友人に連れられて、高木さんの劇場版を見に行った。それについての雑記。

 友人から「高木さんの劇場版見に行かない?」と誘われ見に行った。自分はある程度それがどういう話かは前々から知ってたものの(西片がとにかく高木さんにからかわれ続ける)、そのアニメ自体をじっくり見たことはなかったので、興味本位で見に行った。どうせこういう風な内容なのだろうと期待ぜずにたかを括っていたが、面白いと感じた部分があったので、書いていく。(以下ネタバレあり)

映画全体の概要

 この映画、もといこの作品については「西片がとにかく高木さんからかわれ、翻弄され続けるのみ」というあまりにもタイトル通りで、あまりにも抽象的な印象を抱いていたのだが、実際は細かい設定もありシナリオもしっかりした非常に良い娯楽作品だった。

 舞台は瀬戸内海の小豆島であり、東京が舞台だと思っていた私は度肝を抜かれた。次にキャラクターたちの年齢もいわゆるサザエさん方式で年を取らない子たちだと思っていたが、シーズン1とシーズン2がそれぞれ中学一年生と二年生、そして今回の映画が三年生という極めて現実的で順当な歳のとりかたをしており、卒業を控えた彼ら彼女らが中学生活最後の夏休みをどう過ごすかを必死に模索するという真っ当なジュブナイル作品だった。

 内容は至ってシンプルで、西片と高木さんが大きく分けて2部構成でひと夏を過ごす物語となっている。1部は、ホタルを一緒に見るという口実で、小豆島の伝統行事である虫送りに行くという話。2部は、たまたま見つけた子猫を夏休みに会う口実として一緒に育てて、里親を探す話である。物語の結末については次の感想でふれたりふれなかったりするので、ここでは詳細に書かない(ていうかめんどくさい)。

ざっくりとした感想


 最初から最後まで見て、めちゃくちゃ面白かった訳ではなく、ひたすら西片と高木さんのイチャイチャを見せつけられるだけなので、正直好みによる作品なのだと思う。(そもそも好みじゃない人は見てない)しかし、それ以外の要素にもこの作品には良さがあり、そもそもそれ以外の要素にグッときた部分があったので以下に書いていく。

中学3年生のモラトリアム感

 先程、映画の概要の方で彼ら彼女らと書いたように、物語には高木さんと西片以外にもキャラクターがいて、それぞれに中学生最後というモラトリアムを抱えている。ある男子高校生のキャラは想いを寄せる人にどうしても振り向いてほしいと思っていたり、女子3人組のキャラクターたちは高校生活への不安を抱えながら、この先の友情関係について葛藤している。(彼ら彼女らはメインキャラクターであり、3年間で築いてきたキャラクターや関係性がある)正直、特に珍しいことではなく、一般的なジュブナイル作品ではありがちだが、西片や高木さんの方に焦点を合わせつつも、遠目にサブキャラクターの彼ら彼女らを見据える構図ができるのは、物語の解像度を上げるのに非常に良い装置となると思う。

劇伴

 結構良い、以上。強いていうならば、ストリングスを強調した普遍的な楽曲が多く、作品に良い作用を施していた。あと、物語の一部分を挿入歌をバックにセリフなしで描く方法を多用していて、話のテンポが非常に良かった。

背景

 正直、これが一番今作でよかったポイント。田舎特有の風景が季節を常に感じさせていて非常に良かった。特に、虫送りのシーンで段々畑が夜風に靡く作画が良かった。

梶裕貴の演技

 高木さんを演じた高橋李依さんももちろん素晴らしいが、やっぱり梶裕貴がすごすぎる。声質自体は、作品によって大きく変わるかというとそうではなく、この人は喜怒哀楽その他感情の機微を声に変換する技術が非常に高いのだと思う。進撃の巨人のエレンと高木さんの西片は全く違うキャラであるが、同じ声優というのはわかる。中堅の声優さんで一番技術が高いのではないかと思った。

作品全体の流れ、シナリオの良さ(長い)

 1部である虫送りの話は高木さんが西片のどこに惹かれているかを再確認する部分もあり、小豆島の伝統を僅かではあるが感じられる良いストーリーとなっている。目的であったホタルを見つけることは、高木さんにとっては西片と会う口実でしかなく、ホタルはその時季にはおらず見られずに終わるのだが、物語の最後(いわゆるCパートと呼ばれる部分)では、結婚し子供を持った西片と高木さんが再び同じ場所に訪れ、ホタルの群れを見るという話で幕を閉じる。(この後日談のようなものは、外伝的な作品で既に周知ではあるものの、観にきた人にとっては良い演出だったと思う)つまり、1部の話は一見普遍的な話ではあるが、物語の最後のための布石として必要な構成要素として機能している。

 続く2部では、学校生活という会う口実が夏休みという期間によって引き裂かれてしまった彼らが、都合よく現れた子猫によって会う口実ができ、里親を探しながら子猫を育てる話である。ここで、上手いなと思ったことは、中学生同士の交流や恋愛ではどうしても描けないので(描いたら14歳の母になる)、子育てというイベントを子猫を代替として擬似的に描いたことである。子猫を育てるためのアドバイスをもらいにペットショップに行くのだが、そこにいる鸚鵡が彼らに「良い夫婦だな」と喋るシーンがあるので、かなり作為的だと思う。
 そして、子猫を育てながら里親を探し、順風満帆に夏休みを満喫していた彼らを待ち受けていたのは、一生懸命育てていた子猫を何処ぞの一般家庭に奪われるという悲劇である。そう、NTRである。これにより、1匹の喪失を経験した彼らの関係性はより深くなり、互いに対して「幸せにする」という言葉が出る。この「幸せにする」というワードは、「好き」「愛してる」等の直接的かつ生々しい表現を避けるがためのワードで、この作品の世界観を守るために必要なことなのだろうが、かえって聞き慣れないワードであるために、セリフの中で妙に浮いており、非常に印象に残った。そもそも「幸せにする」というワードを中学生が想いを寄せる人に対して使うことはなく、主に日本の作品においては結婚の要求を表すメタファーとして使われる。意図したことかはわからないが、外伝で結婚することが明らかになっている2人だからこそ使われた表現のように思われる。この、直接的で生々しい表現を避けたかにもかかわらず、かえってそれが本来の意味を超えて、より直接的で生々しい表現になったこのワードがこの作品の好きな部分である。
 あと、この映画に限らずこの作品全体を通してのことなのだが、最初に東京が舞台だと思っていた私にとって、西片と高木さんの関係は都合が良すぎるのではないかと疑問を抱いていた。しかし、小豆島という閉鎖的な空間ではもしかしたらあり得る話なのかもしれない、と思った。島だったら、小学校の頃から知り合いになっているだろうと思うが(ここら辺は原作を読んでないのでわからない)、中学で出会った彼らにとって島という設定は好都合で、グリコのような古典的な遊びを楽しんでいる部分では効果的に機能していることが明らかだ。と、そうは思ってみたものの、やはりあり得ない。現実では他の男子女子に目移りするだろうし、他の友達との関係があって当人同士の関係に固執しないだろうと言い出せばキリはない。しかし、これはアニメである。いつまで経ってもスクリーンの向こうでは西片は高木さんにからかわれ続けるのだろう。



#アニメ #映画 #雑記
#感想   #からかい上手の高木さん


この記事が参加している募集

私の作品紹介

アニメ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?