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UXデザインのビジネス価値をROIの観点で考えてみました

こんにちは!株式会社ニジボックスの執行役員の丸山潤です。
UXデザインの価値を経営者や自分が所属する部署の上長に説明する際、その相手がUXやデザインに対する理解が浅い場合、ROI(投資利益率)を説明することが不可欠になってくるのではないでしょうか。
そこで、デザインやUXリサーチに日頃から携わっているという人も、具体的にUXデザインやUXリサーチがどんなROIをもたらしてくれるのかを改めて知っておくべきだと思い、今回はこのお話しをしていきたいと思います。
参考にした記事は、以下です。自分なりに読み解き、個人的な意見を交えながら解説していきたいと思いますので、参考にしていただけるとうれしいです。

UXデザインを怠ると起こり得るリスク

ユーザーの期待に応えられない開発により、売上が低下する

当然ではありますが、使いづらく、ユーザーのニーズに応えられていないサービスや製品をリリースしてしまうことになります。何のために作られたものかが分からず、ユーザーをがっかりさせてしまうことになるでしょう。
そうなると、ユーザーは他社のサービスや製品に乗り換え、自社のサービスに戻ってくる可能性は低くなり、売上の低下につながっていきます。

作り直しによって、開発にかかるトータルコストが増加する

重要なことでありながら意外と見過ごされがちなのが、開発にかかるトータルのコスト増加です。一度出来上がったプロダクトをもう一度作り直すとなると、開発の期間も工数もかなりかかることになります。それが、開発の後の方の工程になればなるほどコストはかさむため、なるべく開発の初期段階からUXデザインを取り入れたものにしておくことが重要です。すると、スケジュールが多少遅れたとしても、結果的に費用がかさむことがないと考えられています。大げさかもしれませんが、「開発後にエラーを修正するコストは、開発前に修正するコストの100倍である」とも言われているようです。
上司から「早く作れよ!」と言われることがあるかもしれませんが、私はそれは危険なことだと思っています。納品のスケジュールを優先してしまうと、UXデザインが考慮されていないプロダクトを世の中に送り出すことになってしまい、後に作り直すことになり、時間も労力も費用も莫大な量がかかってしまうのです。

プロダクトの悪評が、企業イメージの低下にもつながる

不満を抱えたユーザーは、「このサービスは使いづらい、イケてない」という口コミを瞬く間に広めてしまいます。サービスや製品は、その会社の顔です。プロダクトのイメージだけでなく、それを開発した企業のブランドイメージまで悪くなってしまう可能性もあるでしょう。

従業員のモチベーションが低下する

意外と気づかない部分ではありますが、これも重要なポイントです。上長に「スケジュール優先で作れよ!」と言われ、ユーザー体験を考えずに開発を進めている時、意外とプロダクト開発に携わる従業員は、その状況を理解しています。その後にリリースされ、やはり売上が見込めなかった場合、「上長がUXを理解していないからだ」と思うようになり、その体験から開発のモチベーションが下がることになるでしょう。その体験が、退職の原因にもなりかねません。

UXデザインに取り組むことで期待できるROI

前の項目でお話ししてきたように、UXデザインを怠ると起こり得るリスクがたくさんあります。それゆえ、UXリサーチやUXデザインを重視した開発を行う従業員は、そのリスクをしっかりと把握し、ROIを上長や周りの従業員に広めることが大切になってきます。
ここでは、ROI、つまりUXデザインに取り組むことで期待できるメリットについて、記事を参考にしながらお話ししていきます。

顧客満足度の向上により、売上が増加する

当たり前の結果ではありますが、ユーザーが「使いやすい」と判断し、App Storeなどで高い評価をつけてくれれば、ユーザーも増え、結果的に売上が増加していくことになるでしょう。

トータルで考えた際に、開発期間短縮とコスト削減になる

「開発期間が短縮する」と聞いて勘違いする人もいるかもしれませんが、UXリサーチやUXデザインを開発の初期段階で取り組むと、最初のリリースまでの期間は長くなります。しかし、初期の段階でUXに取り組み開発しているため、作り直す工程があまりかかりません。よって、結果的に開発期間の短縮とコスト削減につながるはずです。
一般的に、最初のリリースまでの期間やコストばかりに目が行きがちですが、その後の作り直す期間を含めてトータルで見ることが大切になってくるでしょう。

従業員の満足度向上と離職率低下につながる

UXデザインに取り組むと何が良いのかというところで、ここはかなり重要だと考えています。UXデザインに取り組むことで目的やターゲットが鮮明になり、企業としても開発を進める上で意思決定がしやすくなります。
すると自然と、プロダクト開発に携わる部署内のチームビルディングにもなっていき、従業員たちが目指すべきゴールが分かりやすくなります。それによって、チーム全体の組織コンディションが良くなり、従業員の満足度も上がっていきます。

問い合わせ減少、カスタマーサポートにかかる費用低減につながる

これも当たり前ではありますが、サービスや製品が使いやすいとなれば、ユーザーからの問い合わせが減ります。すると、カスタマーサポートにかかる費用も削減することができるでしょう。

誤ったニーズやソリューションを導入するリスクが低減する

そもそもユーザーのニーズを取り入れる際に、そのニーズ自体がずれたものであった場合、ユーザーに「思っていた製品と違った」と思われてしまう場合もあります。それによってクレームにつながる可能性もあるでしょう。しかし、UXリサーチやUXデザインを重視した開発を行うことで、そのようなリスクも減ると考えられます。

以上のように、UXデザインに取り組むことでさまざまなメリットが期待できます。これらのメリットを理解し、開発プロセスにおいてUXデザインを適切に取り入れることが、企業にとっても従業員にとっても、そして最終的にはユーザーにとっても、大きな価値を生み出すでしょう。

事例で見るUXデザインのROI

前の項目を読んでもらえれば、UXデザインに取り組むことで得られるメリットをお分かりいただけたと思います。これらのROIは、事例やデータを示すことでより具体性が増すため、他社の例を知っておくとよいでしょう。

あくまで海外の事例ではありますが、この記事に書いてあることで言うと、「スタートアップにおけるデザインの未来」2016年の調査によると、UXデザインの成熟度が高い企業の87%が「UXデザインは売上向上につながる」、60%が「UXデザインは高い顧客保持率をもたらす」、83%が「UXデザインが高い顧客エンゲージメントにつながる」、60%が「UXデザインが製品開発サイクルの高速化につながる」と答えているとのデータがあるそうです。
エクスペリエンス・ダイナミクス社は、「UXデザインは開発の手直しにかかる時間を50%削減することができ、意思決定プロセスやタスクの優先順位が改善されることで、トータルの開発にかかる時間を33〜50%削減することができる」と述べているそうです。
「UXを改善したことでECサイトの売上が上がった」というような話は日本でもよく聞きますが、上記のようなメリットはまだ日本では語られることが少ないと感じています。

ROIを具体的に提示するためのKPI特定

UXデザインの影響を測定するために、UXデザインのKPIをあらかじめ提示することも大切です。記事の中で、UXメトリクスにはどんなものがあるのかという項目も紹介されていますが、このような項目の中から「どれを自分たちのKPIとすべきなのか」を決めることは、UXデザインのROIを示す上で重要になっていくでしょう。
そのためには、ベンチマーク調査でUXの指標を収集し、UXメトリクスを参考にKPIを決定し、責任を持ってその結果を報告すること。このプロセスにより、UXデザインのROIを具体的に示していくことができるはずです。

ビジネスにおけるデザインの価値を示すROI

Twitterで話題になっていたことから、皆さんもご存じかもしれませんが、世界三大コンサルティングファームのひとつ、マッキンゼーが「なぜ今、日本に『デザイン』が必要なのか」という記事を発表しました(この記事でマッキンゼーが提言する「デザイン」には、UXデザインも含まれていると考えられます)。
この記事が指摘しているポイントを簡単にまとめると、「日本の製品やサービスは高品質だが、デザインの軽視によりユーザーに使われない機能があり、イノベーションのジレンマに陥ることが多い。これに対処する必要があるのではないか。」ということです。
この記事では、日本の企業でよく見られるデザインの阻害要因として、顧客ニーズに対する誤解や、ウォーターフォール型の開発手法が挙げられています。顧客ニーズの誤解を解消し、シームレスな顧客体験を実現することの重要性が強調されており、ウォーターフォール型の開発手法からアジャイル型の開発手法への移行が求められています。私もその意見に賛成です。

ただ、このような考え方を会社の上長や経営陣にそのまま伝えても、デザインに理解が乏しい人にはなかなか響かないかもしれません。しかし、今回お話ししてきたUXデザインのROIを提示することで、デザインに対する理解がまだ十分ではない上長や従業員にも、デザインの重要性を論理的に理解してもらえるのではないでしょうか。





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