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3月30日 パレスチナ・土地の日に寄せて【前編】

こんにちは、エルサレム事務所の木村です。日本は地域によっては桜が咲いて「春」を感じられる頃でしょうか。ここエルサレムでは暖かくなったと思ったら冬に戻り、まだ寒いかなと思いきや30℃近くまで気温があがるなど、文字通り「季節の変わり目」といった気候が続いています。

事務所近くの空き地に咲く菜の花(春ですね~)

そんななか、今年も3月30日「土地の日」を迎えます。この日はパレスチナ人にとって大事なメモリアルデーです。「土地の日」のいわれは以前のnoteで解説しておりますのでこちらをご覧いただくとして、今回は東エルサレムを含めたパレスチナの土地をめぐるお話をお届けしようと思います。
 
日本に限らず法治国家であれば、不条理な理由で自分の土地を他人に奪われたり、住んでいる家をいきなり追い出されたりすることはほとんどないと思います。しかし、世の中にはそれがまかり通っている場所があります。そのひとつが「パレスチナ」です。
 
パレスチナ問題は(イスラム教徒とユダヤ教徒の間の)宗教問題だと思われがちですが、そうではありません。パレスチナと呼ばれる土地をめぐる問題です。その経緯についても話が長くなるので詳細はこちらにゆずるとして、1948年のイスラエル建国以降とくに、「パレスチナの土地は神が自分たちに与えると約束した地であり、昔々は自分たちの祖先の土地だった。だからここは自分たちの土地だ。」と主張するユダヤ人シオニスト(※)によって、国際法上、非合法的な形でパレスチナの人たちが住んでいる土地が奪われ続けています。この奪った土地にイスラエルの人々が居住していくことは「入植(にゅうしょく)」と呼ばれています。この入植が近年特に加速度を増しています。
 
(※)シオニスト:ユダヤ民族主義者で19世紀にはじまるシオニズム運動の信棒者。シオニズム運動は、1948年のイスラエル建国に寄与した民族主義的なイデオロギーであり、ユダヤ民族は歴史的にパレスチナと呼ばれてきた土地に住む権利があると主張し、ユダヤ人国家の設立を支持しています。

エルサレムの中心地図(南北につらぬくのが公道60号線)

エルサレムをめぐっては、イスラエル建国後に勃発した第一次中東戦争の結果、現在トラム(路面電車)が南北に走っている公道60号線を境に「西側」はユダヤ人の居住区、旧市街を含む「東側」はパレスチナ人の居住区となりました。よって、東エルサレムにはパレスチナ人が住んでいますが、ところどころにイスラエルの国旗がたっていたり、イスラエルやユダヤ教の象徴でもある六芒星(ろくぼうせい)や燭台(しょくだい:メノラー)のマークがついていたりする建物があります。

旧市街のムスリム地区にあるユダヤ人に入植された家屋
写真中央右と左上のネオン輝く六芒星の家屋はユダヤ人が入植した家屋(シルワン地区)

そういった場所は、かつてパレスチナ人が住んでいたけれども、今はユダヤ人が住んでいることを意味しています。前述のようにいきなり「この家は自分たちの祖先が住んでいた」と主張するユダヤ人が来て追い出されることもあれば、裁判の結果ユダヤ人側に有利な判決が出てパレスチナ人が強制退去をさせられたり、パレスチナ人がだまされて、もしくは生活に困ってユダヤ人に土地を売ってしまうなど、さまざまな方法でパレスチナ人の土地が浸食されています。
 
東エルサレムの一角、シェイク・ジャラ地区はパレスチナ人の居住区ですが、「もともと自分たちの先祖が住んでいた」と主張するユダヤ人によって立ち退きが求められているパレスチナ人世帯が多くあります。この立ち退き問題をめぐる状況が、2021年5月に発生したガザ空爆の発端となったとも言われています。

シェイク・ジャラ地区に連帯を呼びかけるポスター(2021年5月撮影)
毎週金曜日に行われていたシェイク・ジャラ地区での立ち退き反対のデモ(2021年4月撮影)

JVCが女性のエンパワメントの活動をしている東エルサレムのシルワン・アットゥーリ地区も連日のようにユダヤ人による入植の話が取りざたされています。この地区にはユダの王ダビデがエルサレムを建設したとされるダビデの町(City of David)や、旧市街の嘆きの壁やユダヤ地区とも隣接する地域ということもあり、ユダヤ人にとっては特に思い入れが強い場所でもあります。そのため、東エルサレムの他地区以上に頻繁に入植や入植者による嫌がらせを発端としてパレスチナ人が逮捕・連行される事件が後をたちません。

ユダヤ人が住むアパートはイスラエル軍によって護衛されています(シルワン地区)

 入植は個々の住宅だけでなく、イスラエル政府により国策(入植地の建設)として行われており、エルサレム以上に入植が進んでいるのがヨルダン川西岸地区です。
 
この話の続きは「後編」で。
 


JVCのパレスチナ事業では、現地に暮らす人びとの意思を応援する形での支援を行なっています。また、パレスチナの問題を日本社会にも伝えることで、一人ひとりが取り組むための橋渡し役を担うことも試みています。 サポートしていただいた分は全額、JVCのパレスチナ事業に寄付いたします。