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3月30日 パレスチナ・土地の日に寄せて【後編】

前編のエルサレムに続き、ヨルダン川西岸地区をめぐる土地の話をお届けします。

①②③の地区で「パレスチナ」は構成されています

パレスチナの地図で「ヨルダン川西岸地区」は上のように示されることが多いですが、実際は、穴あきチーズのように地区の中にポコポコとユダヤ人が住むエリアが点在しています。これがいわゆる「入植地」です。

ヨルダン川西岸地区の地図(東京新聞https://www.tokyo-np.co.jp/article/26515より転載)
イスラエルによるパレスチナ人の強制立ち退きの結果ゴーストタウンと化した
ヨルダン川西岸地区・ヘブロンの一地域(2021年7月撮影)

1993年のオスロ合意でヨルダン川西岸地区はパレスチナ暫定自治政府(当時)が統治するパレスチナ人の居住区とされたにもかかわらず、160以上の入植地に70万人以上のユダヤ人が住んでいます。最近でも、3月6日に、イスラエル政府によって新たに3,400戸以上の入植者向けの住宅建設が計画されました。

奥に見えるのが入植地(ヨルダン川西岸地区・ベツレヘム郊外、2021年7月撮影)

イスラエルの反入植監視団体「ピース・ナウ」の報告によると、昨年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲とそれに端を発したイスラエルによるガザ地区への攻撃が始まって以来、ヨルダン川西岸地区ではかつてないほど入植活動が急増しているようです。
出典:https://www.bbc.com/news/world-middle-east-68490034
 
こういった入植は明らかな国際法違反です。2021年に国連人権委員会で、イスラエルの入植は「国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程に基づく戦争犯罪の定義を満たす」と報告されました。最近では、オランダ・ハーグ国際司法裁判所(ICJ)でイスラエルによるパレスチナ占領の違法性について審理が始まっています。しかしながら、イスラエル側はこれらの見解を退け、入植活動を進めています。
 
入植地は主に高台や水源に近い地域に建設され、ヨルダン川西岸地区内では、飛び地のように設置されたそれぞれの入植地をつなぐ道路(バイパス)も建設されており、一部はパレスチナ人は通行できません。そのため、パレスチナ人はそのバイパスを避け、遠回りして隣の地区まで行かなければならないこともあります。途中にある検問所で止められ尋問されると直線なら20分くらいの距離でも数時間かけてようやくたどり着くようなことも日常茶飯事です。
 
入植地のアパートにはイスラエル政府からの補助金がでているため安い家賃で住むことができ、海外にいる経済的に困窮しているユダヤ人が多く移り住んできています。そして、その入植地の建設には、定職をもつことが難しいパレスチナ人が日雇いなどで働いていることが多く、パレスチナ人を苦しめている入植地の拡大に自身が関与していることに心を痛めながら、日々の生活のために入植地で働かざるを得ない現状があるのです。

入植者が経営するデーツ農園(ヨルダン川西岸地区・ジェリコ郊外、2021年12月撮影)

入植地に住む人々を「入植者(Settler/セトラー)」と呼んでいます。「テロを起こす危険性のあるパレスチナ人から守る」という名目で入植者はイスラエル軍に護衛されていますが、実際は、入植者の方がパレスチナ人に対して投石などの攻撃をしたり、パレスチナ人家屋に浸入して家屋を破壊したり、住んでいる人たちに危害を加えるなどの嫌がらせを行っています。しかしながらそういった入植者は取り締まりを受けることはなく、むしろ、入植者に抵抗したパレスチナ人がイスラエル警察や軍に連行されたり逮捕されたりすることが頻発しています。
 
パレスチナの友人は「イスラエル、ユダヤ人がみんな悪いわけではなく、自分たちに危害を加えているほとんどは入植者」だと言っています。入植者の中には移り住むまでイスラエルで行われているパレスチナ人への人権侵害を知らない人もいるようですが、知らないからといって許されることではなく、知ったあとに見て見ぬふりをするのも同罪だと思います。

10月7日以前のガザ市内(2022年12月撮影)

実は、イスラエルによって陸海空が封鎖される以前のガザ地区においても、ユダヤ人の入植活動は行われていました。封鎖とともにガザ地区にいたユダヤ人は移動させられたので、封鎖開始以降ガザ地区にはユダヤ人は住んでいませんが、10月7日以降イスラエル軍がガザを攻撃する過程で、ガザ地区への今後の入植計画などが話題にあがっています。これについてもイスラエル政府は非難されているものの、アメリカを含む国際社会の反対にあってもガザ南部・ラファへの攻撃を実施すると主張しているのと同様、入植活動も実行するつもりなのではと懸念しています。
 
毎年、3月30日の「土地の日」にはパレスチナの各地でかつて犠牲になったパレスチナ人に思いをはせ、イスラエルの占領に反対するためのデモンストレーションがパレスチナの各地で行われます。このデモは学校やコミュニティ単位でも行われることがあり、西岸地区ではパレスチナの旗をもって行進が行われるようです。エルサレムは残念ながらパレスチナの旗を掲げることが禁止されているため、デモンストレーションそのものは静かに行われるようですが、10月7日以降はイスラエル軍・警察による取り締まりが強化されているということもあり、今年はエルサレムではデモは行われないだろうというのが現地スタッフ・アヤットの見解でした。
 
ガザ攻撃のニュースの影で行われているイスラエルによる入植活動。その違法性はアメリカでさえもふたたび認め始めています。トランプ前大統領のときには「違反していない」と主張していましたが、2月23日にバイデン大統領が、「イスラエルがヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治区で続けてきた入植活動は国際法に違反する」との見解を示し、従来(トランプ以前)の見解に戻した形になりました。
 
このように法律上も国際社会の見方も「明らかな国際法違反」とされる入植地の建設をイスラエルが進めることに対しては、引き続き、世界中で目を光らせながら「国際法違反」であることをイスラエルに訴えていく必要があります。


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