9)写真家としてのデビュー
娘の誕生を撮った写真を見ることで、私は両親と会話するような感覚を持つことができた。
そして、長く忘れていた両親の自死を思い出した。
生と死。
私にとっての充足と欠落の出来事を1つの塊として見たい。
自分の人生を物語としてまとめたいという欲求が膨らんでいった。
それからは過去の写真を見返す、今の家族写真を撮る、プリントした写真の束を作品として人に見てもらう。
という一連の制作サイクルを自分のために行うようになった。
写真家として現時点での全力を見てみたい。
2012年の秋、35歳のときに「手紙」というタイトルで作品をまとめ、(株)ニコンのコンペに出した。
このコンペに入選すれば、東京と大阪で写真展ができる。
12月には入選の知らせが届き、2013年6月に初めての写真展を行うことになった。
写真展「手紙」は父の絵、家族アルバムの写真、私が撮った写真で構成し、私から両親に宛てた手紙とともに展示した。
父が自死を前にして作った家族アルバムを見た時、21歳の私が思い描いた作品。
会場には自分の人生の断片が写真になって並んでいる。
知らない人が私の作品を見て涙することもあった。
伝わっている。
私の作品を見た人が、自分の体験とリンクさせて見てくれている。
この写真展で初めて作家としての評価を受け、2014年に(株)ニコンから若手の年度賞である三木淳賞を受賞した。
家族が私を作家にしてくれたんだと思う。
受賞後はこれまで以上に写真にのめりこんでいった。
作家を生業として生きていきたい。
家業の合間を見つけて家族や風景の写真を撮っては、作品を編み上げる作業を続けた。
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