とした物語での長編映画デビューを目前まで控えていた。しかし、わかったような口をきくプロデューサーと助監督に振り回されて、自分の思い描くビジョンはどんどん遠のいていってしまう。

そんな時にバーで、とある風変わりな男性正夫に出会う。2人は意気投合し、お互いの苦境を慰め合い、心を開き合っていく。

そんな矢先、花子は助監督と衝突したことがきっかけとなって、自身の映画から監督を理不尽にも降ろされてしまう。

全てに見捨てられて、ボロ雑巾のように打ちひしがれていた花子に正夫は問いかける。

「このままでいいんですか?」

花子は、目をかっぴらいて言い放つ、

「舐められたままで終われるか!」

奮い立った花子は、正夫とともに実家に戻り、自分の家族で映画を作ろうとするのだ!

ノンストップで突き進む、怒涛の後半戦

花子が映画監督のデビューを志す姿が描かれるのが、物語の前半。腹立つプロデューサーと助監督との攻防で、観客にフラストレーションを植え付けてきます。

しかし、助監督との衝突で梯子を降ろされてしまい、花子のフラストレーションは爆発します。大雨のなか、花子と正夫の感情むき出し舌戦は最高です。

が、しかし!
ここまではあくまで、この映画の前哨戦なんです。なんとここから、さらにギアを2,3個あげての怒涛の後半戦が幕を開けるのです。

・・・

実家に戻って来た花子と正夫。

そこで待っていたのは、ろくでもない家族だった。

腑抜けで、気弱で、妻に愛想つかされた孤独な父親

成功者気取りの長男

真面目過ぎる次男

夢を傷つけられて帰ってきた花子は、自暴自棄になり、映画撮影と銘打って、そんなダメダメ家族を罵倒し続ける。

ケンカに次ぐ、ケンカ、ケンカ…。

そうやって全てをさらけ出した先には、待つ受けているものとは…?

全ての報われない者たちへ

『舟を編む』(2013)や『茜色に焼かれる』(2021)で知られる石井裕也監督。その最新作は超豪華な俳優陣を迎えての、不遇な役回りを担った人々への人間賛歌でした。

思い通りにならない

こんなはずじゃなかった

自分のやりたいことって何だったんだろう…?

本作の登場人物は皆、そんな想いを胸に秘めています。そしてそれは、映画の中だけではなく、現代社会を生きる多くの人の胸のなかにもある想いなのではないでしょうか?

そんな想いを心に秘めながらも、自分を押し殺して、理不尽への怒りを我慢して生きていく人々へ、全ての報われない人々に向けて作られた渾身の一作だと思います。そこに救いがあるとかないとか関係なく、「そういう人たちがいることを知っているよ」と、この映画を通して言ってくれている気がしました。


前回記事と、次回記事

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次回の更新では、先日行われた東京国際映画祭にて最優秀監督賞および観客賞を受賞した話題作『正欲』を紹介させていただきます。

お楽しみに!