ライライフ

私の人生は他でもない自分への嘘だらけだ。


他人を守るために自分を捨てた嘘をつくことは簡単だった。


他人を助けるために自分に嘘をつくのも簡単だった。


他人を傷つけるより自分を傷つけるほうが何かを守れている気がしていた。


正直になりたかった、素直になりたかった。 

つくづくめんどくさい人間だと私も思う。





どうしてわたしはわたしなんだろう。



ひとりきり、ワンルームのマンションでカーテンは閉めたまま膝を抱えて考える誕生日。

昔から存在感なんて薄いし、
人と関わるのが苦手だと思ってきた。

『生まれてきてくれてありがとう』

他人には思えるのに自分には思えない。
そういえば学生時代、『生まれてきてくれてありがとう』って言葉に憧れていた。
唯一言ってくれた祖母はもういない。 

誕生日か。

誰かに 誕生日を祝って欲しかったし、
大声でわたしは誕生日だと、言いたい。

でも人は忙しい。みんな忙しい。

「しょうがない」と呟く。

カーテンの隙間から注がれたオレンジがかった太陽の光さえ鬱陶しい。べつに光なんてなくてもいい、わたしはみんなの影として生きていくんだから。

そう言い聞かせてきた。



小学生の頃、 ほんとは合奏発表会で女子から人気な木琴を叩いてみたかった。木琴の定員は5人。
やりたい子はわたしを入れて6人。
わたしが諦めれば、みんなが楽しめる。
わたしだって、やってみたい気持ちは負けてない。




だけどわたしは気づいたらリコーダーを吹いていた。


木琴じゃなくても、ここに居れるならいいと思った。リコーダーも陰で支える美しい楽器なんだ、と念じた。それで満足だと。



陰としてでもいられるならばわたしはそれだけで満足だと思うようにしていた。居場所があるんだから。



部屋の中を歩けば、やけに目に付くものがある。

満タンだとおもっていたはずのシャンプー。
もうすぐでなくなりそうだ。


買い換えたばかりのはずの歯ブラシ。
もう、傷んで先っぽが広がってしまっている。


すぐ洗濯したのにシミが残ったままのシャツ。
やっぱりクリーニング屋さんに出して白さを取り戻さねばならないのかとすこし気持ちが落ち込む。


外に出てみるとやっぱり太陽がわたしを笑っているようで泣きたくなる



近所のコンビニでちっちゃいケーキを買う
ちょっとのバイト代がちいさなケーキに吸い込まれる


店内ラジオで流れる ちょっと前に流行った曲。
流行は人生のうちのたった数分にも満たない長さだ。
バズった、トレンドのファッション、JKブランド.......
通り過ぎて行く。


私がついた一番の自分への嘘が思い出される。

あのときも見た目は幼いながらに 人生の儚さを感じた。

『寂しくない』

壊すことが簡単な人生だ。

一度間違えると 後戻りできない。


中学生時代、唯一信頼していた友達、先生。
友達は顔が広くて私と対照的だったけど
私と話してくれるから 友達だった。成績も良いし高校の推薦をとることを目標に頑張っていた。
目標に向かって頑張る友達がキラキラしていて好きだった。

先生は 家庭環境が複雑な私に 
いつでも味方だと言ってくれた。
私は祖母とふたりの生活費に余裕がなかったから
友達はお小遣い稼ぎのために
ふたりでひっそりバイトをした。
それなりにがんばっていたと思う。
お互いにすこし大人になった気がしていた。

でも現実はキツいものだ。

クラスメイトにバレた。
友達は「彼女に手伝わされた」と言った。
クラス全員が私を最低なやつだと言った。
確かにそうだ。違反だし。

先生に呼び出された。

私の顔を見ようとせずに、『自分は悪くない』というような主張を重ねていく友達。『私はやりたくなかったのに』と言う彼女を見て察した。

裏切られた、と。



「先生、ごめんなさい。私がいけなかったです。わたしがが一方的にやらせました。」


気づけば出ていたセリフ。
本当は一緒に責任をとって欲しかったけど、
自分がいけないと思い込んで、自分が責任をとればいいと思った。

先生は残念です、とだけ呟いた。


それっきり 友達は 友達「だった」人になった。

祖母以外の他人...せめてこの友達と先生くらいは自分を全部受け止めてくれるめのだとおもっていた。
もう人に絶望したくなかった。

どこで私は人に期待してしまっていたのか。
泣きたいけど涙は出てこなかった。


私がつらくても、友達はいい高校に進学した。
もう他人には諦めの気持ちさえ湧いてきた。


そのうち、心の拠り所だった祖母を亡くした。
泣けなかった。悲しいのに。

『ひとりでも寂しくない』と思いこんだから。
感情を殺してしまった。



この私の嘘でできた思い込みも後戻りができないほどに加速してしまった。気づけば人と関わることはもっと苦手になっていた。


そこまで希望をなくすなっていう
赤信号が出ても、進み続けて、

いまは正直に生きろっていう
青信号が出れば止まってしまう



自分についた嘘は世界を
脱色させてしまった。
もう一生、私は陰だ。


なにがなんでもこの重荷は背負っていく。


ほんとうはすこし自分に正直になるのが嫌だった。



自分に嘘をついて本当に何かを守れているのだろうか?


コンビニを出て、そんなことを考えながら歩いていくと、力をなくした夕焼けが夜の空に混ざりあっていた。


夜の色はあっさりさっきまでの柔らかい光を吸い込んでしまった。


光も闇もそれぞれの役割があるし、
みんな、光は希望を、闇は絶望をイメージする。


私は居場所が闇でもいいから、陰でいいからと夜空を見上げれば 夜の闇はわたしに笑いかけていた。


星々が私に話しかけているように見えるこの空
月が「そんなことない」と微笑んでいるこの空

そうか。

夜に星が輝くのは、希望のかけらを与える為
月が優しい光を注ぐのは、道を見失わない為



自分に嘘をつくといくつも道を間違えてしまう、
人生を間違えてしまったように思える。


でも暗闇じゃない、
迷い込んだ迷宮の出口は必ずある、元の道には戻れるんだ。


ちょっとの勇気と、気づきがあれば。



私も、この嘘は貫き通さなくていい。




人は誰しも陰ではない、 誰かの影だ。


誰かの存在を 認めてあげる影だ。

考えてみれば自分は、正直になることで見透かされているような気がするから怖かったんだ。
人と関わるのはこわい。


自分を傷つける嘘で、 
わたしはわたしを守っていたのだ。
見透かされない為に。

自分が傷つけばいいんだと勝手に思い込んで
嘘をついて、納得させて、他人との距離を縮められない。

そんなんじゃ また、傷が増えてしまう。
嘘の鎧なんていらない人間になりたい。


きっと明日もわたしはそう願う。


人が影としてあれることは、誰かの光になっている。 
夜の闇の中、太陽の光を受けた月が輝くように。












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