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アリギエーリ達の証明

“もう楽園には戻れない”
男は暗い闇を抜けて門をくぐり
川を渡って一人この山を上り始める

さあ彼の門出を祝福しよう
孤独で暗い旅路に光あれと
さあ彼女の名前を讃えよう

彼の乙女が待っている
再会が彼女を創るその聖夜を
その喜びが永遠とならんことを

神に突き立てた爪痕は走り出す
バージルの導きも無く手は彷徨う
眠れず霧の中でも指は歩を進める

ペンの足取りは往ったり来たり
線を欠いては不意に失敗ばかり
文を掻きむしりまた一敗飲み干す

絵の具は滲み流れて落ちて
インクは透けて塩の味
物語は誰が為のテスティモニー

この恋文に宛がなくても
この傲慢に果てが無くとも
たとえ業火に焼かれるとも

それでも贖罪は彼を慰める
それでも後悔は彼を愛する
記憶に縋って彼女を綴る

麓からは波が迫る
ラストページはまだ遠い
それでも英雄は止まれない

身勝手な約束を果たす時まで
白薔薇の照らす夜空を夢見て
彼のベアトリーチェが微笑む頂へ

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