舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲」の感想


上演期間中に長文感想を残しておきたかったので書いてみます。
見たのは2/18夜の配信です。

1番衝撃だったのはもちろん……

吉谷さんがえらく不穏なツイートをし続けていたので覚悟していたけど、まさか主役を最後の最後で死なすとは。
安吾も一緒なので檀くんが史実通りに取り残される。文劇ってこういうの好きだな本当。
2人は晴れやかで救いもあったし、全体のストーリーとしてはちゃんと面白かった。
ハピエン好きとしては「文劇らしさがあって熱い話だったけど何かが突き刺さって抜けないんだけど!!!」とそれなりのダメージを受けた次第ですが。
個人的にはナシ寄りのアリだけど今後はやめて欲しいところ。
客の情緒乱して楽しんでるとか、そういうことはないですよねまさか。
人が死んだらショックなのは当たり前なので、安直な方向には走らないで欲しい。
せっかくクオリティの高い演劇を作れているのだから。


主人公・織田作之助への個人的解釈

オダサクが原作に比べてふわふわだらだらしているのは、彼の中の「文豪」「無頼派」という意識がすごく薄く、太宰がいないと存在の確立も危ういからだとは冒頭の語り等から察した。
文壇での地位や文士同士の人間関係に頼りないものがあり、無頼派の象徴である太宰と図書館にいる安吾という、数少ない意気投合した文士に寄りかかってしまうのも仕方ないと思う。
原作で言うと、文學界の中にいるときの北村透谷の「島崎藤村への執着と依存」のような。他の文豪との交流や興味の対象が増えることで改善される類いの物。
原作では室生犀星や三好達治も初期実装文豪にいたし、バランスが取れていたのかもしれない。
少なくとも「彼の史実や著作を深く理解していないと納得できない」ものではなかったかな。
ちょっとショックな状態ではあったけど。不調や不安を隠して明るく振る舞える人だからね彼は。

出来過ぎている男・檀一雄

檀くん推しとしても、劇中の彼はとんでもなく出来た男に見えました。
熱海事件の都合の悪い部分を伏せてるのはいただけないけど(2人で一緒に遊んだから宿代がなくなったはず)。
オダサクよりも色々こなせて太宰との絆も深いことを見せるための出来の良さかもしれない。
直くんを身を挺して助けたり、白秋先生を偽物だと看破したりと大活躍したのもそのためか。
危なっかしい面があることも明らかにはなるけど、文劇6で1番評価が上がった文豪なのは間違いない。
原作では無頼派4人で寝正月して太ったりと、ふざけたこともしてるけどね!
また出番があるなら、春夫先生や井伏先生との共闘が是非見たいところ。
白秋先生にきちんと敬語を使うけど、疑念が深まると敬語じゃなくなりつつあったところ……かなり好きなのは私だけでいいです。

プロレタリア組について

あらすじの時点できわどいところを攻めるなとハラハラしてたけど、蟹工船への潜書シーンでは2人の性格やプロレタリア文学の特性をしっかりと示しつつも熱い展開になっててとても好きです。
船上の演出や操られた労働者との戦いは、繰り返し描かれてきた潜書シーンから変化があって良かった。
無頼派と同じく象徴の人物が欠けているけどそれを引きずらないのも、オダサクとの対比になっててとても上手い。
他の人々を掘り下げることで主人公の異質さも際立っていくという描き方、本当に好きです。
ところで、しげじって駄洒落に弱い設定とかあったっけ。
文劇3に彼がいたら、朔太郎先生もギャグを外さなくて済んだだろうね(何の話だ)。

演技上手い人しかいない

MAHIROさん演技初挑戦とか嘘でしょ。滑舌や声の出し方はまだ成長の余地ありではあったけど、身のこなしは文句付けるところがなかった。
飲み込みが速い上に努力もたくさんしたんだろうな。
共演者の指導や文劇皆勤組の町田さん&多田さんの仕込みの成果でもあるんだろうけど、将来有望すぎる。文劇6が終わった後も応援してます。
赤澤燈さんは完璧に檀くんに寄せた演技をしてくれてましたね。
第一声で「あっ、檀くんがいる」と一気に引き込まれました。大剣を難なく振り回して戦うのもまさに檀くん。細かい所作も全部檀くんだった。
最初は身長が10センチ以上低いことに不安もあったけど、舞台上では全く気になりませんでした。
反橋さんもMAHIROさんを気にしつつも直くんらしい演技をしっかりこなしていて、新人指導を兼ねたキャスティングに唸りました。
動きの機敏さとダイナミックさが素晴らしかった。
真白さんは心平乗り移ってるしぎゃわずと一緒に生きてるし何よりめちゃくちゃ可愛い。そして顔が綺麗すぎる。
佐藤永典さんは白秋先生からずらした演技が上手い……館長なんだとほんのりわかってしまう差の出し方……ちくしょう白秋先生として戦ってるところが見たかった!!!!!

文劇3の再来

太宰のポジションがオダサクになった文劇3、という面も強かった印象。
ドピンチのときに文劇3のテーマ曲使うの本当にやめて。トラウマです。そろそろ劇館長のテーマ曲になってしまう。
賛否両論凄まじかった回をなぞるということは、こういうのやるのが癖になったのかな。
演出家も脚本家も世界観監修も荒れ方を見て味を占めたように思える。
作劇しやすいのはわかるけど、個人的にはちょっと勘弁して欲しいですこの路線。
「仲間割れが発生しない文劇4」くらいが丁度いいので、その辺に戻してくれないかな。

ここだけははっきりと批判する

白秋先生ほとんど館長のなりすましじゃないですか!!!!
私は北原白秋が見たかった。文劇3で見た、優雅で堂々としていて何もかもを包み込むけど戦闘での殺意はマシマシな白秋先生が大好きなんです。
とっても期待していたので正直がっかりですよ!!!
またやったら許さないレベル。今はnoteでおこるけどアンケートでもおこるよ。
佐藤永典さん演じる「北原白秋」がしっかり堪能できる回を、今後制作してくれることを願っています。
文劇10くらいまで続くと信じて!!!

でもやっぱり

文劇は間違いなく面白いと思っています。
色々批判も書きましたが、挑戦的な展開も歓迎してます。
でもキャラクターを大事にして欲しいし、もっと違う展開もできたんじゃないかといろいろ考えてしまう。
次があるならまた絶対傑作にしてくれる、という安心感はもちろんあるのだけれど。
何はともあれ、末永く続いて、推しがどんどん出ますように!
正岡一門双璧のW主演とかどうですかね!!!
白樺派4人が勢揃いするのもいつまでも待っています。


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