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「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」とは:コンセプトと展示について

ここ数ヶ月間、チラチラと告知をしていた展示イベント「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」の開催がいよいよ今週末に迫っています。

準備に追われ、なかなか内容の説明や告知を行えていなかったので、今回のnoteではイベントに至った経緯やざっくりとした概要を説明します。

イベントに至った経緯

まず今回のイベントは、僕が10月に新しく立ち上げた会社であるCANTEENと、モバイル決済サービスのCoineyやECサービスSTORES.jpを持つ「hey」社での共同開催です。

いつもRhetoricaポコラヂの活動を追いかけてくれている加藤くんが、今年の春ごろにこのアイデアを持ちかけてくれて、さらにheyの松本隆応さんを紹介してもらえたことでこの企画がスタートしました。

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松本さんによる本イベントに向けた「デザイン」に関するnote

「思想/建築/デザインを架橋しながら批評活動を展開するメディア・プロジェクト」を標榜するRhetoricaというグループが、heyという成長真っ只中のスタートアップ企業と共同でアートやデザインのイベントを行うという形なので、他の集団にはできないような、批評性を備えたイベントにしようとは考えていました。

またちょうど、Rhetoricaや僕個人の音楽系のプロジェクト、その他周りのプレイヤーと一緒に回す仕事をまとめるビジネスドメインを作ろうと画策していた時期でもあったので、、自分に発破をかける意味合いももたせつつ今回のイベントを企画し始めました。そのビジネスドメインというのが、今回の主催でもあり自分がやっているCANTEENという会社です。

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CANTEENという会社はウェブのAbout欄にもあるように、プロジェクトを企画/運営し出資してくれるクライアントを、実際に制作や人の前に立つアーティストと並列に扱うことのできるプロジェクトを行い、両者にとって健康的な体制/環境でプロジェクトを企画進行することを一つの目的としています。

CANTEENは、パートナーであるクライアントが「アーティストのように自らの意志と個性を発揮する」ためのサポートを行い、価値ある成果を生み出すディレクション・チームです。ボードメンバーは、全員がレーベル運営やメディア制作、アーティストマネジメントに従事。数多くのアーティストと協働しながら、現在もカルチャーの最前線にコミットしています。CANTEENは、アーティストという個性的な存在と向き合いながらビジネスをドライブさせてきた経験を元に、パートナーの個性を最大限に引き出し、プロジェクトを最適な形にリードします。

これは自分がTohjiやMall Boyzといったアーティスト・マネージメントを行なっていることや、同じくボードメンバーのtomadMaltine Reocordsを主宰しているというスキル視点の話でもあります。しかしそれ以上に、少しづつでも東京のカルチャーやクリエイティブ産業を変えていきたいという、僕ら自身のマインドの話にも関わります。

(10月のポコラヂ『CANTEEN特集』の時に喋ったのでまた別の機会にnoteにまとめようと思いますが)僕はシンプルに、こんな風に考えています。

日本のクリエイティブ産業(特に広告業界)は、モノや価値を新たに作り出す「アーティスト」という存在に、これまで以上にリスペクトを払って主導権を握らせるべきである。そして、そのためにお金を出すクライアントや、そのマッチングをする広告代理店、メディア、クリエイティブ・エージェンシーとアーティストが、同等の立場でプロジェクトを遂行できる環境を作るべきである。

大仰かもしれませんが、それができなければ、東京のクリエイティブ産業やカルチャーがサステイナブルに新しい価値を提示することは難しいだろうと考えています。

以上の意図がありつつ、自分たち(CANTEEN/Rhetorica)の価値を評価してくれたhey社や発起人である二人と意気投合し、今回の企画が始まりました。一番最初に見せてもらった企画書にも以下のスライドがあり、お金に関する事業を行なっている会社と一緒に、アートやデザイン視点でお金を批評的に考えるというコンセプトが固まっていきました。

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イベントのコンセプト

前置きが長くなってしまいましたが、ここからは今回のイベントのコンセプトや目的を説明していきます。

今回関わっていただく企業やアーティスト、登壇者の方々にこのイベントについて説明するとき、「いま予想されているお金の未来に疑問を持ち、そこで失われるものを見つけるためのリサーチ」という定義をしていました。

現在ビジネスやITという文脈で言及される「お金」は、非常にポジティブで透明でスムーズなものだと思います。僕もほとんど現金を持ち歩かない生活をしていますし、ウェブ上で支払いやお金のやりとりをできる現在の状況に、非常に大きな恩恵を受けていることは事実です。

しかし「お金」本来の役割やそれを取り巻く慣習を考えると、お金はそんなに透明なものばかりない気がします。すぐ頭に浮かぶもので言えば、「ツケ」や「へそくり」。「お金」は、なんとなくごまかしながら使うものでもあるはずです。

完全にキャッシュレスの世の中になった時、僕たちが今日常的に使っている「ああ、今度でいいよ。なんかで返して。」という些細な一言はどんな意味を持つのでしょうか。そもそもあらゆる取引が記録される世の中では、そんな会話は存在しなくなるのか……そんな疑問に立ち止まることが、今回の企画の出発点だったような気がします。

hey社を取り巻く最先端のビジネスシーンにおいては、当然ながらスムーズでクリーンな「お金」像が主流なはずです。そんななかで、今回hey社(特に佐藤さん、佐俣さん)がこの企画に賛同してくださったことは、僕たちにとっても社会にとっても非常に意味のあることだと思っています。

以上のような背景に加えて、世の中に数多ある「お金」に関する本やイベント、展示からみると相対的に後発な僕らが、どのような新しい論点や議論を積み重ねることができるのか。そう考えた時に今回の展示のコンセプトが生まれました。

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今回のイベントの準備をしている時に、冗談半分で氷山の一角の画像をスライドによく入れて議論を進めていました。

①新しい文脈や固有名詞を持って帰ってもらう。
②理解や共感というよりはポジティブな意味で「ショッキング」な状態になってもらう。

しかしそれは、企画段階で明文化された上記の2つの目的を考えると、それほど大げさなものではないと思います。

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今まで見えずになかなか掴むことのできなかった「お金」について考え、気付き、新たな視点を持ち帰ってもらうこと。それが「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」というタイトルに込められています。

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イベントの展示

本イベントは大きく分けて、トークと展示の2つのセクションで構成されています。

両方ともここまで書いてきた「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」というタイトルに込められた内容に紐づいており、だいぶ幅はありますが面白い並びになったかなと思います。

このパートでは展示に参加してもらった作家について簡単に説明したいと思います(*画像は今回の展示作品ではありません)。

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川崎和也・太田知也・佐野虎太郎「全滅する気がないなら、交雑せよ」

川崎和也、津久井五月、太田知也、佐野虎太郎「表参道絹行──織物によるお金の“再発明”」
従来的な交換経済へのオルタナティヴとして、本作では“贈与経済“を主題としています。「円」ではなく「縁」が信用を媒介し、紙幣ではなく絹織物がモノやコトの価値を表現する──そんなもう一つの経済システムが存在する「シルクパンク」の世界観を描きます。ファッションデザイナーとSF作家が恊働して制作するデザイン・フィクションです。

川崎和也は今回のイベント以前から親交が深く、その他のプロジェクトでもいくつか協業しているデザイナーです。スペキュラティヴ・ファッションデザインをコンセプトに掲げ近年H&M財団・グローバルチェンジアワード・アーリーバード特別賞Forbes 30 Under 30 Japan選出など怒涛の活躍ぶりを見せています。そんな中で、今回の展示への参加も快諾してくれたとても心強い作家です。

本イベント全体のアートディレクションを手がけてくれている、Rhetoricaの太田くん、小説『コルヌトピア』でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞したSF作家・津久井さん、ポストヒューマン的身体をテーマとするデザインリサーチャーの佐野さんと共に、チームとして「贈与経済」を主題とした展示を行なってくれます。

作家の顔ぶれとしても、テーマとしても、デザイン・フィクションやクリティカル・デザインといったRhetoricaにとって馴染み深い手法を用いた批評的な作品になりそうで、個人的に見るのがとても楽しみです。

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Rhetorica「津和野デザインリサーチ」

Rhetorica『マネー・オーパーツ』
進化するテクノロジーの裏側で、失われゆく契約と信頼の慣習。惜しむでもなく、厭うでもなく、”かつて新しかったものたち”を標本のなかに閉じ込める。

我々Rhetoricaも作品を発表します。本展示のイントロダクション的な位置づけの作品ということもあり、イベントのコンセプトに忠実な作品を制作しました。「お金」のあり方が変化していくことによって、お金や契約にまつわる慣習や行動がどのように変質するか、ということに焦点を当てた4点の写真作品になる予定です。

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髙橋銑「池袋の空をちょっとだけ広くする」

髙橋銑「財と材」
毛も肉も材としての価値をもつ羊をモチーフにあえて作品(財)を制作し、材と財の閾を問う表現を試みる。これは突き詰めると作品とは何かという問いかけなのである。

ここからの二名は、キュレーターの高木遊くんに紹介していただいたアーティストです。高木くんは先日行われた京都府立植物園での「生きられた庭|Le Jardin Convivial」展などにも主催しており、みなぎるバイブスと行動力でこのセクションを牽引してくれた驚異の(!)キュレーターです。

彫刻家・現代美術家である高橋さんのことは、実は2016年にフラっと足を運んだ「COLLAPSE EVE」という展示で見知っていました。今回の企画で高木くんから名前を聞いた時に、点と点が繋がったような感慨深さがありました。今回は、「お金」というテーマをぐっとアートの文脈に引きつけて制作してくださっています。直球のアート作品が他の作品やトークと同じ空間に配置されれた時、今回のテーマにどのような視座を与えてくれるのか。個人的にとても楽しみです。

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坂口直也「Shutter-Guy Decade」

坂口直也「渉外-Show-Guy-商売」/「生甲斐-IKI-Guy-意気概」(仮)
値段のないものを売る、アートを売る、デザインを売る、思い出を売る、自分を売る。 価値とは何なのか? 働くということ、お金を稼ぐこと、お金を使うこと。 原宿のキャットストリートという日本における代表的なファッション、ブランドを扱うエリアにおいて、表現を展開する。お金という労働の対価は個々の消費により循環する。 坂口は「Show-Guy」という男になり、過去の表現、思い出の品、はたまた自身を売ることにした。

現代美術作家の坂口さんも、同じく高木くんから紹介されたアーティストの一人です。坂口さんは資本主義社会における交換の仕組みについて、毎回土地ごとの特性を生かした作品で問いかけを行なっている方なので、表参道というハイソな土地をお題としたときに、どんな作品が生まれるのか非常に気になります。

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齋藤恵汰「HOUSE 100」での展示風景

齋藤恵汰「総額100万円】10万円を色々なものと交換してみた」
ある社長がお金と物を交換する映像作品。YouTube等の現代的な映像編集スタイルで擬制商品(紙幣)をお金でないものと「物々」交換する。出演:としくに(渋都市株式会社代表取締役市長)制作:渋都市株式会社

パフォーマンス的な要素の含まれた作品もあって欲しい。そんな風に考えて、渋都市の齋藤恵汰さんにも参加していただきました。テーマは「物々交換」。映像はまだ見ていないのですが、出演者のリストをいただいた時点でかなり不気味なものになる予感があります。個人的には、YoutubeやSNSなどのプラットフォームを対象化した作品になっているところが興味深いです。

普通のホワイトキューブやギャラリーで見ることのできる展示に比べて、若干カオスなものになってしまうかもしれません。が、他では絶対に見ることのできない並びになったという自信もあります。

この記事を読んで少しでも内容に興味を持っていただけたら、ぜひ以下のリンクからチケットを買って当日遊びに来てくれると嬉しいです。

次回は後篇として、イベントのトークについて簡単に説明していければと思います(記事はこちらから)。

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