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電力インフラの安全とレジリエンス

 今年、アメリカの西海岸で起こった大規模な山火事。カリフォルニアだけで410万エーカー、日本で言う首都圏地域ほどの面積が焼失した、大規模火災となりました。

カリフォルニアの火災規模が一晩で2倍となり、9万世帯に避難勧告

 日本ではあまり話題になっていませんが、この火災が、これからの電力インフラのあり方を大きく見直すきっかけになっていきそうです。カリフォルニアでは過去にも、大規模な山火事が何度か起こっており、その原因が送電線の破損によるものであると特定されています。

【アメリカ】電力大手PG&E、カリフォルニア山火事の賠償請求で1.5兆円の和解成立。会社更生完了目指す

 そして、今年の山火事では、PG&E社やサザンカリフォルニア・エジソン社が、二次災害のリスクを回避すべく、計画停電を行うという事です。

PG&Eは、カリフォルニアの火災リスク回避のため、48,864人の顧客の電力を停止する可能性

山火事を防ぐため、カリフォルニアで数世帯の停電

 これら一連の出来事で、

・大規模電力インフラのリスク
・分散電源によるレジリエンス強化

の議論が活発化していきそうな動きがあります。

カリフォルニアの停電が、利用者に太陽光発電と蓄電池の設備に向かわせる

●日本の電力インフラのリスク

 山火事ではありませんが、日本でも最近、送電設備の老朽化で火災があり、大きな社会問題となった事がありました。2016年、東京に大規模停電をもたらした、OFケーブルの火災です。

送電線の火災事故を検証、ケーブルの油圧が事故前に低下

 日本は安全基準が厳しく、メンテナンス技術も海外より優れていると言われます。しかし、どんなに技術が優れていても、人が行う事にミスはつきものです。

 また、特にこの業界は人手不足で、未点検となっている設備も多いと言われています。ドローンなどを使用した保守など、技術開発も進められていますが、今後十分な保守が行えない状況が増えていかないとも言えません。

 幸い日本では、電力設備に起因した山火事というのは今のところ無いようです。それは主に、以下の理由によると考えます。

・例えば送電線が破断したり、樹木への接触などで地絡した場合、すぐに検知して遮断できる仕組みがある
・夏の気温が高い時期は湿度も高く、火災リスクが比較的低い

 しかし、今年のカリフォルニアの火災で注目されたのが、火災リスクを非常に高めることとなった、高温・乾燥の気象条件です。一部では、地球温暖化による気候変動が原因であるとも言われています。

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  そして、日本も単調な変化ではないにしろ、実は温暖化による気温上昇とともに、相対湿度が減少する傾向が見られています(上図)。ここ数年は、海水温の上昇で湿気がもたらされており、その関係で湿度上昇の傾向が見られていますが、長期的に見るとどうなるか分かりません。

 特に、日本の場合は夏場よりも、乾燥した冬場や、風が強い春の方がリスクが高くなります。冬場は西高東低の気圧配置で、特に太平洋側は乾いた風が吹き、気圧が交互に入れ替わる春は特に強い風が吹くため、火災が広がりやすい条件となります。

 今後の気象状況の変化で、より火災が起きやすくなる傾向になるとすれば、「そもそも火種となる事故を起こさない」という本質的な安全性が求められていく事も考えられます。

●大規模設備に依存するリスク

 大規模な電力設備は、損失低減のために高電圧化せざるを得ず、その分本質的な危険性が増すという問題があります。それと同時に、今回のように幹線設備の停電を余儀なくされる場合、その影響が広範囲に及びます。

 日本でも 2011年の福島第一原発の事故後、原子力発電所を停止した事で関東への電力供給が一気にひっ迫し、計画停電が行われました。2018年の北海道の胆振東部地震でも、苫東厚真火力発電所の停止や、送電線の事故により大規模停電が起こりました。

 さらに、2019年の台風19号による千葉県での大規模停電、今年の台風10号による九州での停電がありました。今後、どれほど自然災害が発生するは明言できませんが、気候変動の状況からして、減少する事は考えにくいと思います。

 そうすると、労働人口も減少する中で、大規模な設備の維持・運用が難しくなっていき、従来のインフラ整備の考え方では、リスクが高まるばかりであることは明白と言えます。

●法改正が進む電気事業法

 そこで、日本でも今年、電力インフラのレジリエンス強化を目指し、電気事業法の法改正を進めるための法律が可決されました。

「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑥再エネのポテンシャルを全国規模で生かすために

 狙いを簡単に述べると、これまでの FIT法 (再生可能エネルギによる発電電力量の固定価格買取制度)により、各地に分散型の発電所が設備されてきたわけですが、それらを主力電源とするべく活用していこうという事です。

 この詳細はまた別の機会に述べたいと思いますが、世界各地でも、再エネ電源を中心にマイクログリッド(小規模電力系統)を構築していく計画が、ここ数年で急増しています。

南オーストラリア州の系統終端でのグリッド形成事例が、世界中で模倣されている

 現在、アメリカ大統領選が注目されていますが、その結果がどうなろうとも、この流れはおそらく止まらないと思います。

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