見出し画像

【強きをくじけ】『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』 斎藤惇夫/著(岩波書店)

恐ろしいイタチに立ち向かい、残してきた家族と仲間たちを救え。
ドブネズミのガンバが、広大な海を知り、冒険に魅了されていく。その体験を読者も味わう事ができるようなリアリティー溢れ、心揺さぶられる冒険譚。


おすすめ度・読者対象・要点

おすすめ度:★★★★★
読みやすさ:★★★★☆
推奨は小5・6〜中学生。
読める子なら小学3年生からでも。
読書感想文にするなら、中学生まで。道徳っぽい話ではなく、純粋な物語のため。
物語として楽しむなら、中学生以降でも十分面白い。大人も楽しめる。
読み聞かせよりは、自分で読むのが面白い作品。

あらすじ

ドブネズミのガンバは、ケンカが強く、今の住処を大変気に入って暮らしていた。
ある時、友人に誘われて、港に停泊している船で船乗りネズミたちのパーティーへ忍び込み、どんちゃん騒ぎをする。するとそこへ、ボロボロになったまちネズミが現れた。
そのまちネズミの名前は忠太。島で暮らしていたが、恐ろしいイタチのノロイが現れ、命からがこの船に乗り込み、船乗りネズミ達に助けを求めてきたのだ。
けれども、船乗りネズミたちは誰1人として助けに向かおうとしない。ノロイは大変有名なイタチで、まやかしを使うとも言われ、恐れられていたのだ。
けれども、ガンバは忠太の仲間を救うべく、周りの反対を押し切って、1人島へ向かうのだった。

好きなポイントと注意点

一度冒険に出てしまったら、一生冒険を続けるのが運命ってものよ。

『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』 斎藤惇夫/著(岩波書店)

冒険に伴うドキドキ・ハラハラというような、心揺さぶられる経験を読者も一体になってできる。言葉を素直に飾らず、しかし巧みに構成された良作。
無駄な表現が少ないので、淡々と読めるのに面白い。
特に後半、イタチの最恐であるノロイと対峙する局面からはページをめくる手が止まらなくなる。

一番リアルさを感じることができるのは、自然の体感表現だろう。
とても具体的で、読者も海に行きたくなること請け合いである。

また、最近はやりの擬人化を使用していないのも特徴的。だからこそ、リアルで、ネズミたちの必死さ、イタチの奇怪さをを感じることができる。
特に本作のイタチ、特に最恐であるノロイは本当に不気味である。

本作で好きなポイントは他にもあって、それはリーダーとそれを支える仲間達だ。

「いやガンバ、おれたちは従う。そのあとは別にいわなくたっていいんだ。おまえの決断は、おれたちみんなが責任持てばいいんだ。心配すんなよ。」

『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』 斎藤惇夫/著(岩波書店)

リーダーというのは色々な形があるが、カリスマ性に溢れた専制型ではなく、民主主義的な選任性に近い。

ガンバは確かに強いが、それを支える次のリーダーがいて、そして彼らを尊敬しついて来てくれる仲間がいる。その尊敬は崇拝ではなく、リーダーも仲間を尊敬している。
けれども、ガンバはいざとなったら全員を引っ張っていくだけの勇気や決断力がある。

彼らの結束力は、人の団結力を上回るようにも感じられる。

注意点としては、魔法等は出てこない、純粋な冒険物語であるという点。
唐突な恋愛要素もある。

最近には抜きん出た特徴を持つ物語は少ない。冒険物語でありながら学校生活の要素があったり、家族があったりするが、そういうのはほぼない。
だからこそ集中して楽しめる、とも言えるかもしれない。無駄なものはほぼ削ぎ落とされ、ぐっと冒険を楽しめること請け合いだ。読者に優しい作りだと思う。

余談

よせよせふたりとも、口にださなくていいことはださねえことだ。おたがいに、そんなことは聞いたってしようがねえ。
島にくる動機だとか、きっかけだとか、そんなことどうだっていい。おれだって自分の心なんざあわかりゃしねえぜ。無理することはない。
いってしまったらどうせうそになる。おれたちはここにきた、そしていよいよおおづめ。それで十分だ。

『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』 斎藤惇夫/著(岩波書店)

「男と男の語り合い」とでも言うべき渋いやり取りだ。

最近ガンダムの押売りを受けて、少しずつ履修している。
恥ずかしいかな、私は血やグロテスクなこと、物語が破綻しかけるものが(破綻しているのはもちろん)苦手。戦争ものは特に見れない。また裏を返せばそうだとして、全てがボーイミーツガール、世界のためが1人の女性を愛すあまりに狂わされていく、というのも受け入れ難い。
人生はそれだけじゃないだろう、と思うからだろうか。
あとは主人公が子どもであった時に、大人に振り回されそれで終わる、爪を立てて傷をつけただけ、というのも虚しくなってしまう。
ちなみに、その中でも好きになれたのは、近作の「水星の魔女」。ガールミーツガールではあるが、恋愛が全てではなく、仲間のため、そして何より自分たちで世界を作っていく学生達というのに好感を得た。あとは、最後はなんだかわからないすごい力が働きました!がだいぶ和らいだのもいい。今の初心者には向いてる。
ちなみに、ガンダムの機体はそこそこ好き。かっこいいよね。

なんでそんなことを言っているかというと、この本にはちょっとだけボーイミーツガールがねじ込まれるところがある。連載小説でもなかっただろうに、どうした?と思ってしまった。
ただ、ある人に言わせれば、それがいいのだと。恋は唐突なのだと。そしてそれで何よりも勝る勇気や力が湧いてくるところにトキメクのだと力説されて、なるほどそう言う見方もあるのだな、と見解を改めた。

そういうシーンがジャンプ漫画のような「友情」「努力」「勝利」にねじ込まれているとキュンとくる人は、この本は多分ハマる。
台詞まわしもジャンプっぽいところがある。正しくは、ジャンプっぽいというのが、この作品に似ていると言うべきか。(できた年代的に)

この作品は古典とは言わないが、かなりロングセラーで長く愛されている割と古い作品だ。読み応えもあるが、ライトノベルや青い鳥文庫のような軽さはない。
しかし無駄が省かれていて、大変に読みやすい。読了感は保証する。
この作品を読んで、他のロングセラー作品へアプローチをかける足がかりにするのも悪くない。

これまた余談だが、みな漫画は読めて小説は読みにくいという。時間がかかるからもったいないとも。
さてはて、本当にそうだろうか?

ガンバの冒険は早い人で3時間、遅くともだいたい6時間で読める。
この量と質を他の作品で喩えるなら、近作では『鬼滅の刃』無限列車か遊郭編のあたりまで、巻数にすると11〜13巻のあたり。1冊15〜30分はかかるから、早くて3時間、普通に読んで7時間。ちなみに、アニメにすればどれだけかというと、1期+映画2時間+2期分。時間計算は割愛する。

要するに、本を読むことと漫画を読むことの時間的問題は、ほぼ同じだけかかっているといっていいだろう。
映像にすれば楽なようでいて、実は効率が悪いと言えるだろう。
漫画を読む感覚で、ぜひ小説にもトライしてみてほしい。

ちなみに、漫画もたくさん読むので『鬼滅の刃』は全巻持っていて2周はしました。
いつか漫画紹介、アニメ、映画の紹介なんかも、息抜きにしてみたいですね。

この記事が参加している募集

読書感想文