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【120.水曜映画れびゅ~】『福田村事件』~歪んだ正義の行きつく先~

『福田村事件』は、9月1日から公開されている映画。

『A』(1998)や『A2』(2001)などで知られる"日本ドキュメンタリー映画の名士"森達也が初の劇映画監督を務めた作品です。

あらすじ

大正デモクラシーの喧騒の裏で、マスコミは、政府の失政を隠すようにこぞって「…いずれは社会主義者か鮮人か、はたまた不逞の輩の仕業か」と世論を煽り、市民の不安と恐怖は徐々に高まっていた。そんな中、朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一は、妻の静子を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に帰ってきた。同じ頃、沼部新助率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発する。長閑な日々を打ち破るかのように、9月1日、空前絶後の揺れが関東地方を襲った。木々は倒れ、家は倒壊し、そして大火災が発生して無辜なる多くの人々が命を失った。そんな中でいつしか流言飛語が飛び交い、瞬く間にそれは関東近縁の町や村に伝わっていった。2日には東京府下に戒厳令が施行され、3日には神奈川に、4日には福田村がある千葉にも拡大され、多くの人々は大混乱に陥った。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、疑心暗鬼に陥り、人々は恐怖に浮足立つ。地元の新聞社は、情報の真偽を確かめるために躍起となるが、その実体は杳としてつかめないでいた。震災後の混乱に乗じて、亀戸署では、社会主義者への弾圧が、秘かに行われていた。そして9月6日、偶然と不安、恐怖が折り重なり、後に歴史に葬られることとなる大事件が起きる―。

公式サイトより一部改編

100年前の9月1日

1923年 9月1日、関東大震災が発生した。

未曽有の大災害による混乱の最中、ある噂が飛び交った。

鮮人せんじん(朝鮮人)が放火や強盗をしている」

三・一独立運動が起きて間もない時期ということもあり、日本人は朝鮮人たちへの不信感は最高潮となっていた。そのため、そんな根も葉もない噂がまことしやかに一人歩きしていたのだ。そしてついには、各所で自警団が組織されるまでであった。

そんななか千葉県福田村に、とある行商人の一行が訪れた…

歪んだ正義の行きつく先

1923年の関東大震災に際に起きた、朝鮮人大虐殺。それは、日本人でも詳しく知る人はあまり多くないと思います。

震災の混乱に乗じて広まったデマ情報により、各地で組織された自警団等の手によって数千人(確かな犠牲者数は不明)の命が奪われた、日本史における大きな負の記録です。

そんな朝鮮人大虐殺も大問題ですが、本作でフォーカスされるのは、その最中に起きた悲劇"福田村事件"

1923年9月6日、香川県から千葉県 福田村に薬の行商で訪れていた15人の一行が、自警団に朝鮮人だと疑われ、9人が殺害された事件です。

この事件の恐ろしいのは、”歪んだ正義”

自警団たちは、あくまで「正義は我に有り」という考えなのです。村を守るために、ないしは国を守るためにと、武器を行商人に向けるのです。

それでも作中で、行商人たちは「俺たちは日本人だ」と主張します。しかしそんななかで、行商人一行の親方が言うのです。

「朝鮮人なら殺してもええんか」

その言葉が、私の心臓を貫きました。

そうです、どんな場合でも人殺しを正当化してはならないのです。いや人殺しだけではなく、どんな場合であっても理不尽に人を傷つけることはあってはならないのです。

「あいつは犯罪者だから」「あいつは不倫したから」「あいつは死んでもいいから」…と、あることないことを根拠にして自分を正当化し、"歪んだ正義"を武器だと思い込んで人を痛めつける姿には、現代社会に通ずる大きなメッセージがありました。

現日本映画の最高到達点

本作で監督を務めたのは。森達也

"日本のマイケル・ムーア"と称してもおかしくないほど、過激なドキュメンタリーを撮り続けた名監督です。

そんな森監督は、東京新聞の望月衣塑子のドキュメンタリー『i-新聞記者ドキュメント-』(2019)を制作した後に、劇映画として福田村事件を撮ることを決め、クラウドファンディングを通して資金を調達して、公開へとこぎつけました。

そしてそこに集結したのが、一癖も二癖もあるキャスト陣。

主演を務めた井浦新田中麗奈をはじめ、脇を固めるのが東出昌夫水道橋博士柄本明コムアイピエール瀧…など、「このご時世によくこんな面子を集めたな」と思ってしまうほどの異色キャスティングでした。しかし、その実力は折り紙付きで、もう文句のつけようがないですね。

そしてなんといっても、この映画で素晴らしいのが永山瑛太。『怪物』(2023)でもそうでしたが、おそらく今が俳優として最高の状態。その演技はもう…凄すぎました。

そんな本作は、題材もさることながら、映画としてのクオリティも素晴らしい大傑作。冗談抜きで、今まで見た日本映画で一番素晴らしい、現日本映画の最高到達点です。

ミニシアター中心ですが、全国で公開されている本作。これは、絶対に観に行ってください!


【2023年9月20日 追記】

広島サロンシネマにおいて行われた舞台挨拶に参加しました。

主演の田中麗奈さんからサインをいただくことができました!


前回記事と、次回記事

前回投稿した記事はこちらから!

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次回の更新では、遅ればせながら”Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One"ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEを紹介させていただきます。

お楽しみに!