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俺のことイケメンって言ったやん!

「あぁ、今、めちゃくちゃ忖度されたなぁ」「ざけんな」ということがありました。

遡ること10数年前。高校生だった僕が学校へ電車で向かっていたときのことです。


最寄り駅の隣の駅から3人組の女子高生が乗ってきて、僕の正面の席に座りました。

その女子高生3人組はとても騒々しく、朝の単語テストの勉強やってないだの、いややらなくていいっしょだの、それよりあの生徒指導のせんこーだるいくない?洗顔シート使って汚れたら修学旅行行かせないとかまじないわ

などと周りに聞こえるボリュームで話をしていました。


すると、そのうちの一人__仮に女子高生Aとしましょう__が急に小声で話し始めました。

しかもAはなんと

「前の人イケメンじゃない?」


と言ったのです。


前を向くとその女子高生3人と、ばしっ!と目が合いました。

おしおしおしおしおし。

すぐに両隣を確認すると、女性が3人座っているだけでした。

おしおしおしおしおし!!!!!

当時、イケメンと言われることが大好物だったので、前髪も口に入るくらい長かったので、

俺やん

俺のことやん

と、心の中でガッツポーズをしながら、女子高生の続きの会話を聞きたかったので、聞こえてないふりをして手元の英単語帳に目を戻しました。



ちょうど開いていた単語帳のページには、

「COOL:すてきな、すばらしい、いかす」


と書かれていました(うそです)


そんなThat’s cool.と言われた会話の続きはこうです。

電車から降りたらアドレスでも聞かれちゃうかなとそわそわしてると……


女子高生A「前の人、イケメンじゃない?」

僕「(俺やん、俺のことやん……!)」

女子高生B(ボス的存在)「ない」

女子高生C「ないなー」

女子高生A「やっぱないやんな~!」



やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!

やっぱないやんな~!




いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!

やっぱないやんなってなに?

やっぱないって、

前々からイケメンじゃないと思ってたけど、あらためてじっくり見てみたらやっぱりなかった、

のないやん。


お嬢さん、あなたさっきイケメン言うてましたやん。

めっちゃ忖度してますやん!!!

俺のことイケメンって言ったやん!!!!!



なぜこんな悲しい悲しい出来事が起きてしまったのか考えてみると、そもそも人は

自分を曲げてでも相手に合わそうとしてしまう


生き物なのだと思いました。


数年前だと「忖度」、一昔前だと「空気を読む」「KY」なんて言葉が流行りましたが、

特に日本人は周囲と異なる行動をとって拒絶されたり、集団の和を乱すことを避けたがる傾向が強いんですよね。

出る杭は打たれ、長いものには巻かれがちなのです。


そして、聞いたことある人もいると思うのですが、先ほどの女子高生の例が心理学で言うところのいわゆる「同調」でして。

「同調圧力」ってめちゃくちゃ怖いんです。


試しに、以下の図を見てみてください。

「Aと同じ長さのものを選んでください」


めちゃくちゃ簡単です。言うまでもなく、答えは②です。

この問題を1人で行うと正答率99%以上という、極めて簡単な問題なのですが、

これが〝あること〟をすると、恐ろしいことに、正答率がぐっと下がってしまいます。


そのあることとは、そう、

「同調圧力」

です。


あらかじめ回答パターンを実験者から指示された実験協力者が口を揃えて誤った回答をする(例えば「①」とサクラ全員が答える)と、実験のサクラではない唯一の被験者は、なんと全体の32%にあたる場合で、同調がみられたのです!

このような問いを12回やってみて、一度も同調しなかった被験者は、わずか全体の25%。残りの75%は不正解のサクラに同調してしまったのでした。


これは心理学者であるソロモン・アッシュによって行われた社会心理学の古典的実験ですが、

自分が周囲と異なる行動をとることを避けようとする心理によって、同調してしまったわけです。


このことは僕たちの普段の実生活からでも容易に起こりうることで、圧力に屈して同調してしまったということはほとんどの人に経験があることだと思います。

「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉がありますが、これも同調の一種ですし、身近なところですと、駅のホームの階段でも起こりえます。

駅の階段は降りる人用と上る人用に分かれてるところがあると思いますが、誰かが一人、降りる用から上り始めると、そこから他の人も続いて上り始めることも、典型的な同調です。



ところで、この同調圧力というものは、相手との関係性が強いほど、圧力に屈してしまいやすいんです。

なので、逆に言うと、

もし先ほどの女子高生Aさんが、友達ではない隣の知らない乗客に「前の人イケメンじゃないですか?」と聞いていたら、

仮に「ない」「ないな~」と二人続けて言われたとしても、

「いいや、私はイケメンだと思います」
「少なくともこの阪急電車で一番イケメン」
「あとでアドレス聞くつもり」
「英文にCOOL(かっこいい)と出てきたら、この人を思い出してしまいます」

としっかり言えたと思うんですよ。

同調圧力に屈しなかったはずなのです!

……

………

…………

……………

………………


い、いや、そう思わないとやってられないですからね。

だって、俺のことイケメンって言ったやん!!!

うっすら声聞こえてるから!!!!

「やっぱない」ってなんやねん!!!!!






※ここからは補足情報となります。もうちょっとだけ深く知りたいという方は読んでみてください。

1.流行を追うことも「同調」

流行も集団への同調の一種です。流行を最初に起こす人は、自己顕示、個性化、差別化、自己主張の動機から流行を取り入れます。

一方で、流行に追随する人は「社会から受け入れられたい」「社会の一員でありたい」「自分も皆と同じでありたい」という社会的帰属の動機から流行を受け入れます。

自分も皆と同じであることで、人は制裁や懲罰、嘲笑を免れ、安心できるわけです。流行に乗るということは、集団に同調しているということにほかなりません。

あなたが飲食店に入ろうとする時、店内に客が全くいない店と、客で賑わっている店とでは、どちらを選ぶでしょうか。多くの人が後者を選ぶのです。ところが、1人の客が店に入ると、今まで閑古鳥が鳴いていた店がたちまち満員になってしまうようなこともあります。人の行動は、そのぐらい他人から影響を受けやすいものなのです。


2.「光点の自動運動」

ソロモン・アッシュの同調実験以外にも、集団における個人の行動についての興味深い実験があります。それがこの「光点の自動運動」実験です。

暗室の中で静止した光点を見ていると、やがてこれが動いているような錯覚を覚えるようになります。実際には自分の眼球が動いているだけなのですが、視覚の手がかりとなる壁や天井が見えないため、光点のほうが動いているように感じるのです。

心理学者・シェリフは、実験参加者に、光点が何センチ動いたと思うかを、一定の時間ごとに繰り返し尋ねました。

錯覚ですので、もちろん推定値は個人差のせいで大きくばらつきます。ところが、2人、あるいは3人で実験に参加すると、他の人の判断を参考にするため、各人の回答が1点に収斂してきます。

さらにここから興味深いのですが、集団のメンバーを入れ替えてみると、新しく加わった者もただちに集団の基準を採用して判断し始めます。

これを繰り返すと、結局は「第1世代」で偶然できあがった基準が独り歩きして残り、なんと人が入れ替わっても判断値だけが後の「世代」にまで伝えられるのです!

ここからは僕の勝手な考えですが、新入社員の役目はその勝手に作り上げられた文化を染まりきる前に指摘することにあるのかもしれませんね。


3.「色の判断の実験」

ソロモン・アッシュの同調実験を裏返したような研究もあります。

「色の判断の実験」と銘打った実験に参加した学生たちは、6人集団の1人に加えられて、明度は異なるがすべて青色のスライドを、多数呈示されます。

実際には、本当の参加者は集団の中の4名で、彼らの目にはすべてのスライドが「青」に見えています。ところが、他の2名(実験協力者)は、すべてを一貫して「緑」と呼び続けました。

すると、多数者の中にも青色のスライドを見て「緑」と答える者が現れたのです。

しかも、少数者の影響を受けず表向きには「青」と答え続けた参加者も、本人すら気づかないうちに知覚の基準が変化してたことがわかりました。

すなわち、先の実験の後で「別の実験」と称して、今度は青から緑までのさまざまな色を呈示して命名してもらいました。そして、中間色のうちどこからを「緑」も呼ぶかという境界線を計測したところ、先に「緑」と言い続ける少数者と過ごした多数者の参加者では、「緑」の知覚領域が広がっていることが明らかになったのです。

つまり、少数者からの影響は、目に見える顕在的なレベルだけでなく、むしろ知覚現象のような本人にも統制が難しい非意識的なレベルにおいてこそ、観察されたのです。

ちなみに少数者が影響力を持つには、いくつかの条件を満たす必要があります。

ある争点について一貫して異論を唱え続けること、ただしすべての点で「変わり者」なのではなく、問題となる争点以外の属性では多数者と共通点も備えていることなどが重要です。

また、集団が外的な脅威にさらされるなどして変革や独自性が求められ、多数者が自分たちの観点を根本から疑うような状況では、少数者が力を得やすいです。


参考文献:『社会心理学』(有斐閣)『社会心理学がとってもよくわかる本』(榊博文)



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